コロナ禍を経て、ビジネスシーンではオンラインでのミーティングがすっかり定着した。オンラインは対面に比べると、ルールが曖昧でビジネスマナーが確立されていない側面もあり、目線、服装、仕草、背景の設定などで、相手に残念な印象を与えてしまうケースもちらほら見られる。
著書『学校でも会社でも教えてくれない 見た目の教科書』(ダイヤモンド社刊)で、印象アップや信頼関係構築に必要なスキルを提言している、印象戦略コンサルタントの乳原佳代氏に、オンラインミーティングの際のイメージ戦略で重要なポイントを聞いた。
●オンラインにおいても相手と服装の「格」を合わせるのが重要
――リモートワークで自宅からオンラインにつながる場合、「プライベートと仕事の境界線が曖昧になってしまう」という声を聞くことがあります。ついついラフな服装で会議に出たら、周りはみんなスーツで冷や汗をかいた、といった経験を持つ人も多いのではないでしょうか。
|
|
相手がスーツでオフィスから参加される想定の時に、いくらこちらは自宅であっても、丸首のTシャツ、パーカーみたいな、部屋着っぽく見えるものの着用は避けたほうがいいですね。
相手が会社に通勤されているということを尊重して、こちらはせめて襟付きのシャツ以上、丸首のシャツなら、ソフトな素材のジャケットを羽織る。女性であれば、せめて編み目の細かいニットやブラウス以上でないと、やっぱり礼に欠くと思うのです。
オンラインでの洋服は、相手の立場、場所、時間帯などに対して配慮できることが大切になってきます。取引先など社外の方とのミーティングの場合は、より一層心遣いが求められます。戦略というと、なんだか戦闘モードのようですが、実は相手への思いやり。お互いに温かな気持ちになり、こちらの主張を受け入れていただく信頼関係を築くということなのです。
――先方の情報が少なくて、着る服を迷ってしまう時もあると思います。その場合、何を念頭に置いて服を決めるといいでしょうか?
服には格があります。Tシャツなど丸首のものは、最もカジュアルです。次にビジネス用ポロシャツやワイシャツは、丸首に比べてちょっと格が上がります。そこにジャケットを羽織ったり、ネクタイをすることによって、よりフォーマル度が上がるんですね。
|
|
自宅から参加される場合、あえてスーツを着る必要まではないと思います。ただし、初対面の場合やこちらが何か依頼をする立場であれば、少なくともソフトジャケットはお召しになるべきで、さらに謝罪となるときちんとしたスーツをお召しになる方が間違いはないと思います。
相手を判断するのに0.1秒で十分という統計があります。つまり言葉を発する以前に、お互いに見た目で見極め合っている事実は避けられないのです。
――服の格でこちらの心持ち、誠意も伝わるということですね。
そうです。服装はオンラインの画面の中でもかなりの分量を占めるので、印象に残りやすいんです。だから、服装次第でイメージを良くも悪くも変えることができるということなんですよ。
●装いが自身の思考や行動に影響をもたらす
|
|
――ちょっと極端な例ですが、画面に映るところだけ気を付ければいいと考えて、上半身だけシャツ+ジャケットできちんと見せるけれど、ボトムスはパジャマのままでいいや、なんていう人も一定数いそうです。
私は、洋服でなりたい自分、相手に認識してほしい自分を演出することは大切だ、というお話を普段からしています。ところが実際に着る服によって思考・感情・行動も変化するということが科学的に裏付けられているということが分かりました。それは、米国・ノースウェスタン大学のアダム&ギャリンスキーが提唱する「被服認知」という心理学の理論です(Adam & Galinsky,2012)。
ですから、パジャマのズボンを履いていたら後ろめたさもありますし、それが自信のない振る舞いとしてにじみ出てしまうかもしれないですよね。やっぱり相手と真摯に会議をするのに相応しい服装ではない、ということです。
――それとPCの画面は、ピクセルの配列が格子柄になっているため、洋服の柄と干渉し合うとモアレが出ることがあります。その意味では、柄選びにも注意が必要ですか?
