
2026年ワールドカップアジア最終予選、6月5日・オーストラリア戦、10日・インドネシア戦に向けた日本代表メンバーが発表されている。史上最速で予選突破を決めていただけに、見慣れない選手も多数、選ばれることになった。それ自体、歓迎すべきセレクションだろう。欧州で激しいシーズンを戦ってきた主力選手には休養が必要だし、選手層の底上げも急務だ。
しかし、拭えない違和感の正体はなんだろうか。結論から言えば、森保一監督が"戦術ありき"で選手選考をしているからだろう。
今回、熊坂光希(柏レイソル)、俵積田晃太(FC東京)、佐藤龍之介(ファジアーノ岡山)、鈴木淳之介(湘南ベルマーレ)など、Jリーガーが新たに代表に入った。彼らに共通するのは、チームが3−4−2−1(2トップにすることもあるが)という森保ジャパンのファーストチョイスと同じシステムでプレーしている点だ。
監督としては自ら用いてきたシステムを基本にするのは常道だが、その了見で選手を選抜するだけで、本当に力のあるチームが作れるのか?
順序としては、「選手ありき」の選考であるべきだろう。台頭した選手の力を生かすための工夫を施し、新たなコンビネーションを模索する。その試行錯誤にチームとしての成長がある。戦術、システムありきでは、スケールは小さくなるばかりだ。
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そもそも、俵積田はシャドーが最適なのか? FC東京では今季、そのポジションを任されているが、活躍は単発的である。彼の適性は、圧倒的なスピードと変化、技術を生かした左サイドアタッカーにあるだろう。1対1やカウンターで切り崩し、チャンスメイクしながら得点に関わる。シャドーの彼が能力を引き出されているようには見えない。
あるいは、森保監督は俵積田をシャドーで使うつもりではないのかもしれない。三笘薫を左ウイングバックに起用しているように、俵積田を左ウイングバックでも考えているのかもしれない。いずれにしても、"歪み"を感じさせる。プレミアリーグで二桁得点するようなサイドアタッカーを、守備の負担の大きいウイングバックで起用しているのだ。
【鈴木優磨と長友佑都】
監督が選んだシステム、戦術に選手を当てはめるところから亀裂が生まれている。
今シーズン、鹿島アントラーズは首位に立っているにもかかわらず、ひとりも代表に招集されていない。理由は4バックで戦い方が違う。それに尽きるだろう。
実力や活躍を評価したら、鈴木優磨は代表に選出されるべきだろう。鈴木は、目を背けたくなるような小競り合いもする。尖がった選手だし、集団の中で"毒"にもなる。しかし、気概のあるストライカーで健闘精神も強い。何より技術的に高く、ポストワークは洗練されているし、得点のスポットに入る集中力も、高さやタフネスも感じさせる。監督次第で、有力なカードになるはずだ。
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無頼の強さを生み出すには、鈴木の刺激を受け入れるくらいの器の大きさが必要ではないか。
一方、FC東京で主力でもない長友佑都を相変わらず選出している。その理由は「人間性や経験」だという。たしかに長友はチームへの忠誠心が強いし、ピッチに立つだけで戦う姿勢が伝わる。しかし走力は落ちたし、技術的にも世界レベルからは劣る。チームメイトは「空気を明るくしている」と歓迎ムードだが、選手に聞いて悪いことを言うはずがない。
「ワールドカップ優勝には欠かせない」という意見は、冗談にしか聞こえないだろう。ワールドカップ優勝を本気で狙うスペイン、フランス、アルゼンチン、ブラジルなどが、そんなモチベーターを必要しているか? 彼らは常に選手を入れ替え、競争力を高め、実力のある選手が自然とリーダーとしてチームを引っ張っている。
一方で、「若い選手のほうが従順で扱いやすい」――そんなことが、今回の選考では透けて見える。率直に言って、どの選手も「日本代表の新星」と言えるほどの活躍をしているわけではない。今回、代表から外れた三笘薫、守田英正、堂安律、板倉滉、上田綺世などヨーロッパで場数を踏んでいる主力選手たちを、彼らがこれから1年で追い抜けるのか。それは残念ながらイメージできない。
有力な選手を幅広く試す、というのが主眼だったら、なぜ海外で戦いながら、なかなか代表に呼ばれない、もしくはプレーする機会がなかった選手たちを多く招集しなかったのか。
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たとえば、横浜F・マリノスからMLSのバンクーバー・ホワイトキャップスに渡ったGK高丘陽平が未招集なのは謎だろう。定位置を奪い取って、守護神となっている。パワーのあるクロスやシュートにも対応し、ゴールキーピングの総合力は格段に上がった。北中米カリブ海ナンバー1を決めるCONCACAFチャンピオンズカップでは、準決勝でリオネル・メッシやセルヒオ・ブスケッツを擁するインテル・マイアミを破って決勝に進出した(決勝はクルス・アスルに敗れる)。
世界で活躍を遂げている日本人選手はいくらでもいる。短期間で、直感的に彼らをかけ合わせ、その実力を引き出す。それこそ、代表監督に問われる才覚ではないか。
単なる選手の「入れ替え」だけでは何も生まれない。