
嗚呼、プレミアリーグは眩(まぶ)しすぎる。
リバプールは圧倒的な強さでリーグ優勝した。マンチェスター・シティは無冠に終わったものの、ポテンシャルの高さを随所に披露した。ニューカッスルとチェルシーはチャンピオンズリーグ(以下CL)の出場権を獲得し、この至高のステージを目指したアストン・ヴィラとノッティンガム・フォレストは最終節まで熱く戦い続けた。
その一方、マンチェスター・ユナイテッドだけが「蚊帳の大外」で、もだえ苦しんでいる。CLの出場権どころか、トップ10にすら入れない。勝利数、負け数、得点数、失点数......などなど、さまざまなクラブワースト記録を更新して15位に沈んだ。勝ち点は42。2002-03シーズンのウェストハムは同じ勝ち点でプレミアリーグから降格している。
諸悪の根源が共同オーナーを務めるグレイザー・ファミリーであることに、疑問の余地は1ミクロンも存在しない。2005年、クラブを買収する際に7億9000万ポンドポンド(約1422億円)もの借財をし、高額の利子まで背負ってきた。極めて良好だったマンチェスター・Uの経営状況は、瞬(またた)く間に悪化する。
また、補強担当に会計士のエド・ウッドワードを採用。移籍市場で顔が利かないこの男はエージェントに足もとを見られ、チームにふさわしくない選手に無駄金をつぎ込んだ。2023-24シーズン限りで退団したラファエル・ヴァラン(2024-25シーズン終了時にコモで引退)は、こうこぼした。
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「なぜ要職についているのか、何をやっているのかわからない人間が多すぎる」
人格者の彼が不満を口にしたのだから、チームの病巣は根深い。2023年1月、現場の実権を握ったイギリスの大富豪ジム・ラトクリフ卿は、グレイザー・ファミリーが雇ったスタッフを250人以上カットしているが、その人数は今後も増えるに違いない。
サー・アレックス・ファーガソン退任後に監督となったデイヴィッド・モイーズも、マンチェスター・Uの名に傷をつけた罪人である。自らのプライドを示したかったのか、サー・アレックス体制下で成功を収めたスタッフの大半を切って捨てた。
その結果、マンチェスター・Uは多くのルートを失い、今もなお迷走が続いている。
【アモリムへの期待は膨らんだが...】
リバプールはユルゲン・クロップを、マンチェスター・シティはジョゼップ・グアルディオラを招き、プレミアリーグだけではなくヨーロッパの頂(いただき)にも立った。
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マンチェスター・Uはモイーズを解雇したあと、ルイ・ファン・ハール、ジョゼ・モウリーニョ、オーレ・グンナー・スールシャール、エリック・テン・ハフを監督に起用したが(暫定人事は除く)、プレミアリーグにもCLにも手が届いていない。ヨーロッパリーグやFAカップ、リーグカップは獲得したものの、納得のシーズンは一度もない。
テン・ハフもFAカップ優勝を免罪符として2024-25シーズンを迎えたが、上から目線の物言いと好き嫌いで選手を判断したことから、ロッカールームの信頼を完全に失っていた。
ラトクリフ卿は、テン・ハフ解雇のタイミングを完全に誤った。2023-24シーズン終了後に決断していれば、2024-25シーズン開幕を新体制で迎えていれば、ありとあらゆるワースト記録を更新するような大恥はさらさなかったと考えられる。
2024年11月11日に発足したルベン・アモリム新体制も、うまくいかなかった。
ヨーロッパ屈指の戦術家であり、ポルトガルのスポルティングを在籍5年で2度のリーグ制覇に導いた実績は高く評価されていた。監督に就任する5日前のCLではマンチェスター・Cに4-1で快勝し、その期待はさらに膨らんでいった。
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「3バックとか4バックではなく、選手のキャラクターを重視します」
フォーメーション論を披露する傾向にあったテン・ハフに辟易としていたメディアは、アモリムの第一声に好印象を抱いたのだが......。
GKアンドレ・オナナはあきれるほど守備範囲が狭く、コーチングの声すら聞こえてこない。DFハリー・マグワイアはスピード不足で、ウイングバックは左右とも人材が見当たらず(冬の市場でパトリック・ドルグを獲得したのだが......)、ウイングのアレハンドロ・ガルナチョは決定的なチャンスをことごとく外した。そしてセンターフォワードのラスムス・ホイルンドは前を向けず、シュートすら撃てない。
【絶対王者のイメージは消え失せた】
また、DFのリサンドロ・マルティネスとルーク・ショー、MFのメイソン・マウントといった各ポジションの主力が、負傷により長期の戦線離脱を余儀なくされた。MFアマド・ディアロも足首を痛めて2025年2月から2カ月ほど欠場し、経験不足の若手をリストに加えざるを得ない状況に追い込まれた。チームの傷口はますます拡がっていく。
それでもアモリムは、3-4-2-1にこだわった。基本システムが機能しない場合は4-2-3-1でも4-4-2でも、プランBを導入するのが監督の務めでもある。指揮官にはこだわりが必要だとしても、判で押したように3-4-2-1では、しかも機能していない並びでは、勝利の確率は極端に低くなる。
結局、アモリムが重視したのは、選手のキャラクターではなく、自らが信じるフォーメーションだった。
2024-25シーズンが終了し、世界中がマンチェスター・Uを叩いている。否定的なタイトルと記事内容が数を稼げるご時世とはいえ、監督・選手が発する後ろ向きの発言に、悪意を加えて脚色する。
辛口のOBとして知られるロイ・キーン、ガリー・ネヴィルも悔しさが手伝い、時にはコンプライアンスに引っかかるような批判さえも繰り返す。プレミアリーグ優勝から遠ざかって12年、CLからは17年が過ぎた現実が許せないのだ。絶対王者のイメージはとっくの昔に消え失せた。繰り返すが、2024-25シーズンは15位だった。
しかし、悪いことばかりではない。
CLだけではなく、ヨーロッパのコンペティションへの出場権を持たない2025-26シーズンは、ターゲットをプレミアリーグ一本に絞れる。試合は基本的に週1回。コンディションを整える時間は十分にあり、戦術を落とし込む余裕も生まれる。
補強も今のところ順調だ。ブラジル代表FWマテウス・クーニャをウルヴァーハンプトン・ワンダラーズから手に入れ、カメルーン代表FWブライアン・ムベウモ(ブレントフォード)との交渉も好感触だという。
【15位の屈辱から上を向くだけ】
さらにディアロが22歳、レニー・ヨロとエイデン・ヘブンは19歳と、アモリムのプランに適した若手たちが成長した。新シーズンは大きな飛躍が期待できる。
グレイザー・ファミリーが背負った借財を除き、サー・アレックス退任後に積み重ねた悪しき行状は、2024-25シーズンにすべて吐き出した......と信じよう。15位という屈辱を味わったのだから、あとは上を向くだけだ。
完全復活を目指し、何度だって「リセット」すればいい。