
SVリーグ男子の初年度は、サントリーサンバーズ大阪の優勝で幕を閉じた。
10月の開幕から5月のファイナルまで8カ月という長い期間、さまざまな激闘や熱戦が繰り広げられるなかで、活躍を見せた選手も多くいる。
なかでも目まぐるしい活躍を遂げたのが、SVリーグと同じく最初のシーズンを躍動したルーキーたち。それぞれのチームでさまざまな選手が活躍したが、注目の3名を紹介する。
※所属は2024−25シーズン
水町泰杜(みずまち たいと/ウルフドッグス名古屋)
"唯一無二"の言葉が似合う。決して大げさではなく、バレーボールの技術や存在感云々はさておき、とにかくこの選手なしでは語れない、と言うほど多くの人たちの心を惹きつける。
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一昨年12月にインドアではウルフドッグス名古屋、ビーチバレーではトヨタ自動車の選手として二刀流への挑戦を表明した。1年目のシーズンはビーチバレーからスタート。もともと学生時代からビーチバレーが好きで「早く本格的にチャレンジしたかった」と心待ちにしていたが、実際に本格始動すると「できないこと、知らないことだらけだった」と回想するとおり、競技者として成績を残す前に土台づくりに明け暮れる日々をすごした。
ようやくビーチバレーの楽しさを感じ始めた昨年9月、今度はビーチからインドアへ。ここでも最初は「ビーチの動きが染みついているのでインドアに適応できるかわからない」と話していたが、始まれば、開幕戦からリリーフサーバーで登場。劣勢を跳ね除ける強烈なサーブで、チームに勝利をもたらした。
試合が進むにつれ徐々にプレー時間を増やしていく水町を、ウルフドッグスのヴァレリオ・バルドヴィン監督は「サーブ、攻撃面において彼は非常にすばらしい才能を感じさせ、その才能をチームに還元してくれている」と評価した。指揮官だけでなくそれはチームメイトも同じで、事あるごとに水町を称賛してきたのが、共に2024−25シーズンからウルフドッグスに加入したセッターの深津英臣だ。水町に向け「生まれ持った華がある」という深津は、チャンピオンシップのセミファイナル初戦でもこう口にした。
「このチーム(WD名古屋)にはニミル(・アブデルアジズ)という柱がいるけれど、僕はもう1本の柱が泰杜だと思っている。彼が乗ってくればチームも乗る、と信じてトスを託して、彼も応えてくれた。笑顔を引き出すことができました」
抜群のボディバランスから繰り出すスパイクや、勝負所で確実に点をもぎ取るサーブ力。サーブレシーブやディグといったディフェンス力も含め、バレーボールの技術において水町の実力は言うまでもないが、何より大きな魅力は深津もいう"華"を持つ選手、ということだ。
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何度も壁に当たったが、その都度乗り越え、笑顔を見せる。
「笑わなくなったら水町泰杜じゃない、とニミルにも言われたし、僕自身も、笑顔が長所だと思っているので、笑わないと」
学生時代から同世代の選手がライバルとしてだけでなく、羨望の眼差しも向ける。人によって態度を変えることなく、コート内外で誰とでも分け隔てなく接し、試合になれば誰より頼りになる。ファンからも、仲間からも、時にライバルからも愛されている。
伊藤吏玖(いとう りく/東京グレートベアーズ)
水町と同じ早稲田大から東京グレートベアーズへ入団したミドルブロッカー。伊藤吏玖はレギュラーラウンド44試合とチャンピオンシップのクォーターファイナル2試合、今季東京GBが戦った46試合すべてに出場を果たした。
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2m超えが揃うミドルブロッカーのなかで、195cmの身長は、特段目を引く高さではない。だが、幼少期から身体が大きく、小学生の頃には「相撲部屋からスカウトがきたこともある」という逸話も持つ。中学時代も高さはずば抜けていたが、バレーボール選手として本格的なキャリアのスタートは地元の東京・駿台学園高校入学後だ。
