【MLB】大谷翔平が近づく「170得点」の歴史的価値 ドジャース一塁コーチが語る「1番打者としての凄み「メジャーの投手たちは、本当に怖がっている」

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2025年06月02日 18:20  webスポルティーバ

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前編:大谷翔平、史上最高の1番打者への進化と二刀流復帰

大谷翔平が1番打者としての凄みを増している。本塁打などの長打に注目が集まりがちだが、「得点」でもベーブ・ルース以来、104年ぶりの170得点台ペースで数字を重ねている。

いったい大谷の凄さはどの部分にあるのか。今季からドジャース一塁ベースコーチを務めるクリス・ウッドワードに、歴史に残るリードオフマンとの比較、1番打者としての長所を語ってもらった。

【ルース以来104年ぶりの「170得点」台の可能性】

 大谷翔平は、ロサンゼルス・ドジャースが59試合を終えた時点で57試合に出場し、メジャートップの63得点(2位のアーロン・ジャッジ/ニューヨーク・ヤンキースに8点差)を記録しており、シーズン171得点ペースとなっている。20世紀以降、シーズン得点が170点を超えたのは、1921年にヤンキースのベーブ・ルースが記録した177得点の1度だけだ。160点台に到達したのも、1936年のルー・ゲーリッグ(ヤンキース/167点)、1931年のゲーリッグと1928年のルース(ともに163点)の3例しかない。

 野球において得点は、打点ほど高く評価されてこなかった。その理由は、得点がチームメイトの影響を強く受けるからだ。得点は「ホームに戻ってくる」ことで記録されるが、それは自らが本塁打を打つか、後続の打者がヒットや本塁打などで走者となった自身を返してくれるかどうかによるからだ。いくら出塁しても、後ろの打者が凡退すれば得点できない。つまり、個人の能力だけでは達成できないのが得点という記録である。そのため、打点のほうが「点を生み出した」という積極的な貢献として、歴史的に高く評価されてきた。

 しかし近年のセイバーメトリクス(統計学的な分析を元に選手の評価や戦略を考える分析手法)では、その打点すら「打順やチーム状況に依存する指標」と見なされ、評価の対象から外れつつある。それよりも、出塁率(OBP)、長打率(SLG)、OPS(OBP + SLG)といった、より個人の打撃能力を反映した指標が重視されている。

 とはいえ、もし大谷が今季、104年ぶりにシーズン170得点の大台に到達すれば、それは歴史的な快挙だと筆者は考える。二刀流の成功や「50本塁打・50盗塁」達成、3度のMVP受賞ほどのインパクトではないかもしれないが、1番打者として打線をけん引し、チームを優勝争いに導いた証だからだ。確かに、後ろの打者が走者を返してくれたおかげではあるが、大谷が塁に出て、相手投手や守備に常にプレッシャーをかけ続けた結果でもある。

 このテーマについて、ドジャースの一塁ベースコーチ、クリス・ウッドワードに話を聞いた。一塁コーチといえば、大谷とのヘッドバンプで話題になったクレイトン・マッカラー(現マイアミ・マーリンズ監督)が思い浮かぶが、今季からウッドワードがその役を務めている。現役時代には松井稼頭央、石井一久、イチローらとプレーし、コーチとしても岩隈久志や前田健太とともに働き、テキサス・レンジャーズ監督時代には有原航平をローテーション投手として起用した実績がある。

 筆者にとっても長年、何度も取材でお世話になってきた人物だ。

【「ハイブリッド型の最高のリードオフマン」】

――近年は、フィラデルフィア・フィリーズのカイル・シュワバーのように、パワーのある打者を1番に起用するチームが増えています。「リードオフ・スラッガー」という考え方で、大谷もその一例と言えますが、彼のリードオフマンとしての役割については、どう評価されていますか?

ウッドワード(以下、CW)「翔平はホームランを打つだけでなく、出塁し、スピードでプレッシャーをかけ、チームの攻撃に勢いをもたらす。そういった伝統的な1番打者としての基本(の強み)もしっかり押さえています。そのうえでホームランも打てるし、二塁打、三塁打と長打を量産できる。つまり、出塁するだけでなく、スラッガー(長打を打てる打者)としての側面まで持ち合わせていて、ハイブリッド型の最高のリードオフマンだと言えます」

――では、史上最強の1番打者(通算1406盗塁、2295得点の記録を持つ)とされるリッキー・ヘンダーソンと比べて、大谷選手はどのような位置づけにあると思いますか?

