USスチール買収で「良質の鉄」「巨額投資」が日米関税交渉のカギに?【Bizスクエア】

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2025年06月04日 06:00  TBS NEWS DIG

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TBS NEWS DIG

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アメリカのトランプ大統領が「米国がコントロールし続ける」と強調する日本製鉄のUSスチール買収計画に進展が。日米関税交渉への影響は?

【写真で見る】日米関税交渉の様子、協議後の会見を行う赤沢大臣

鉄鋼の追加関税2倍の「50%」に

日本時間31日の朝。USスチールの本拠地ペンシルベニア州ピッツバーグでー

トランプ大統領:
「我々はきょう、歴史ある米国企業が米国企業であり続けることを保証する大きな合意を祝うためにここにいる。USスチールは素晴らしいパートナーを得ることになる」

ヘルメットに作業着姿の労働組合員も多く登壇し、声高らかに演説したトランプ氏。「日本製鉄は140億ドル(約2兆円)を投資すると約束した。これはペンシルベニア州で史上最大の投資であり鉄鋼産業史上最大の投資になる」と成果をアピールし、改めて強調したのが…

トランプ大統領:
「一番大事なことはUSスチールが米国にコントロールされ続けることだ。そうでなければ私は取り引きしなかった」

そして、アメリカに輸入される鉄鋼に25%の追加関税を課し「50%」にすることも発表した。

買収成否のカギ?「黄金株」とは

集会では最大の焦点になっていた【日本製鉄によるUSスチールの完全子会社化を認めるか】についての言及はなかったが、25日には「投資であって部分所有だ。米国がコントロールする」と強調していた。これはどういうことなのか。

『ニッセイ基礎研究所』井出真吾さん:
「アメリカ側はUSスチールを完全に日鉄に譲り渡すつもりはないと。経営権は一定程度渡したとしても最終的にコントロールする権限はアメリカ側が持ち続けたい意向を示している。そこで出てきたのが“黄金株”」

「黄金株」とは、経営上の重要事項に拒否権を持つことができる特別な株式のこと。27日、共和党のマコーミック上院議員がテレビ番組で「黄金株をアメリカ政府が持つ案が検討されている」と発言した。

井出さん:
「例えばアメリカ政府が黄金株を1株だけ所有していれば、USスチールの取締役の指名や他の企業との重要な業務提携などの経営方針に反対・拒否権を発動することができる。アメリカ政府にしてみれば鶴の一声を発することができるものだし、日鉄側から見れば苦肉の策かもしれないが、“完全子会社化を手に入れるための魔法のステッキ”みたいな言い方も出来るのかもしれない」

USスチール集会での“演出効果”

“合意を祝うため”とピッツバーグで開催された集会。現地で取材したワシントン支局の涌井文晶記者は、【USスチールの労働者や全米鉄鋼労働組合の組合員を多数登壇させた】“演出効果”に注目する。

涌井記者:
「労働組合の執行部は現時点で日本製鉄による買収計画に反対の姿勢を崩していない。そうした中で“組合員は多く賛成しているんだ”ということが、アメリカに中継されるトランプ大統領の演説の場で明らかにされた。これは執行部にとっては大きなプレッシャーになったのではないか」

また、集会では【あえて完全子会社化を認めるかどうかには触れなかった】と見るのは、日米の通商交渉に詳しい細川昌彦さんだ。日本製鉄の「買収額」と「投資額」がほぼ同じ点にも注目している。

【日本製鉄の“買収”費用】
▼買収額⇒141億ドル(2023年12月)
▼投資額⇒140億ドル(23日トランプ氏SNS)
あわせて“281億ドル(約4兆円)規模”

明星大学教授 細川昌彦さん:
「<141億ドルで買収>と<140億ドル投資>でバランスを取って、わざと同額にしていると思う。そして自分の都合の良いところ(投資)だけを見て発言する」

ーー買収額の141億ドルはUSスチールの株式を株主からTOBで買うお金。それとは別に設備更新などに投資する140億ドル。この投資額は当初から4倍、5倍に引き上げている

細川さん:
「投資のほうだけ“自分が交渉して取ってきた戦利品”としてアピールする。選挙キャンペーンみたいなもので、都合のいいところだけ話をして、買収のところを認めた認めてないというのは全く触れないということを、あえてしているということ」

「黄金株」の狙いは?

