日よけ雨宿りの場所をつくりお世話の連絡帳も 大学生に愛された地域猫がつかんだ幸せ 保護や飼い主探しの支援の輪が猫にまつわる陶器市に

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2025年06月01日 18:40  まいどなニュース

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大学周辺で暮らしていたころのチャーリー(斎藤さん提供)

1匹の猫の保護がきっかけとなり、関わった人たちを中心とした交流の輪が広がっている。京都市左京区の京都精華大学周辺で暮らし、学生の間でアイドル的存在だった野良猫の「チャーリー」(オス、推定5歳)。2024年春に保護され、大切にしてくれる飼い主さんが見つかり、現在は幸せに暮らしている。そんなチャーリーが縁で、2025年2月22日(猫の日)、猫にまつわる陶器などを販売する「六猫(むびょう)市」が因幡堂(いなばどう)平等寺(下京区)で開かれた。好評だったことから、6月22日、第2回目の開催が決定。猫や陶器が好きな人たちが集まりそうだ。

【写真】学生たちは小屋を作るなどして世話をしました

茶白のチャーリーが同大学周辺で暮らすようになったのは3年前のこと。2005年ころはおよそ20匹の野良猫が大学周辺にいたというが、猫好きの教職員や学生有志、地域の人たちが自主的に地域猫活動をしてきたことで、ほぼいなくなっていた頃に現れたという。

当時を知る同大学のマンガ学部・斎藤光教授はこう振り返る。「チャーリーは捨てられた飼い猫なのか、迷いこんできたのか、どうしてやってきたのかはわかりません。はじめは警戒していたのですが、餌をあげるうちに人慣れするようになりました。私の妻が長年、大学周辺の猫たちを世話していて、チャーリーが現れたときは、捕獲し、不妊手術を施して元に戻したんです。それから姿を見せなくなり、半年が経ったころ、大学周辺に戻ってきたとのこと。どこに行っていたのかわかりませんが、ガリガリに痩せていたそうです」

斎藤さんや奥さん、学生たちはそんなチャーリーを不憫に思い、小屋を作り、連絡帳を置いて今日は誰が餌や水をあげたかわかるようにして世話をした。また、並行してチャーリーを引き取ってもらえる人を探した。

しばらくして、チャーリーが心を許すようになった大学院の女子留学生が、チャーリーを引き取ることになった。学生たちは安堵し「飼うとなればお金もかかるだろうから」と、陶器やポストカードなどチャーリーにちなんだ商品を製作。学園祭で販売し資金作りを行った。

ところが、その大学院生の下宿が、猫飼育不可であることが判明。「彼女が引き取ってくれるとみんな安心していたのですが、振り出しに戻ってしまったんです。引き受け先が見つからないまま、年が明け、妻が知人に相談したところ、因幡堂平等寺の大釜眞照さんと繋がったんです」(斎藤さん) 

「ガン封じ」で有名な因幡堂平等寺の住職の妻・大釜さんは、長年、地域で犬や猫の保護猫活動を行ってきた。2024年2月、大釜さんはチャーリーがどんな猫なのか、大学まで見にいった。「人なつこくて、これなら飼い猫になれると思いました」と大釜さん。その後、保護猫活動をしている人を通じて里親探しが始まった。

新しい飼い主はすぐに見つかった。左京区の歯科医師・守安攝子さんだ。守安さんは前年(23年)11月、それまで14年間飼っていた愛犬をガンで亡くしたばかりだった。

「私は一人暮らしなんですが、長年一緒に連れ添ってきた愛犬を失ったあとはしばらく悲しくて仕事も手につかないほどでした。そんなとき保護猫活動をされている方から『推定4歳の保護猫を預かっている』という話を聞いたんです。飼いたいけれど60代後半ですし、やめておこうと思ったんですけど、もし万が一、私に何かあって飼い続けられなくなった場合、チャーリーをどうするかまできちんと決めて頂いたんです。それで安心してチャーリーを家族に迎えることができました」(守安さん)

そうしてチャーリーは守安さんの家で暮らすことになった。外の生活が長かったにもかかわらず、チャーリーは新しい飼い主さんや環境をすぐに受け入れた。 

「ご飯をよく食べ、トイレもすぐに覚えて、全く苦労することはなかったです。やはりみなさんが可愛いがってくださっていたからだと思います。斎藤さんの奥さんからは、学生さんたちがチャーリーをどんなふうに世話していたかが綴られた写真付きの手紙をもらったんですよ。『雨の日やすごく暑い時には小屋に傘を差し、床に水をまいて暑さをしのいでいました』とか、連絡帳を置いていたとか、詳しく報告いただいて。そんなに愛されていた子だから、私の家に来てもすぐに慣れてくれたんだと思います。今は仕事で疲れて帰ってきても、あたたかく小さな命がそばにいてくれる安堵感といったら。こうしてチャーリーと出会わせてくれて、本当に感謝しています」(同)

今年(25年)2月22日の猫の日、因幡堂平等寺では「六猫(むびょう)市」が開催された。同寺には猫をあしらった人気のお守り「六猫(=無病)守」があり、市の名はそのお守りの名にちなんだ。

「チャーリーを世話していた学生さんの中には陶芸専攻の人もいたので、うちの寺で市を開いて創作活動を支援できれば」と大釜さんが発案。プロデュースは古川町商店街陶器市などのイベントを手がけている「たんきゅうサロン」(東山区)の福井翼さんが担当した。この日は陶芸家や木工作家なども加わり、大勢の来場者で賑わった。

斎藤さん夫婦、世話をした学生たち、因幡堂の大釜さん、保護猫活動をしている人と守安さん、福井さんなど、誰が欠けてもこの六猫市は実現できなかった。「チャーリーに関わった人たちのバトンがリレーのように繋がった結果です」と大釜さんはほほえむ。その日、会場にやってきた飼い主の守安さんは携帯で撮ったチャーリーの動画を斎藤さんや学生たちに見せた。家で幸せそうに過ごすチャーリーの姿を見た学生たちは「よかったね」「これからも幸せにね」と話していたという。

6月22日には第2回目の六猫市が開催される予定だ。猫にまつわる作品を中心に、学生のほか陶芸作家らが集まるという。「京都で作陶されている陶芸家を支援し、人の繋がりを大切にしながら文化を受け継いでいきたい」と福井さん。すでに3回目も決まっており、11月22日に開催予定だ。チャーリーが紡いだ縁は、いまも静かに広がり続けている。

【第2回「六猫市」】
日程/2025年6月22日(日)10時〜15時
場所/「因幡堂(いなばどう)平等寺」京都市下京区因幡堂町728
イベント詳細は「たんきゅうサロン」インスタグラム @tanq_salon

(まいどなニュース特約・西松 宏)

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