
5月31日(現地時間)、チャンピオンズリーグ(CL)決勝。フランスのパリ・サンジェルマン(PSG)はイタリアのインテルを5−0で下し、初の欧州王者に輝いた。PSGが早い時間で得点を重ねて大差はついたが、白熱したシーズンを象徴する一戦だった。指揮官の緻密で大胆な戦術的仕掛けのなか、選手たちがたくましく躍動していた。
その点、欧州頂上決戦は日本サッカーに向けてもひとつのレッスンだったと言える。
「ワールドカップ優勝」
日本代表を率いる森保一監督はそうぶち上げた。しかし、この試合の速さ、強度、精度を見て、本気でそう言えるのか? 両者の戦いを森保ジャパンに落とし込みながら検証した。
まず、森保ジャパンが進むべきはPSGの考え方、仕組みのほうだろう。
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ルイス・エンリケ監督に率いられたPSGは、4−3−3を基本に「トランジション」(攻守の切り替え)に勝機を見出す構造だった。ボールを保持していようと、保持されていようと、常に切り替わる場面を優位にできるか。そのために前線からボールを追いかけ、ミスを誘発し、効率的にゴールに向かう。4得点目がそうであったように、ビルドアップで失っても、即奪回がカウンターにつながっていた。
「いい守りがいい攻撃をつくる」
その原則を守っている。そう書くと、守備的なチームにも思えるが、まったく逆だ。
ピッチに立つ選手たちのキャラクターは極めて攻撃的で、ボールプレーヤーとしての質も高い。バルセロナ時代に「リオネル・メッシの後継者」に指名されたウスマン・デンベレは唯一無二の両利きで、0トップで攻撃をけん引。デジレ・ドゥエ、フヴィチャ・クヴァラツヘリア、ブラッドレー・バルコラなどスピードとテクニックに優れるアタッカーと前線で調和していた。
ルイス・エンリケの成果として特筆すべきは、「攻守一体」でスター選手にも守備も要求し、成功した点だろう。
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たとえば、先制点を決めたサイドバックのアクラフ・ハキミは攻守ともにダイナミックな動きだった。また、クヴァラツヘリアもカウンターを突き刺しただけでなく、自陣まで下がってボールを奪い取っていた。デンベレは才能の裏返しで、バルサ時代はうんざりするほどの問題児だったが、前線から必死にプレスする姿があり、チームプレーヤーとして"躾(しつけ)られていた"。
【インテルの3バックは「論理的」】
翻って、森保ジャパンも同じく「いい守りがいい攻撃をつくる」は基本だろう。攻守にわたって献身的な選手も多く、トランジションはひとつのカギになる。さらに俊敏で、テクニカルな選手が多い。
個人的に、決勝戦のMVPはポルトガル代表ヴィティーニャと考えるが、彼のように戦術的、技術的に出色のMFは日本に少なくない。守田英正などは近いタイプだろう。ボールプレーヤーとして、自ら起点になれるし、どう運び、止めて、託すか。それを心得ている。
そして三笘薫はプレミアリーグ、中村敬斗もフランスリーグで二桁得点を記録し、クヴァラツヘリアやバルコラと遜色のない左アタッカーと言える。敵の守備陣をドリブルやワンツーで崩せる一方、自身の得点力も備え、なおかつ泥臭い守備もできる。
にもかかわらず、森保ジャパンはふたりを左ウイングバックで起用している。クヴァラツヘリアやバルコラをウイングバックで使うだろうか。悪い冗談のような話だ。
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これは、ブンデスリーガで二桁得点した堂安律にも当てはまる。左利きでカットインからの得点、もしくは崩しが見込める貴重なサイドアタッカーを、どういう了見で右ウイングバックに起用しているのか。まったく意味がわからない。
一方、シモーネ・インザーギ監督が率いるインテルは、3−5―2のウイングバックを使うシステムでひとつの成功を収めているが、彼らの場合は論理的である。
たとえば右ウイングバックドのデンゼル・ダンフリースは屈強で、走力も高さもある。ロングボールでは攻守に貴重なカードだし、身体的な強さで拠点を守りながら、攻撃でボールを運ぶ馬力を感じさせ、右足でウイングのようなクロスを送る。左サイドのフェデリコ・ディマルコも小柄ながら左利きでパワーがあり、最左翼の攻守を任せられる。
彼らのクロスを2トップが合わせるのは、必勝の攻撃パターンと言えるだろう。
一方、三笘、堂安という日本の左右のウイングバックは利き足がそれぞれ逆。クロスすら打ち込めない。互角の相手には押し込まれ、守りに回らざるを得ず、宝の持ち腐れになるのがオチだろう。
インテルが3バックでうまくいっている理由は、イタリア伝統と言える守備の粘り強さやしつこさのおかげだろう。彼らは引いて守ってもストレスを感じない。アドレナリンが出るのか、むしろ劣勢を楽しんでいるようにも映る。まさに「カルチョ」という特殊体質だが、アレッサンドロ・バストーニが左足のサイドチェンジでプレスを回避するなど、実は出口も持っているのだ。
だが、森保ジャパンの3バックは単なる人海戦術になっている。
代表チームとクラブチームの違いはあるにせよ、森保監督には、ルイス・エンリケがデンベレを飼いならしたように、選手を啓発し、チームに還元させるような采配が求められる。またルイス・エンリケはドゥエや途中出場のウォーレン・ザイール・エメリ、セニー・マユルといった、いずれも19歳の若い選手の力を引き出しており、その目利きも見逃せない。
現状、日本の「ワールドカップ優勝」は遥かな夢だ。CL決勝戦は、世界トップレベルの底知れなさを感じさせた。