
2024年の蒸し暑い日、静岡県内の国道沿いにあるゴミ捨て場で、何やら小さく動くものがありました。これに気づいた人が「ん? なんだろう」と近寄ってよく見ると、それはなんとワンコ。全身の被毛が伸び切っており毛玉だらけでボロボロ。ヨークシャーテリアだろうと推測されました。
こんなに小さなワンコが、迷い犬となり彷徨い続けてゴミ捨て場にたどり着いたとは考えにくく、おそらくは元飼い主がネグレクトの末に、意図的に付近に棄てたということでしょう。その所業に強い憤りを覚えます。
「命のバトン」が発見者から保護団体へ
発見者はこのワンコに心を痛め、そのまま家に連れ帰りしばらくお世話をしていました。そして「これからは思いっきり陽を浴びることができる犬生をつかんでほしい」と、ワンコに「陽ちゃん」という名前をつけてあげました。その温かい思いが伝わる命名でしたが、しかし発見者は家庭の事情からずっとお世話し続けることは現実的に難しくもありました。
そこで発見者は地元の保護団体、アニマルフォスターペアレンツに相談。団体では、発見者からの「命のバトン」を引き継ぐカタチで陽ちゃんのお世話をすることにしました。
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行き場を失ったワンコに多く触れてきた団体メンバーから見ても、陽ちゃんの外見を見て心が締め付けられるようになったと言います。すぐにトリミングを施し、適切な医療検査も行うことにしました。
マイクロチップで飼い主が特定できたが…
実は陽ちゃんにはマイクロチップが入っていて、最初に登録したブリーダー、ペットショップで購入したであろう飼い主を特定することができました。しかし、その飼い主は連絡先を転々と変えており、今どこにいるのか、そして誰が遺棄したのかを特定することができませんでした。
陽ちゃんの体は悪性度が高い乳腺腫瘍の跡も。複数回の出産経験がある様子でもあり、当初飼い犬だったものの後にブリーダーへと引き渡され、繁殖犬として酷使された挙句に棄てられたのではないかとも思われました。
あくまでも推測でしかないものの仮に本当だとすれば、人間がすることではなく、悪魔の所業としか思えません。
「陽ちゃんを家族として迎えたい」
後に陽ちゃんは乳腺腫瘍の手術を実施し、随分と元気を取り戻してくれました。しかし、その表情はどこか悲しげで、いつも何かに怯えているようでもありました。
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その表情を前に、団体では「大丈夫。いつか必ず『本当に家族』のお迎えがあるからね」と陽ちゃんを励まし、そして献身的にお世話を続けましたが、保護から約2カ月後に、ついに吉報が舞い込みました。「陽ちゃんを家族として迎えたい」という里親希望者さんが現れたのです。
里親希望者さんは陽ちゃんのバックボーンや持病などを全て理解した上で、「ずっと一緒に寄り添いたい」と言ってくれ正式譲渡となりました。
里親さんの元へと巣立っていく日も、陽ちゃんは「またどこかへ連れて行くの?」「また怖いめに遭わされるの?」とばかりに不安そうな表情で人間を見つめていました。しかし、後には優しい里親さんからのたっぷりの愛情を受けて、ワンコ本来の喜びを感じ笑顔を取り戻すようになりました。
陽ちゃんのこれからの犬生が、過去の怖い思いや不安などが全て忘れるほど幸せに包まれる日々であってほしいと願うばかりです。
(まいどなニュース特約・松田 義人)
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