
今注目されている「基礎年金の底上げ」問題だが、かつて騒がれた老後の「2000万円問題」は、もはや若い世代では「5000万円問題」になる可能性も。どうしたらいい?
【データで見る】老後に2人世帯「最低限の生活費はどのくらい必要か?」
“ゆとりある老後”生活費は「月38万円」【月23万2000円】
これは、老後に2人世帯で「最低限の生活費はどのくらい必要か?」というアンケート調査の平均金額だ。
▼15万円未満…4.9%
▼15〜20万円未満…9.2%
▼20〜25万円未満…27.5%
▼25〜30万円未満…14.4%
▼30〜40万円未満…18.8%
▼40万円以上…2.8%
▼わからない…22.5%
(※生命保険文化センター「生活保障に関する調査2022年度」より)
では、その【月23万2000円】を年金でどのくらいカバーできるのか。
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同じ生命保険文化センターの【年金額(2人世帯)】の調査では
▼2人とも厚生年金(標準的な給料で40年間働いた場合)⇒【32.5万円】
▼厚生年金と国民年金(1人が働き、1人が自営業や主婦)⇒【23万円】
▼2人とも国民年金⇒【13.6万円】
『ニッセイ基礎研究所』井出真吾さん:
「2人とも国民年金の場合は、全然足りない。しかも、【月23万2000円】というのは最低限の生活費で、旅行に行ったり子や孫への援助など含め“ゆとりある老後”にはもっとかかるというアンケート結果もある」
ちなみに、「私は質素な生活でいい」と話す皆川玲奈アナ(33)は、老後は東京から離れ「夫の実家の方に暮らす」とのことだが、井出さんは“ゆとりある老後派”。その場合の生活費は【月37万9000円】必要になる。
退職金・年金だけでは「2300万円」足りないでは、【37万9000円】を毎月使う場合、人生トータルではどのぐらい必要になるのだろうか?
井出さん:
「夫婦2人とも90歳まで生きる場合で、【1億1370万円】という目が飛び出るような金額になる。こんなに用意できないと思うが、7000万円ぐらいは公的年金でカバーできる」
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【65〜90歳までの貯蓄額試算】(2人世帯)
▼ゆとりある老後の生活費(毎月37.9万円)⇒1億1370万円
退職金(1900万円)+公的年金(7176万円)の場合でも、【2294万円不足】
(※片働き・公的年金は男性の平均賃金で40年間加入し、70歳受給開始の場合)
井出さん:
「退職金や企業年金は、大卒大学院卒の平均で1900万円。公的年金は、1人が厚生年金で1人は国民年金の場合の平均。65歳ではなく70歳から受け取った場合の手取りベースで7000万円ぐらい。それでも【2300万円ほど足りない】。これが、6年前の“2000万円問題”と同じ意味。その後物価が上がっているので、直近では“2300万円問題”に悪化している」
さらに、今後物価が上がれば2300万円からもっと膨らむ可能性があるという。
井出さん:
「実際どのぐらい増えていくかはわからないが、政府・日銀が目指している物価2%目標を前提に試算すると、今25歳の人が65歳になる40年後は、退職金や年金の他に【5000万円】が必要になる」
【ゆとりある老後生活のための不足額】
▼10年後⇒2796万円
▼20年後⇒3409万円
▼30年後⇒4155万円
▼40年後⇒5065万円
▼50年後⇒6175万円
▼60年後⇒7527万円
▼70年後⇒9175万円
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では、このお金をどう準備したらいいのか?
井出さんが1つあげるのは【つみたて投資】だ。
不足額をカバーするための「毎月のつみたて投資額」を見てみると、40年後に65歳になる、今25歳の人は「毎月2万6000円」となる。
▼10年後(2796万円不足)⇒毎月の投資額17.1万円
▼20年後(3409万円)⇒7.5万円
▼30年後(4155万円)⇒4.2万円
▼40年後(5065万円)⇒2.6万円
▼50年後(6175万円)⇒1.7万円
▼60年後(7527万円)⇒1.1万円
▼70年後(9175万円)⇒0.8万円
(※つみたて投資の利回り 年率6%の場合)
『ニッセイ基礎研究所』の井出真吾さん:
「僕は10年後に老後を迎えるが、今から2800万円貯めるのは絶対無理だし、毎月17万円の投資も無理。ただ50代半ばになると少しの備えはあるので、ある程度貯蓄がある人なら、差し引いて毎月の投資額も抑えられる。20代の人も、毎月2万6000円は無理でも、5000円でも1万円でもとりあえず始めて余裕ができたら少し増額する。最終的に4000万円とかになるかもしれないが、何もしないよりはずっと良い」
井出さんの試算では「つみたて投資」の利回りを「年率6%」としているが、これは実績に基づいての前提とのこと。
1988年からの過去36年間で平均した、「リターンとリスク」を見てみると
▼全世界株式:リターン(年率)9.1%・リスク(年率)17.2%
▼S&P500:リターン(年率)12.1%・リスク(年率)18.2%
井出さん:
「将来のことなので、こんなに高い数字を前提にするとちょっと危ないかなということで、僕は6%を前提に計算している。実際のところは6%よりちょっと高い利回りで回るかなという期待は持っているが、高い数字を前提に計算して投資をして、30年後40年後に足りていなかったというのは避けたい。6%前提だと、毎月少し余計に投資することになるかもしれないが、ご自身の状況に合わせて投資をしてもらえれば」
では、【分散投資】はどうか。
<卵は一つのカゴに盛るな>という言葉もあるが、井出さんは「分散するかしないかは人それぞれ」と話す。
井出さん:
「分散投資をするとリスクは下がるが、リターンも下がる。要は、分散投資では値動きがマイルドになるので、心の安定を得られて精神衛生上はいい。その代わりにリターンを一部放棄する、これが分散投資。一方で僕のように、株価が下がると安く買えて嬉しいと思うような人は分散しなくてもいい。リスクがイヤで分散するならば、毎月の必要な投資額をもう少し増やさないといけない」
また、今回紹介した「不足額」など諸々の数字は確定しているものではない。
将来インフレ次第で不足額も変わり、年金の制度も変わるかもしれない。退職金の額も物価も変動する。
井出さん:
「なので、1年に1回ぐらいチェックして『投資額を増やす必要があるか』『減らしてもいいか』など健康診断的にやっていくといいと思う。もちろん投資はイヤだという人はやらなくていいし、それも人それぞれ」
最後に5月の格言。
魚の頭と尻尾は猫にあげて、“欲張らない”ということ。
井出さん:
「投資をする時に、みんな一番安いところで買って一番高いところで売りたいと思う。でもそれは本当に至難の技、できない。猫に頭と尻尾をあげて、自分は美味しい身の部分、7〜8割食べれば十分と。100点満点を目指すのではなく、50点でいい。そのぐらいの感覚で投資と向き合えば、リスクを取っても精神衛生上もう少し安定していられるはず。最初から高望みせず欲張らないのが大事」