
ウナギ・サヤカ 東京ドームへの道 vol.2
■後編
(前編:自主興行で前田日明に受け身を見せた真意「黙っているわけにはいかなかった」>>)
4月26日、両国国技館にて自主興行『ウナギ絶好調』を開催したウナギ・サヤカ。「全員を幸せにするプロレス」をコンセプトに、多幸感溢れる空間を見事に作り上げた。
大会の最後、ウナギはマイクを持ち、こう言った。「今、なんかちょっとやらかしたら、死ぬほど袋叩きにされて吊し上げられて、そんな世界だけど、みんなも絶対にやりたいことやるの諦めないでください。つらくなったら、悲しくなったら、いつでもプロレスを観に来てください。すべてのプロレスラーが、あなたたちの代わりに闘います」――。
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ウナギ・サヤカは今、何を思うのか?
【「バカなことをやりたいんだったら、正義を見せて」】
――叩かれることを恐れるがあまり、行動できなくなっている人が増えているのかもしれません。
ウナギ:今度、仙女(センダイガールズプロレスリング)のタッグベルトに挑戦するにあたって(6月8日@新宿FACE)、岡ちゃん(岡優里佳)をパートナーに誘ったけど、波紋なんて起こしてナンボじゃないですか。
――もともとは、岡選手と桃野美桜選手が持っていたベルトですよね。桃野選手が欠場して岡選手は今パートナーがいないから、ウナギさんが誘ってタッグを組んだ形。ただ、岡選手とウナギさんのXのやり取りはちょっとハラハラしますが......あれは、大丈夫なんですか?
ウナギ:え、わかなんないけど、どうにかなる。
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―― ウナギさんの言っていることが正論すぎて、岡選手がちょっと気の毒なような。
ウナギ:岡ちゃんは桃野美桜とタッグを組んでからふざけた感じになって、まあ可愛いし、面白いんですけどね。たぶん私のせいというか、私の影響で先輩に対してタメ語で喋ったり、呼び捨てしたりする子が増えたんですよ。
――確かに、ウナギさん以降、増えた気がしますね。
ウナギ:でも、あれをやるのって、めっちゃ勇気が必要で。叩かれるのはもちろん大前提で、芯を食ったことを言わないと潰されるんですよ、絶対に。バカになるって、本当に考えてやらないと自分の心にもすごいダメージがあるし、ただのバカで終わるだけになっちゃう。私がいろんなものに盾ついてきたから、それが正解だと思っちゃってる子もいると思う。
――すごくリスキーですね......。
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ウナギ:バカなことをやりたいんだったら、やりたいなりの正義を見せてほしいと思う。私が岡ちゃんと初めてシングルした時って、まだ解き放たれていない岡優里佳だったんですよ。そこから解き放たれた先で、「何かを見せるためにやっているんだ」というのは、考えられていない気がする。別に何をやってもいいけど、やっぱり考えていないと潰れるのは自分なので。そこに強さがあればいいんですけどね。
――強さというのは、リングで勝つ強さ?
ウナギ:はい。勝てないんだったら、本当に「ただのバカが負けた」ってなっちゃうから。そう見せないための努力を、まだ彼女は見つけられていないのかなと思う。
【プロレスを面白くするために「私は常に考えている」】
――ウナギさんの言うことは本当に全部、芯を食っているし、本心で言っているんだろうなというのがわかるから、グサッときているレスラーもいる気がします。
ウナギ:全部、本心ですね。私、常に見ているんですよ。誰が誰に対して何を言っているとか。その上で準備してますね。次にその人と当たった時に、言いたいことはこれっていうのは、常に考えている。じゃないと、(自主興行で)あんなカードは考えられないですよ。「マッチメイク、いつ考えてるんですか?」って聞かれるんですけど、私は常に考えていて、「この人とこの人がやったら絶対面白いじゃん」とか、「こういうルールでやったら盛り上がる」とか、何をしている時でもずっと考えてます。
Netflixも、YouTubeも、「すべて吸収してやる」と思いながら見てますね。プロレスだけ見ていても、プロレスをさらに面白くするものなんて存在しないので。今あることをやってもしょうがないから、新しいものを作るって考えた時に、外から吸収してくるのが一番大事だと思う。
――じゃあもう、24時間というか、起きている間はずっとプロレスのことを考えている?
ウナギ:ずっと考えてます。マッチメイクもそうだし、物販だったり、(2023年春に設立した「株式会社ウナギカブキ」の名誉平社員=ファンが持つ)社員証とかも。
――そういえば、私も「ひつま武士名誉平社員」(YouTubeのメンバーシップ)になりましたよ。月額590円で、後楽園ホールのワンマッチ興行も、両国自主興行もフルで視聴できるなんて、お得すぎる!
ウナギ:ありがとうございます!
――最近の動画ですごくよかったのが、『ウナギ・サヤカとプロレスを観に行ったら......』(プロレスルールの解説動画)です。ウナギさんが可愛すぎて、本当にキュンキュンしました。どういう経緯で撮ることになったんですか?
