
F1第9戦スペインGPレビュー(後編)
◆レビュー前編>>
スペインGP予選で最下位に沈んだ角田裕毅(レッドブル)は、リアウイングやサスペンションのセットアップなどを変更し、ピットレーンからスタートすることを選んだ。
この週末に抱えてきた「謎のグリップ不足」という根本的な問題が、これで解決できるとはチームも考えていなかった。だが、後方から中団勢をオーバーテイクして自分のレースをしていくには、薄いリアウイングにつけ替える必要があったからだ。
さらにチームは3ストップ作戦を採用。新品が3セットも余っていたソフトタイヤをフル活用するレースを選んだ。
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角田は早め早めのピットストップで、中団勢のライバルよりフレッシュなタイヤで好ペースを刻む。最後は残り20周で18秒前の10位ピエール・ガスリー(アルピーヌ)より13周フレッシュなタイヤで、1周2秒以上速いペースで急速に追いかけていく展開に持ち込んだ。
その間に挟まった目の前のカルロス・サインツ(ウイリアムズ)は10周、オリバー・ベアマン(ハース)は9周のタイヤ差。リアム・ローソン(レーシングブルズ)とフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)だけはタイヤ差がほとんどなく、実質的に彼らとの入賞争いだった。
「2ストップと3ストップで(レースタイムは)そんなに変わらない。それであれば、とにかくフリーエアでペースを生かして走ることを目的に3ストップ作戦を選びました。
ペースは僕らが求めているレベルではないものの、中団グループと比べれば悪くなかったです。ポイントを獲れる可能性もあったと思います。でも、最後のセーフティカーが不運でした。あれがなければポイントが狙えたかもしれないので残念です」
55周目にアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデスAMG)がパワーユニットのトラブルでマシンを止めたことで、セーフティカーが導入。これで全車ピットインしてタイヤ交換ができてしまったため、3ストップ作戦で作り出してきた角田のタイヤアドバンテージは霧散した。
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【実力と無関係のところで終わった】
見た目上のマシンは、ペースが改善していたようにも感じられた。しかし、それはレースペースだからこそ目立たなかっただけで、根本的な問題は改善できていなかったという。
「残念ながら改善していませんでした。レコノサンスラップ(※)の時点でそれは感じられていましたし、本来のグリップレベルにはなっていませんでした。
※レコノサンスラップ=決勝レース開始前にピット出口からコースインしたマシンがコースを1周して、ダミーグリッドに着くまでの走行のこと。
特に大きな変化は感じられませんでしたが、少なくとも今日のデータから何かは学べると思います。セットアップを変更して、僕のことを最大限サポートしてくれたチームには感謝しています」
イモラからの3連戦はいずれも予選で不発に終わり、本来の速さを結果につなげることはできなかった。特にこのスペインGPの週末は、自分の実力と無関係のところで終わってしまった。
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スペインでの結果について、角田は意に介していない。純粋な速さという点では、チームからも高い評価を得ていると明かす。
「正直に言って、今週末は特殊だと思っています。イモラとモナコは運に恵まれなかった部分もありましたし、モナコの予選でうまくいかなかった部分もありますけど、それを除けば、いくつかのセッションで見えてきたペース自体は悪くないと思います。
イモラやモナコのFP1でマックス(・フェルスタッペン)より速いペースで走れたレッドブルのドライバーはいなかったので満足していると、チームから何度も聞かされています。もちろん、彼と同じレベルで走れるようになるにはまだまだ改善が必要ですけど、いくつかのセッションではその片鱗は見せられているのではないかと思います」
イモラのQ1でクラッシュして交換を余儀なくされて以来、角田はスペアモノコックを使っている。それでもイモラの決勝ではピットスタートから入賞を果たしたように、スペア使用の問題は見受けられなかった。
【カナダGPは新アプローチを採用】
ひとつ考えられるとすれば、モナコGPの決勝でガスリーに激しく追突されたことくらい。リアタイヤを直撃したために見た目上のダメージは受けなかったものの、モナコの低速域では気づけなかった何らかの異変がモノコックやICE、ギアボックスなどマシンの基本構造をなす部分に及び、走行性能に影響した可能性もある。
レッドブルといえば、ほかにも参戦初年度(2021年のアルファタウリ)のシーズン前半戦の角田や、昨シーズン序盤戦のダニエル・リカルドなど、原因不明のグリップ不足に苦戦したことも記憶に新しい。
いずれにしても、チームは3連戦を終えてファクトリーに戻ってくるマシンを徹底的に調査する予定だ。角田もファクトリーでエンジニアたちと気になる点を見直し、次のカナダGPに向けて新たなアプローチを採るつもりだという。
「カナダGPに向けてはいろいろと変える予定なので、そこは希望が持てます。僕がやりたいと提案したことに対して、チームも100パーセント賛同してくれています。来週ファクトリーでやることをすごく楽しみにしています。それが何か変化につながることを願って」
あまりの衝撃的な結果に世間では、角田の実力を疑う以前にドライバー交代論が直情的に沸き起こってしまっている面もある。だが、当の角田やレッドブル自身は現実を見ている。
ここ数戦で進んできたマシンへの理解と、着実に縮まっているフェルスタッペンとの差を、次こそはしっかりと結果につなげてもらいたい。