
「美しい肌でいるために、多くの女性が時間をかけてスキンケアに努めていると思います。ところが、手の込んだケアが効果を発揮するかというと、残念ながらそうではありません。むしろ、肌を老化させる可能性があります」
そう話すのは、“肌の再生”研究に長年携わっている形成外科医の落合博子先生。
化粧品は肌に浸透してはいけないもの
世の中にあふれる美容方法には不要と感じるものも多く、それに惑わされて逆に肌荒れを招いてしまっている人が少なくないと危惧している。
「世の中には新しい化粧品が次々と登場していますが、選ぶにあたっては、肌と美容常識に関する正しい知識をぜひ知っていただきたいですね」(落合先生、以下同)
そのための第一歩は、肌の仕組みを知ること。
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「肌は、真皮と表皮からなっており、表面にあたる表皮はさらに4層から構成されています。“肌へ浸透”と謳うスキンケア用品は多いですが、この“浸透”とは表皮の一番外側の角質層までのこと。
たくさんつけたり、パックをしたところで基本的に化粧品の成分がその奥に届くことはありません」
しかも、角質層はやがて剥がれ落ちる、いわば“死んだ細胞”。いくら水分を与えてもスポンジに水を含ませたのと同じで、少しの間はふっくらしたように見えるが、そのうち蒸発してなくなってしまうだけだという。
「ガッカリするかもしれませんが、むしろ“浸透しない”ことこそ肌本来の機能。角質層が身体に異物を入れないように防御の役割を果たしている証拠です。
もし、さまざまな成分が角質層をすり抜けて侵入してしまえば、アレルギー症状を起こすなど命を危険に晒(さら)すこともあります」
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肌ケアは「やる」より「やらない」ほうが効果的
ケア用品を増やして、たくさんの美容成分を肌にのせること自体に慎重になるべきと落合先生。
「化粧品は、複数使うとそれぞれの成分がお互いに作用し合い、効果が弱まる可能性があることが研究でわかっています。必要以上に取り入れることには疑問を持ってほしいです。
そもそも、肌によいとされているヒアルロン酸やプラセンタも、外用の場合は肌自体を長期的に改善させるといった明確なエビデンスはなく、保湿効果も一時的なものにとどまります」
逆に、シミ、しわへの改善が実証された成分がトレチノイン(レチノイン酸)。
「肌のコラーゲン増生を促す薬としても注目の成分ですが、現状、化粧品に配合できる成分としては認められておらず、代わりとして配合されているのがレチノール。効能は似ているものの、その効果は低めです」
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スチームやフェイスマスクも長時間の使用は控えるのが正解。角質層がふやけてバリア機能が乱れる心配がある。
「ピーリングは比較的物理的刺激が少ない方法ですが、週1回程度にとどめるのがよいでしょう。ただし、古い角質は自然に剥がれ落ちるので、無理に取り除く必要はありません。
マッサージも摩擦がくすみやシミの原因になります。使うスキンケア用品も減らし、とにかく顔を触る回数を少なくすることが重要です」
年齢を重ねると、よりたくさんのケアをしたくなるが、回復力が遅くなっているので、肌ケア時の刺激が新たな肌荒れを生むことも。
50代からは“攻めるケア”を増やすのではなく、“肌を守る”ことに特化するのが望ましい、と落合先生。
「健全な角質層の表面は、皮脂で覆われており、体内の水分が逃げないようになっています。乾燥を感じるのは、角質層のバリアが壊されて水分が流出しているというシグナル。セラミドやワセリン、ヒルドイドなどのシンプルな保湿剤を使って肌のバリアとなる皮脂を補強しましょう」
ケア用品を減らすことで、最初はもの足りなさを感じるかもしれないが、1か月半程度で改善が実感できるそう。
「肌はおのずと美しくなる力を備えています。この自己再生力を上げることで、年齢を重ねても健康な肌を保つことができます」
美肌を叶えるのは内側の自己再生力
もう1つ忘れてならないのは、内側からの美肌づくり。
「栄養バランスのよい食事、十分な睡眠は欠かせません。また、肌は心身のバロメーターでメンタルも大きく影響します。リラックスできる時間が心身の健康につながって、肌も美しくなるのです」
リラックス法のおすすめは、海外でも注目が高まっている“森林浴”。
「森林の中で過ごすと心身のバランスが調整され、免疫力アップ効果もあることが、科学的に実証されています」
肌の調子がよくないと、そればかり気にしてしまいがちだが、まずは心身全体を健やかに保つことが大切なのだ。
「美肌への確かな道は、過剰なケアを控え“今の自分の肌力を信じて守ること”。今より急激に若返ることは難しくても、“今のよい状態”を大切にすれば、10年先も若さを維持できますよ」
スキンケア用品は効き目より使用感で選ぶべき!?
医薬品……病気の診断や治療、予防を目的とした薬。厚生労働省により配合された有効成分の効果が認められている。
医薬部外品……厚生労働省が認可した有効成分が一定の濃度で配合されている製品。治療用の医薬品より効果が穏やか。
化粧品……“肌を健やかに保つ”という目的で作られた製品。効果効能をパッケージに表記することはできない。
一般的なスキンケア用品は、薬機法により3つに分類。
「“薬”である医薬品を除き、化粧品はもちろん、有効成分が配合されている医薬部外品も治療を目的としたものではありません。いずれも効果は穏やか。主な役割は肌を健やかに保つことです。ですから、スキンケア用品は心地よさを基準に選ぶのもよい方法です」
肌本来の力を取り戻す!キメ整えケアの極意
(1)スキンケア用品を減らして肌を触らない
「黒ズミだけでなく、最近の研究で肝斑(両頬に左右対称にできる薄茶色のシミ)も肌への摩擦が原因だとわかってきました。顔を触る機会をできるだけ減らすべく、スキンケア用品を最小限にすることも効果的です」
(2)ワセリン・ヒルドイドで肌を守る!
肌表面の自然な皮脂がなくなるとバリア機能が低下。「体内の水分が蒸発し、乾燥肌を引き起こします。それを防ぐには、ワセリンやヒルドイドなど、肌への影響が少ないシンプルな保湿剤を使うことが有効です」
(3)身体の中から肌の自己再生力を鍛える
美肌づくりにはタンパク質やビタミン、ミネラル、脂質などの栄養素が不可欠。「野菜、肉や魚、糖類や穀物をバランスよく食べることで、肌の奥で生まれた細胞が丈夫に育ちます。適度な水分・脂分摂取も肌の潤いには必須です」
(4)生活リズムを整えて肌のターンオーバーを促す
「睡眠不足や不規則な生活リズムは肌のターンオーバー周期を乱し、肌荒れや肌のキメが崩れる原因に。できるだけ規則正しい生活を心がけましょう」。就寝と起床、食事の時間はなるべく毎日同じ時間帯になる生活を意識して。
教えてくれたのは……落合博子先生●国立病院機構東京医療センター形成外科科長。再生医療研究室室長。日本抗加齢医学専門医。形成外科、創傷外科の専門医としての勤務を経て、2003年より現職。著書に『美容常識の9割はウソ』(PHP研究所)
取材・文/河端直子