CW「リッキーは間違いなく偉大な選手でした。盗塁のスペシャリストであり、走塁技術においては群を抜いていました。それに加えて、長打力もあって、単なる"足の速い選手"にとどまらず、攻撃的なリードオフバッターとして試合にインパクトを与えられる存在でした。

 でも、翔平のほうがパワーという面では確実に上です。リッキーのシーズン最多本塁打は28本だったと思います。それに対して、翔平には年間50本塁打を打つ力があります。リッキーは、初球でホームランを打って流れを一気に変えることもあれば、じっくりと四球を選んで出塁し、すかさず二盗を決めるようなプレーもできる、本当に投手にとって厄介な選手でした。でも翔平は、それ以上のパワーを持っていて、しかもまだ1番打者としては2年目。私は、彼がこれからさらにリードオフマンとして成長し、唯一無二の存在になっていくと信じています」

――今季、大谷選手が1番打者として、特によくなったと感じる点はどこですか?

CW「出塁に大きな価値を置いているところですね。多くのパワーヒッターは、とにかくホームランを打ちたいと考えるので、スイングの回数を増やせばそれだけホームランも増えると思いがちです。でも、振り回しすぎると、本当に打つべきボールを見逃してしまったり、逆にホームランにはならない球に手を出してしまったりして、結果としてカウントが不利になり、アウトになってしまう。

 その点、翔平はただストライクかどうかを見ているのではなく、自分が本当にダメージを与えられるボールを辛抱強く待っている。以前よりも我慢強くなっていますし、この点に関しては、まだまだ伸びしろがあると思っています。

 というのも、メジャーの投手たちは、打者・翔平の存在を本当に怖がっています。たとえ二塁打を打たれたとしても、"ホームランじゃなくてよかった"とホッとするくらいです。だからこそ、翔平が四球を選んで一塁に出たときには、私は必ず『グッド・アイ(いい目をしていた)』と声をかけます。というのも、翔平だけでなく、ドジャースの打者全員がこうした姿勢を徹底することが、われわれがワールドシリーズで勝つためのカギになるからです」

【「盗塁数が増えなくても、重要なのは"走れる"という存在であること」】

――ヘンダーソンですら、最多得点はシーズン146点(イチローのベストは127点)でした。大谷選手がベーブ・ルースの177得点に迫る可能性はあると思いますか?

CW「もし彼がシーズンを通してフルに出場し続けることができれば、170得点という数字も決して夢物語ではないと思います。もちろん、それを達成するには何より健康であることが前提です。実際、今シーズンここまでのところ、彼はほとんど毎日試合に出場しており、自己管理も非常にしっかりしています。

 これまで唯一、"あれ?" と思ったのは、たった1日だけ。本来なら盗塁を狙いそうな場面で走らなかった日がありました。本人は特に何も言っていなかったのですが、その日の動きから、その日はどこかに違和感があるのかもしれないと感じました。でも、翌日には完全に元気に戻っていて、またいつものように積極的な走塁を見せてくれたので、大きな問題ではなかったようです。おそらくその日は、膝かどこかに少し張りや違和感があって、無理をしなかったのだと思います」

――大谷が170得点に到達するうえで、ほかに重要な要素があるとすれば、どのような点が挙げられますか?

CW「2番以降の打線がすばらしいことです。殿堂入り確実とされるMVP選手のムーキー・ベッツとフレディ・フリーマンがいて、その後ろにはテオスカー・ヘルナンデスやウィル・スミスのような、チャンスに強い強打者が控えています。翔平が出塁すれば、多くの場合、彼らがホームに返してくれる。だからこそ、翔平の出塁がチームにとって非常に価値のあるプレーになるのです。

 しかも彼は長打をたくさん打ちます。二塁打が多いですし、三塁打も珍しくありません。ライト線に打球が飛んだときには、最初から三塁を狙って走っている。単打や四球で出塁した場合も、盗塁ができるので得点圏に進める。そうやってチームにとってのチャンスをさらに広げてくれています」