さらに【黄金株】の話も、<アメリカがコントロールする>と“トランプ氏が言えるようにするため”のものだという。

〔黄金株〕=拒否権付種類株式
▼持ち株1株でも重要事項に対して拒否権を行使できる特殊な株式
▼拒否権が行使できる内容は話し合いで決定

細川さん:
「“コントロールしている”という外見をいかに確保するかというところがポイントで、その手法の1つが<黄金株>。他にも、アメリカ政府と日鉄が<経済安全保障協定>のようなものを締結するというやり方もある」

ーーそうすれば100%日鉄が株を持っていても、最終的にコントロールしているのはアメリカだと言える

細川さん:
「大事なことは『この会社をアメリカがコントロールする』とトランプ氏が言えるようにするということ。今後それが具体的になると思うが、“グリップしている”という証をどうつけるかということ」

関税交渉4回目「合意に向けた議論が進展」

では、このUSスチールの買収の話は、集会と並行して行われた「4回目の日米関税交渉」に影響はあるのだろうか?

ワシントン支局・涌井記者:
「集会を終えワシントンに戻ったトランプ氏は、報道陣から関税交渉への影響を聞かれ『それほど関係しないが悪い影響はないと思う』と説明している。ただ、日本製鉄の巨額の投資と引き換えに関税を引き下げてくれるかどうかは現時点ではっきりしていない。日本政府にとってはどうアピールしていくかという思案のしどころになっている」

日本時間の30日夜、アメリカのベッセント財務長官・ラトニック商務長官と約2時間にわたる4回目の関税交渉を行った赤沢亮正経済再生担当大臣。

協議後の会見では、交渉の全体の進捗状況については「答えるのを差し控えたい」としつつ、主に次の4点を口にした。

【赤沢大臣発言】(協議後・日本時間31日朝)
▼合意に向けた“議論が進展”していることを確認した
▼関税措置の見直しを強く求めており、かなわない形では合意は困難
▼“パッケージ全体”で最終的に合意が成り立つかが重要
▼G7サミットの際の日米首脳間の接点に向けて、調整を加速化しその前に再び協議を行う

ーーキーワードは【議論の進展を確認】。これは自信がある時じゃないとなかなか言えない言葉で、しかも赤沢大臣は協議後に日本は深夜なのに石破総理に電話で報告をしてる。何か進んだか、何かあったかということ

明星大学教授 細川昌彦さん:
「日本が一番重視している自動車の追加関税。前回の交渉でも自動車関税の主たる所管であるラトニック商務長官とも“さし”でじっくり話をしているので、決して“交渉外”になっていないということが明確になっていることが大事なポイント。ただ意見の差はあるので、これをG7サミットまでにどう近づけていくのかということだと思う」

ーー赤沢大臣の「パッケージ全体での合意が成り立つことが重要。それが叶わない形で合意は困難」というのは、要は自動車関税を下げないなら、他のものも出さないよということか

細川さん:
「そういうこと。『単に相互関税の話だけでは、話に乗りませんよ』ということを暗に言っている」

交渉のカギは「米製造業への貢献」

また相互関税・自動車追加関税の撤廃・軽減に向けて使えるポイントは5つあるという。

▼対米投資
▼自動車の安全基準
▼農産物の購入(他 防衛装備品)
▼経済安全保障
▼産業協力

中でも「ものすごいカギになる」というのが【対米投資】だ。

細川さん:
「一番大事なのは【何のために関税をかけるのか】という点。アメリカの生産と雇用を増やすためならば関税をかけなくても、日本は【対米投資】をこれまでもやっているし、これからもやりますよと。イギリスとの合意があったが、実はイギリスは対米投資をほとんどやっていない。それに引き換え日本の実績、そして今後の予定、これは大きなカギになって結果が出るのではと思う」

そして▼鉄鋼▼自動車▼造船▼半導体▼レアアースなどの【産業協力】でも、日本製鉄のUSスチール買収は大きなカギになるという。

細川さん:
「実は、これ全部絡んだ話。品質の良い自動車用の鋼板ができれば、自動車の工場進出など対米投資をする環境が整う。造船も、アメリカが凋落して日本が造船協力すると話題になっているけど、これも良質の鉄鋼がないとできない」

ーー鉄があって初めて自動車や造船の投資が現地でできると

細川さん:
「鉄鋼、自動車、造船など別々に見るのではなく、一体的にアメリカの製造業を強化していくんだということに繋がっている。なので今回の鉄鋼の動きは、非常に自動車・造船に大きく影響して話が進んでいくのではと思う」

(BS-TBS『Bizスクエア』 2025年5月31日放送より)

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