
バレーボールの女子日本代表は5月22日にキックオフ会見を開いた。
昨年のパリ五輪でいわゆるオリンピックサイクルが完結し、これまで日本の女子バレーボール界をリードしてきた古賀紗理那が現役を引退。2012年ロンドン五輪銅メダルの実績を引っ提げて自身2度目の指揮を執った眞鍋政義氏も監督を退任し、体制をこれまでとガラリと変えて、2028年ロサンゼルス五輪への第一歩を踏み出した。
そして、新監督として白羽の矢が立ったのがトルコ国籍のフェルハト・アクバシュ氏。母国リーグを中心に強豪クラブを指揮した経歴を持ち、女子日本代表にとっては史上初の外国人監督となる。2017年から当時は中田久美監督のもとで2年間、女子日本代表のコーチを務め、その際は道半ばにチームを離れることになったが、「ヨーロッパに戻ったときにも、日本との関わりが終わったわけではない、と感じていました」とアクバシュ監督。
今回の監督就任に際して、「日本はすばらしいバレーボールのカルチャーを持っていますし、そこに大きな可能性を感じています。才能ある選手と一緒に取り組めることはとても名誉なこと」と語った。
【新キャプテン石川真佑の強い思い】
登録メンバーには、初選出も含めて総勢35名が名前を連ねた。キャプテンを務めるのは直近2大会の五輪出場を果たしている石川真佑(ノヴァーラ/イタリア)。ここ2シーズンはイタリア・セリエAでプレーし、所属先ではエースを担うなど研鑽を積んできた。
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代表キャプテンについて石川は「自分がいろんな経験をさせてもらっている以上は、チームが勝つために、強くなるためにやらなければいけないことが増えてきたと感じていました。自分がやりたい、とまではいきませんが、自分がやらなければ、という気持ちのほうが大きかったです」と強い思いで向き合っている。
石川が日本代表でキャプテンを務めるのは、女子U20日本代表以来のこと。そのときは、2019年の女子U20世界選手権で初優勝を遂げ、自身も大会MVPに輝いている。今回のメンバーを見ても、その際のチームメイトである山田二千華と中川つかさ(ともにNECレッドロケッツ川崎)、荒木彩花と西村弥菜美(ともにSAGA久光スプリングス)といった、すでに代表で主力を担う面々や国内リーグの実力者たちが並ぶ。
彼女らは石川にとって「年齢も近いのでたくさん話ができる間柄ですし、お互いにわかり合えているぶん、やりやすさと言いますか、うまくはまっている部分はあると感じます」と好影響をもたらしているようだ。
【正セッター選びも重要な課題】
また、アクバシュ監督が就任内定会見で「新しい世代は才能ある選手がいるので、将来的な希望を抱いています。アンダーエイジカテゴリーへのアプローチは私たちがやらなければならない大事なタスク」と語ったように、若手選手の抜擢も見られる。その筆頭が初選出の秋本美空(ヴィクトリーナ姫路)であることは間違いない。
2023年の第18回世界U19女子選手権大会でベストスコアラーとベストアタッカーに輝き、今年1月の「春の高校バレー」こと全日本高校バレーボール選手権大会では共栄学園高校(東京)を日本一に導いた。身長185cm、最高到達点316cmという高いポテンシャルを備え、未来のエース候補として期待が寄せられている。
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そんなフレッシュな選手も含めて新たな船出をきった女子日本代表だが、ではアクバシュ監督はいかなるバレーボールを繰り出していくのか。実際にチームが始動したのはクラブシーズンを終えた5月中旬以降であり、まだまだチームづくりは始まったばかり。
「世界のトップチームと互角で戦えるようなフィジカルの強さ、スピード、それにレセプション(サーブレシーブ)の安定性、効果的な攻撃が鍵になってくる」とアクバシュ監督が話す戦い方をここから練り上げていく。
そのなかでもひとつ挙げるとすればセッターだろうか。日本代表が五輪も含めた国際大会で輝かしい結果を残したとき、そこには必ず世界レベルのセッターが、コート上はもちろんチームづくりの核となっていた。だが、東京五輪、パリ五輪までの直近2大会のオリンピックサイクルを振り返ると、正セッターの擁立は難航した印象で、最終的にオリンピックイヤーになってようやく固まるという具合だった。
今年度は5人のセッターが登録されており、キックオフ会見でアクバシュ監督は「選手個々へのコメントは控えたいと思います」と前置きしたうえで「それぞれがすぐれたものを持っています。経験値も身長も異なるので、しっかりと見極めていきたい。アグレッシブな試合運びをするためには、アタックの数字は重要ですから、それを加味しながらセッターを選考したいと思います」とコメントした。
合宿が始まって早々から6対6のいわゆる実戦形式の練習メニューに着手し、そこではセッターも代わるがわるコートに入っているそう。アクバシュ監督から選手たちには「コンディションを踏まえて、メンバーをミックスする。『私が入ることができた』『どうして私じゃないんだ』という感情は持たなくていい」と伝えられたという。"効果的な攻撃"を繰り出すうえでセッターは不可欠なピースだが、最終的に誰を据えるのかはこれから気になるところだ。
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そしてチームは、今年度最初の大型大会となる「ネーションズリーグ」へ向けて動き出した。大会は移動や休息週、そしてファイナルラウンドも含めるとおよそ2カ月間にわたり行なわれる。従来どおりのルールであれば、予選ラウンドごとに大会登録メンバーも変更できるため、そこでは様々な選手を起用しながら戦うことになるだろう。
さらに、8月下旬からタイで開催される2025女子世界選手権が最大のターゲットになる。チームの強化と結果の追求という両輪を、アクバシュ監督はいかに回すのだろうか。
今年度の女子日本代表のスローガンは「STRONG ROOTS」。直訳すれば、強固な根幹、だ。
「強い根を持つチームをつくるためにも、日本の従来のバレーボールをキープしながら、そこに若い選手たちの革新的なプレーを加えていきたい。道のりはとても難しいですが、そこに到達するために挑戦し、今年の夏に花を咲かせたい」とアクバシュ監督。
これまで以上の"初ものづくし"に期待感が高まる、女子日本代表の道のりがここに始まった。