ウナギ:プロレスのルールを説明する動画って世界中にあるんですけど、恋愛シミュレーションゲームみたいな、昔の人だったら"刺さる"感じの動画があったら面白いんじゃないかという話を、今成(夢人。ガンバレ☆プロレス所属)さんとしたんです。バカっぽいのがいいから、「ササダンゴ(スーパー・ササダンゴ・マシン/マッスル坂井)も入れましょう」ということで、ササダンゴに脚本をお願いしました。
――豪華ですよね。脚本・マッスル坂井、撮影・今成夢人。もうね、今成さんのむっつりな感じとか、いい意味でねちっこい感じがすごく出ていて、最高でした。
ウナギ:撮影してる時なんて、ただの変質者でしたよ。「マジでけっこう、気持ち悪いですよ」ってずっと言ってた。
――アハハハ! 他の動画も、今成さんが撮っているんですか?
ウナギ:他の動画は、ちゃんとしたYouTubeの人が撮ってます。それも運命的なんですけど、ワンマッチの時に初めてプロレスを見に来てくれた人で、「これはもうやりたい」みたいな。彼の得意ジャンルは密着なので、これからたぶん密着動画が上がっていくんじゃないかな。
――突然、YouTubeに力を入れ始めたから、何かあったのかなとは思ったんですよね。
ウナギ:やっぱり"外"に届けたいんですよね。ゴールデンウィーク中に7試合したけど、パンパンの会場なんてひとつもなかった。連休はみんな家族で出かけるのかもしれないけど、その外出先がプロレスになってほしいな、というのがありますね。野球みたいな感じで、家族でとか、デートでとか、そういうものに変えられたらいいなと思ってます。"幸せなプロレス"を掲げたからには、知ってもらうことが大事だと思うので。
【苦しかった時に寄り添ってくれた長与千種と彩羽匠】
――「プロレスで全員を幸せにしたい」とおっしゃっているけれど、今回の両国では、(前編で話したように)前田日明さんが登場した件で幸せにならなかった人たちもいたと思います。そこは難しさを感じましたか?
ウナギ:難しいですね。なんかもう「捉え方だな」と思うところはあって、一定数、否定的に捉える人もいますよね。でもやっぱり、里村(明衣子)さんとのワンマッチの時は、誰ひとり何も言わなかったし、言えなかったので。あのくらい圧倒的なものを作るしかないのかなとは思います。
――批判はともかく、なんで誹謗中傷しちゃうんでしょうね......。
ウナギ:その誹謗中傷する人が苦しい時に、救われなかったことが原因だと思うんですよ。私もスターダムをクビになって、"ギャン期(ウナギの造語。他団体参戦をメインにした期間)"に入った時に誰も助けてくれていなかったら、もっと違う気持ちでやってたと思う。「スターダム、見てろよ!」という負の感情だけだったと思うし、そういう時に助けてくれた人がいるかいないかは、かなり大きいんじゃないかなと思いますね。
――両国のマイクで「スターダムをクビになって、一番苦しかった時に寄り添ってくれたのは、長与千種と彩羽匠でした」とおっしゃいましたね。
ウナギ:一番しんどい時に、あのふたりが「とりあえずマーベラス出ろ」って言ってくれたんですよね。本当に明日がない状態だったので。もちろんその段階で「じゃあ出てよ」って言ってくれる人たちもいっぱいいましたけど、乗り込みっていうスタイルを作ってくれたのはマーベラスだったのかな。
(宝山)愛ちゃんから始まり、Mariaとやって、彩羽匠を狙ったけど(彩羽が)肩をケガしちゃって。地元の博多凱旋となるはずだった大会にも肝心の彩羽匠が出られないってなった時に、「チケット100枚売ってきます」ってやったりとか。他の団体とは違う関わり方をしてきたなとは思う。
でも、マーベラスだけが特別なのは自分も気持ち悪いし、違う団体には違う還元の仕方をしたいという気持ちがあって。各団体との関わり方だったり、見せ方だったり、ただ「やりたい」っていうだけじゃなくて、全部別の形で表現していきたいなと思ってます。チーム200キロ(橋本千紘・優宇)対ひとり(ウナギ)とか、ZERO1の火祭り(女子レスラーとして初めて参戦)とかもそうですね。
――8月からは「7番勝負」が始まります。毎月、自主興行を開催して、来年2月まで全7大会。7番勝負は新人がやるイメージですが、今このタイミングで自分に課そうと思ったのはなぜ?
ウナギ:スターダムに入った時に7番勝負をやってもらって、あれで本当に自分のプロレス観が大きく変わったんですよね。そういう意味も込めて、今、自分が強くならなきゃいけない時に、7人の強い奴と闘っておきたいなと思ったんです。
――7番勝負をやると、本当に変わりますよね。スターダム時代のウナギさんもそうだったし、赤井沙希さんとかも、ビフォー・アフターが全然違う。一気に成長するから、今回も期待してます。
ウナギ:はい、私も楽しみです。
――その前にまたインタビューさせてください。ありがとうございました。
【プロフィール】
■ウナギ・サヤカ
1986年9月2日、大阪府生まれ。2019年1月4日、東京女子プロレス後楽園ホール大会にて「うなぎひまわり」としてデビュー。2020年11月、スターダムに初参戦。コズミック・エンジェルズを結成し、12月、アーティスト・オブ・スターダム王座を戴冠。2021年7月、フューチャー・オブ・スターダム王座を戴冠。2022年10月よりフリーになり、"ギャン期"と称して他団体に参戦。2023年10月、KITSUNE世界王座の初代王者、2024年1月6日、JTO GIRLS王者、1月7日、アイアンマンヘビーメタル級王者となり、三冠王となる。2024年1月、9月、後楽園ホールにて2度の自主興行を開催。2025年4月26日、両国国技館での自主興行を成功させた。168cm、54kg。X:@unapi0902