
一風変わったテイストの漫才で人気のトム・ブラウン。ともに北海道出身のコンビである。
まずはツッコミの布川ひろき。
名字の「布川」は「ぬのかわ」と読む。年配の方だと、かつてシブがき隊に属していた「ふっくん」こと布川敏和を覚えているだろう。「ふっくん」という愛称でもわかるように、布川敏和の名字は「ふかわ」である。
では「布川」の読みは「ぬのかわ」と「ふかわ」のどちらが多いのだろうか。
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「布川」という名字は、新潟県から山形県にかけてと、関東南部の2カ所に多い。このうち新潟県と山形県では圧倒的に「ぬのかわ」が多く、関東南部では「ぬのかわ」と「ふかわ」に読み方が分かれている。
布川ひろきの出身地である北海道では、東北や北陸からの移住者の子孫が多いため、「布川」も「ぬのかわ」が多数を占める。
日常使う布は川などで洗ったあと日光に晒した。また布を染色する際には、染色後に川水などにさらして糊分など不純物を落とす作業があった。いずれにしてもきれいな流れであることが必要で、こうした作業ができるような流れの川が「布川」なのだろう。
名字ランキングでは「ぬのかわ」と読む「布川」は2100位台とメジャーな名字である一方、「ふかわ」と読む「布川」は5000位以下でやや珍しいといえる。
本名をそのまま名乗っている布川ひろきに対して、ボケは「みちお」である。
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一見「下」の名前に見えるが、実はそうではない。本名は道音雄太(みちおと・ゆうた)といい、「みちお」とは本名の「みちおと」を短くしたものだ。
「道音」は名字ランキングで2万位以下というかなり珍しい名字だ。しかもこの名字には2つの読み方がある。
「道音」は富山県と北海道に集中している。こういうパターンの分布は結構多く、もともとのルーツが富山県で、北海道はその移住先。ただし、富山県では「どうおん」と読むのに対し、北海道では「みちおと」である。
確かに「道」は「どう」、「音」は「おん」と読むが、「道音」という名字を見て初見で「どうおん」と読むのは難しい。そこで、北海道に移住した際に、心機一転という意味も込めて、よりよみやすい「みちおと」に変えたものらしい。
◆森岡 浩 姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。学生時代から独学で名字を研究、文献だけにとらわれず、地名学、民俗学などを幅広く取り入れながら研究を続ける。2017年から5年間NHK「日本人のおなまえっ!」のコメンテーターを務めた。著書は「47都道府県名字百科」「全国名字大事典」「日本名門名家大事典」など多数。
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