――盗塁はここまで11個ですが、昨年の59盗塁を再現するのは難しそうですね。

CW「でも、盗塁数が増えなくてもまったく問題ありません。重要なのは"走れる"という存在であること。翔平が一塁にいれば、相手投手は『盗塁されるかもしれない』という不安を常に抱くことになります。そのうえで、次の打者がムーキーのような強打者ですから、投手は走者である翔平と打者であるムーキーの両方に意識を向けなければいけない。

 そうなると、精神的な負荷が非常に大きくなり、リズムが乱れて混乱する。翔平の存在が、相手バッテリーに与える影響は計り知れません」

――大谷選手は(一塁に出塁時)かなり大きくリードを取っていますね。

CW「そうなんです。(ロサンゼルス・)エンゼルス時代は十分なリードを取っていなかったのですが、今はしっかりと大きなリードを取るようになり、次の塁を狙う意識を明確に見せています。そのことで、相手投手のクイックモーションや牽制球のクセ、牽制の精度といった細かな部分がより見えやすくなる。そうした走塁面での意識の高さも、得点につながる重要な要素になっています」

【「最初は正直、ちょっと戸惑いました(笑)。翔平は背が高いので」】

――ベースランニングのうまさも年々向上している印象がありますが、その点についてはどう見ていますか?

「実は昨年の前半までは、走塁面でいくつかの課題が見られました。たとえば外野にフライが上がった際、タッチアップの判断が遅れたり、塁に戻るか進むかの判断が中途半端だったりする場面が何度かあったんです。でも今年は、その点が明らかに改善されていて、外野フライが上がればすぐにタッチアップの準備をするなど、正しい判断とプレーができるようになっています。

 翔平は非常に意欲的で、自分から積極的に学ぼうとする姿勢を持っている選手です。コーチングを受け入れることに前向きで、『なぜこのプレーが重要なのか』『なぜこの判断が求められるのか』といった背景まで理解しようとする。そういう強い向上心を持っているからこそ、短期間でここまで走塁が改善されたのだと思います。

 多くの選手は30歳を過ぎると盗塁を控えるようになり、走力を活かす場面が減っていきますが、翔平は違います。年齢に関係なく、今でも積極的に走る姿勢を持っており、そうした姿勢が彼の価値をさらに高めています」。

――昨年のワールドシリーズでは、スライディングによるケガもありました。そのあたりの対策はどうしていますか?

「スライディングの技術向上にも、彼は真剣に取り組んでいます。日々の練習のなかで、たとえばスライディング時に足や手を、ベースに確実に残して触れ続ける技術を磨いています。これができていないと、一瞬でもベースから離れた際にタッチアウトになるリスクがあるので、とても重要です。

 また、相手のタッチを避けるために、ベースの外側から角度をつけてスライディングする技術も身につけました。さらに、ヘッドスライディングに関しても、体を低く保つことでタッチを避けやすくなるという利点があります。特に送球が高めにきたときは、野手がタッチしづらくなるんです。

 とはいえ、ヘッドスライディングにはリスクもあります。肩やひじ、手首などの故障につながる恐れがあるので、無理をさせないよう注意を払っています。翔平自身も、そのリスクを理解したうえで、場面に応じて最適なスライディングを選択するようになっています」

――後半戦には投手としての復帰も予定されていますが、その場合、盗塁など走塁面に影響は出ると考えていますか?

「われわれとしても、その点はより慎重に対応していくつもりです。翔平が"走れるから走る"のではなく、『この場面で走る意味が本当にあるのか?』と、リスクとリターンをしっかりと計算したうえで判断していくことになります。

 投手として復帰すれば、当然ながら体への総合的な負担はさらに大きくなりますからね。最も大切なのは、シーズンの最後まで健康な状態を維持することです。彼の身体を守ることは、チームにとっても非常に重要な使命だと考えています」

――話は変わりますが、一塁ベース上での"ヘッドバンプ・セレブレーション"にはもう慣れましたか?

「最初は正直、ちょっと戸惑いました(笑)。翔平は背が高いので、こちらがタイミングを合わせるのがなかなか難しくて。でも、今ではすっかり慣れましたよ。むしろ、楽しくやっています」

つづく

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  • わたしはOBP、SLG、OPSより、総獲得塁率(安打と四死球1、二塁打2、三塁打3、本塁打4、盗塁1、進塁打(ベースにいる打者毎に)1)、
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