
後編:大谷翔平、史上最高の1番打者への進化と二刀流復帰
長打力、走塁とハイブリッド型リードオフマンとして活躍を続ける大谷翔平。昨季は打者としての役割のみでMVPに輝いたが、ついに「二刀流」復帰に向け、動き出している。
どんなに打者としてすばらしい成績を残しても、やはり大谷にとっては「二刀流」こそが自身の存在価値といわんばかりの凄みを感じさせるが、手薄になっているドジャース投手陣の現状においても、ワールドシリーズ2連覇に向け、必要な要素とも言える。
はたして、大谷はどのタイミングで投手復帰を果たそうとしているのか。
【実戦形式の打撃練習に登板で表わした投げる喜び】
さて、大谷翔平は1番打者として歴史的なペースで得点を重ねる一方で、ドジャースは後半戦での彼の投手復帰に向け、着実に準備を進めている。
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現地時間5月25日午後2時30分、ニューヨーク・メッツの本拠地シティ・フィールドで、実戦形式の打撃練習(ライブBP)に登板。メジャーのマウンドで最後に打者と対峙してから641日ぶりとなる"投球"だった。相手を務めたのは若手のキム・ヘソン、ダルトン・ラッシング、そして作戦担当コーチのJT・ワトキンス。5打席、22球を投げ、速球は94〜97マイル(約151〜156キロ)を計測。スイーパーを含むすべての球種を織り交ぜて投げた。
何より印象的だったのは、大谷が再び実戦形式で投げられることに喜びを感じ、終始コーチ陣と冗談を交わしながら、チームメートと笑顔で過ごしていたことだった。2024年、大谷は打者としてだけでもMVP級の活躍を見せているが、二刀流であり続けることこそが、彼にとってのアイデンティティであり、野球選手・大谷翔平らしさの証明でもある。その日、大谷は登板後にこう語っている。
――球速もかなり出ていたようですね。
「バッターが立てば球速が上がるのはわかっていましたけど、あまり上げすぎないようにしました。今回が1回目のライブBPなので、なるべく96、97マイルは投げないようにしていたんですけど、最後のほうは出ていましたね。もう少し抑えながらやっていければいいのかなと思います」
――久しぶりの実戦形式、楽しめましたか?
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「最近はあまり投げていなかったので、自分がピッチャーをやっているという感覚を、少し思い出した感じがあります」
――今後の調整については?
「基本的には週1回のペースで投げられればと思っています。ただ、遠征との兼ね合いもあるので、そこは難しいですね。ホームのときはマイナーリーグの選手が来てくれると思いますけど、今日みたいな遠征先ではそうもいかない。そのあたりのやりくりは必要になってくると思います」
――投手としての復活シーズン。どれだけ楽しみにしていますか?
「もちろん楽しみにしていますが、まだ、今シーズン中に登板できると決まったわけではありません。スケジュールどおりに進んで、戦力として計算できるようになれば、その先が見えてくると思います」
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【強敵揃いの6月と二刀流復帰への慎重と必然】
大谷の二刀流は、多くの野球ファンが待ち望み、楽しみにしている。しかし今季の大谷は、1番打者としてドジャース打線をけん引し、シーズン170得点に届く可能性さえある。そうしたなかで、後半戦に投手として復帰すれば、身体への負担は避けられず、これまでのようなパフォーマンスを維持できるかどうかは不透明だ。
とはいえ、現時点でのドジャースのチーム状況を踏まえると、大谷がチームのために再びマウンドに上がるべきだとする見方にも説得力がある。打線は好調で、チームOPS(出塁率+長打率)は.817、得点数も341点と30球団中トップに立っている。
一方で、弱点となっているのは投手陣だ。チーム防御率は4.13で30球団中23位。その主因は、先発投手陣の投球回数が269回とリーグ29位と極端に少ない点にある。その結果、ブルペンへの負担が大きくなっている。
昨年のポストシーズンでは、信頼できる先発投手が3人しかいないという異例の事態に陥り、苦しい戦いを強いられた。今年も同様のリスクを抱えている以上、先発投手としての大谷が必要となる可能性は高い。とはいえ、もし投手としての復帰が1番打者・大谷のパフォーマンスに影響を与えることになれば、打線全体の生産力も下がってしまうかもしれない。
そのため、デーブ・ロバーツ監督をはじめとする首脳陣は、チームの戦いぶりを慎重に見極めながら、連覇を目指すなかで二刀流・大谷翔平をどう起用していくか、バランスを取りつつ判断していく必要がある。
6月上旬にはヤンキースとの3連戦(2勝1敗)に続き、ニューヨーク・メッツ、セントルイス・カージナルス、サンディエゴ・パドレス、サンフランシコ・ジャイアンツといった実力のあるチームとの対戦が続く。激戦のなかで、ドジャースは大谷の二刀流復帰をどのように位置づけ、戦略を練っていくのか。
チームの今後を占う重要な局面に入っている。