
『ファンタジー・オン・アイス2025』レポート 後編
5月31日、6月1日に幕張メッセ(千葉市)で開催された『ファンタジー・オン・アイス』。出演だけでなくステージの演出も担当した俳優の城田優や、このショーの常連スケーターであるステファン・ランビエールなどとともに今回の主役になったのが、ロシアのアリーナ・ザギトワ(23歳)とアンナ・シェルバコワ(21歳)。ともに五輪金メダリスト&世界女王のふたりだった。
【持参した"友愛"ランタンで登場】
今回のショーではジャンプを封印し、表現に傾注したザギトワは、まず第1部最後のスペシャルコラボレーションで登場した。
歌手の露崎春女とエリアンナが1970〜80年代のディスコナンバーを歌い、織田信成やランビエールと、アイスダンスのロランス・フルニエ・ボードリー/ギヨーム・シゼロン、さらにアンサンブルスケーターも加わり、往年のダンスフロアの熱気を氷上に再現するプログラム。そのなかでザギトワは、1曲目の『Conga』でアンサンブルスケーターを従えたディスコ・クイーンを、キレのいい動きで演じて会場を盛り上げる。
そして第2部では、Queenのフレディー・マーキュリーが「誰が永遠に生きたいと思うのだろうか」と歌い上げた『Who Wants to Live Forever』を露崎とエリアンナが歌うプログラムに登場。最後のスペシャルコラボレーション『ダンス オブ ヴァンパイア』の前の、物語の序章となる重要なプログラムだ。
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薄暗いなかでリンクに上がったザギトワは、手にしていたランタンを氷上に置き、オレンジ色の明かりを灯して静かに舞う。このプログラムを演じるにあたり、ザギトワはこだわりを見せた。自分で選んで持参したランタンには「友愛」の文字。衣装には電飾をほどこし、暗いなかでの演技を意識したものを用意。静謐(せいひつ)でなめらかな滑りを披露して存在感を見せた。
【思いがにじむ演技で魅了】
一方、シェルバコワもこだわりのあるプログラムを見せた。第1部で演じたのは、「これまでとは違った表現をしたい」と自ら選んだ『My Tunnels Are Long and Dark These Days』。イスラエル人アーティストのアサフ・アビダンが、友人からの絶望を伝えるメールに触発されてつくった、「暗闇でも何も恐れることはない」と心にしみ込むような歌声で語りかける曲。
しなやかでありながらも、身体に凛とした芯が通ったような滑りのなかにダブルアクセルを入れ、スピードにもメリハリをつけながら感情を心に冷静にため込むような演技だった。彼女の複雑な胸中がにじみ出てくるかのようで、観客もその踊りを静かに見守った。
そして、城田優とのコラボナンバーである最後の『ダンス オブ ヴァンパイア』では、吸血鬼クロロック伯爵に狙われる宿屋の娘サラを演じた。
闇のなかでヴァンパイアたちに追いかけられながらも逃げのびたサラだが、伯爵の誘惑に心を許して出かけてしまう。劇中に3度登場するシェルバコワは伸びのある滑りで役を演じると、最後は情熱がにじむ演技で伯爵の下に行ってしまい犠牲になる。
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フィナーレでは、イーグルを見せるザギトワとともに、シェルバコワはきれいなスパイラルを披露。ともに、存在感を見せつける滑りだった。
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