はい。幾何学模様、チェック、小紋など、細かく連続しているような柄は、モアレが出やすいので、柄物のネクタイをされる時は注意が必要です。
やはりモアレが出ると、そこが気になってお話に集中できないですよね。オンラインでは「画面に余計な印象を与えるものを見せない」が鉄則だと思います。その点で、無地の服は無難と言えます。
――服装と同じくらい、オンラインでは背景も気になるポイント。自宅の場合、プライベートが見え過ぎてしまう懸念もあり、何が正解か迷うところです。
先ほども申し上げたように、「余計なものを見せない」が基本なので、背景は白い壁を基調としたシンプルな空間であるに越したことはないです。
ただしここに戦略を盛り込むのであれば、本棚の前に座ることで教養をアピールする、インテリアにこだわりを見せてセンスをアピールするなど、映り込む背景を積極的に活かすこともできます。
以前、ご自宅から会議に参加されていたある男性ですが、次の日に着るスーツとネクタイをビシッと美しくハンガーにかけているのが見えて、「こういう風に翌日の準備をされるんだ。きちんとしていて素晴らしい」と好印象を持ちました。これがもし、だらしなくかかっていたら、生活感が出てマイナスの印象になったかもしれないですけれどね。
――なるほど。背景も服装同様にイメージ戦略に有効なんですね。それでは、ぼかし背景はいかがでしょうか? 実際に使っている人も多い印象です。
そうですね。でもぼかし背景って、「部屋が片付いていないから、ごまかしているのかな?」とも取れますよね(笑)。あるいはプライベートをあえて見せないとなると、距離感を感じ、冷たい印象になります。
そのほか、さまざまなバーチャル背景もありますが、ゴージャス過ぎてあざとく思われたり、カジュアル過ぎてビジネスの場にそぐわなかったりも。ですから、どんな背景にしろ、主張の仕方や相手に余計な詮索をされないようなものかを吟味してから採用するといいと思います。
●オンラインは公の場 見られている意識を持つ
――対面と比べるとオンラインでは、相手の表情や雰囲気がつかみにくく、相手に対する親近感も抱きづらいと聞きます。これから関係性を築いていきたい時に、印象アップに効果的な仕草や行動を教えてください
ミラーリング効果という心理学の理論があります。それは、好意を持っている相手の表情や動作を無意識に真似ることで、真似られた方も相手に親しみを覚え、親近感や信頼感が増すというものです。
オンライン会議なら、話している人のリズムに合わせて大きく頷くとか、共感のリアクションを取る。「そうですよね」と相槌を打つことで、ミラーリング効果が期待できます。また、ちょっと前のめりの姿勢を取るのも、相手の話に聞きにいっているように見せるという意味で大切ですよ。
――ミーティング中は、一人一人の顔が画面に等分で映るので、話をしている人はもちろん、聞いている人の表情も案外見られていますよね。
例えばしかめっ面で聞いている方がいると、「面白くないのかな」と不安に思うことがありませんか? 多人数の会議の時、他の作業をやりながら参加されている方もたまにいらっしゃいますが、それは相手を不安にさせると思いますので、あらかじめお断りを入れておくか、いっそのこと画面オフにした方がいいかもしれません。
たとえオンラインでもつながっている以上「公の場」だということを意識し、相手に失礼にならない誠実な行動を心がけることが大事です。
――オンライン会議の“あるある”なのですが、一人の人がダラダラ長く話して、他の方が発言する時間がなくなってしまうことがあります。そういったケースは、印象戦略という意味ではいかがでしょうか?
自分に与えられている時間の配分、求められている立場を理解できてない方なのかもしれませんね。オンラインは特に、コンパクトに要点を押さえた発言を心がけることは、とても大事です。会話がキャッチボールになるよう、自分が発言した後に皆さんにご意見を求めるなどの双方向コミュニケーションがあるとなお良いと思います。
私が考案した〈TPO×PPP=I〉の法則は、こういった場面にも応用できます。TPOは、「T=時間(Time)、P=場所(Place)、O=場面(Occasion)」を表します。PPPは、「P=立場(Position)、P=相手または同行者(People)、P=目的(Purpose)」を示し、それらを掛け合わせて導き出すのが「I=相手が望むあなたの印象(Image)」です。自分の立場や求められている役割を常にわきまえておくことで、イメージダウンは防げると思います。
良い印象は、服装など見た目に気を配ることだけではありません。相手の時間をも尊重し、ご自分のことをわきまえる慎み深い姿こそが、その人の良い印象として残り、コミュニケーションに役立つのです。
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。
「洗濯機が爆発する!?」洗濯機で洗うと、とんでもないことに…なぜ?専門家とメーカーに聞いた(写真:まいどなニュース)2
梅雨の前「足ムレ」に注意 “意外なモノ”で消臭効果? 聞きにくい“ニオイ”の悩み【Nスタ解説】(写真:TBS NEWS DIG)6