当時、駿台学園を率いた梅川大介・前監督が「我慢してでもとにかく試合で使い続けようと貫いた」と言うとおり、伊藤は1年時から試合出場の機会を与えられた。その結果、ブロックやスパイクの基礎が育まれただけでなく、組織で動く、戦術遂行能力も磨かれた。
そして現在、東京GBでも状況判断に長けたブロック力で貢献。カスパー・ヴオリネン監督も「チームとして求められる役割を果たす力、しかも継続的に貢献する能力に長けた選手なので信頼して送り出している」と話したように、計算できるミドルブロッカーとして高い信頼を集めた。
出場を重ねてきたことが何よりの成果ではあるのだが、SVリーグの試合数の多さ、リーグ戦の期間は学生時代とは比べものにならない長さだ。常にベストパフォーマンスを発揮するための心身の疲れを口にすることもあった。
「なかなか自分のプレーがうまくいかない時に、追い込んで考えてしまう。切り替えができず、精神的にきついな、と思うことも多くあったし、不安定なプレーにもつながってしまった。経験しなければわからないことがたくさんありました」
コート上ではブロックが決まれば、大きなガッツポーズで喜びを露わにすることもあるが、コートを離れれば常に穏やかで、友人たちが「とにかく優しい」と口を揃えるだけでなく、「むしろ優しすぎるのが欠点でもある」とも加える。相手を叩きのめしてでも勝利をつかみ取る。そんな激しさとは確かに程遠いかもしれないが、SVリーグで重ねた経験と自信は表情にも表われ、シーズン終盤には、より存在感を発揮。東京GBの今季最後のホームゲームでは初のPOMも受賞した。
今季の日本代表登録選手にも選出された、まだまだ伸び盛りのミドルブロッカー。伊藤吏玖の成長曲線に注目だ。
高木啓士郎(たかぎ けいしろう/広島サンダーズ)
崖っぷちからレギュラーラウンド6位に入り、チャンピオンシップ進出を最後に決めた広島サンダーズの守護神。高木啓士郎は実に多くの見どころを持つ選手だ。
地元・広島の崇徳高校、そして東海大と、学生時代は不動のリベロとして試合出場を重ねてきた。今季、SVリーグやVリーグに進んだ同世代のリベロも多いなかでも、リーグ戦や東日本インカレでリベロ賞を何度も受賞した実力の持ち、ディグ力に長け、コート内を駆け回るスピードも抜群だ。
相手からすれば「決まった」という強打を叩きこんだ先に高木がいて、好レシーブで阻まれるだけでなく、ブロックに当たりコート後方や、サイドの観客席まで躊躇なく追いかける。しかも、ただ諦めずに追うだけでなく、攻撃につなげる1本を上げる。ルーキーイヤーの今シーズンも高木のプレーで会場を沸かせる場面が何度もあった。
見どころはそれだけではない。うまくいった時、好プレー後のガッツポーズや笑顔だけでなく、劣勢時やうまくいかなかった時も、高木は実にわかりやすく感情が表情に出る。東海大の先輩で、今季の広島で主軸を担った、アウトサイドヒッターの新井雄大から「自分のプレーが思うようにできないと、すぐ顔に出るから『うまくいかなくても下向くな』と試合中に喝を入れた」と暴露されたこともある。
負けず嫌いで、試合に敗れた後も悔しさを露わにする。チャンピオンシップ進出がかかるなか、ヴォレアス北海道に敗れた際は「マジ悔しい」と連呼しながらも、自分に向けているかのように、こう言った。
「やるしかない。諦めたら終わりなので、絶対諦めずに拾うし、リベロは点を獲ってもらうしかないから、どうすればそれができるか。自分にできることを全部、全力でやり尽くします」
自らのプレーで直接点を取ることはできない。リベロは常に我慢を伴うポジションではあるが、点を獲るため、試合で勝つために周りを動かし、鼓舞することはできる。中盤から終盤にかけ、レギュラーの座をつかみとった高木に、今季限りで勇退した広島のリベロ、唐川大志も期待を寄せる。
「技術の面では言うことないし、気持ちやハート、戦う心がある選手。これからもっと活躍して、引っ張れる力のある選手だから、信じて、これからを託します」
今季の日本代表登録選手にも名を連ねた。世界ナンバーワンの呼び声高い日本代表のリベロ争いに加わるべく、高木啓士郎の挑戦も始まる。