サッカー日本代表に佐野海舟が帰ってきた 佐野航大とカズ&ヤス以来32年ぶりの兄弟スタメンあるか

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2025年06月04日 07:30  webスポルティーバ

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 ワールドカップ・アジア最終予選のラスト2試合は、すでに日本代表の本大会出場が決まっていることもあり、その意味では消化ゲームとなる。だが、多くの若手が選出されたメンバー選考は注目のひとつで、さらにそのなかでも佐野海舟、佐野航大が揃って名を連ねたことに胸を躍らす人も多いことだろう。

 兄・海舟は2023年の11月ラウンドで、世代別代表も含めて初めて日本代表に招集された。そしてアジア2次予選のミャンマー戦で初出場を果たし、昨年1月の国立競技場で行なわれたタイ戦にも続けて選出された。

 弟・航大にその頃、兄について話を聞いたことがある。

「兄はいずれ海外で活躍するし、今はすごい選手たちが代表にたくさんいて難しいけれど、いずれは日本を代表する選手になると僕は思っています」

 当時鹿島アントラーズに在籍していた兄について、弟は誇らしげに話した。そして航大は、まっすぐな瞳で筆者を見つめながら、続けてこう語った。

「いつかはね、日本代表で、(兄の)となりでプレーできたらと思いますよ」

 きっと弟だからなのだろう、そのあたりのてらいのようなものはない。

 兄・海舟に、弟に関する質問をしたことはない。しかし聞くところによると、一緒のチームになるのはちょっと......というような照れを口にしていたことがあるそうだ。

 ただ、今回はクラブチームではなくて代表チーム。航大の言っていた「いつか」が叶う可能性もあるのだ。

 ふたりを取材していると、兄弟は似ているようであり、一方で対照的だ。

 取材現場での兄は物静かで、多くの人に囲まれることを好まないのだろうと想像がつく。それでも、自分の考えを省略せず、丁寧に話す様子には好感が持てる。物静かだからといって人が嫌い、というわけではなさそうだ。

【佐野海舟が日本人の評価を底上げした】

 昨年夏、海舟はドイツ・マインツに少々遅れて加入した。直前に事件があったからで、サポーターたちからはクラブに対して「真実はどうなのか。クラブのスタンスは?」という趣旨の意見書が出されたこともあった。

 海外のほうがオープンでざっくりとしたイメージもあるが、人の気持ちはそうとも限らず、「いい選手ならすべてウェルカム」というわけではない。特にドイツの報道陣のなかには、本人が事件について何も発していないことに疑問を呈する者も少なくなかった。

 ただ、クラブは海舟の立場に立った。多くを語らず、海舟を最初から起用し続け、結局リーグ戦全34試合すべてに先発し、32試合にフル出場した。

 シーズン序盤は出遅れを感じさせるシーンもあったが、数試合もピッチに立つとチームに欠かせない存在となった。2023-24シーズンは13位だったマインツが6位に躍進した陰に、海舟の存在があったと言っても過言ではない。海舟の好プレーが日本人選手全体の評価を上げたため、このオフは各クラブのスカウト陣がこぞって日本を訪れているという話だ。

 派手さはないものの黒子に徹することができ、こぼれ球をすばやく回収し、フィジカルも強い。シーズン後半になると、時間帯によっては攻撃陣のような動きも板についてきて、バイエルン戦では得点まであと少しというチャンスも創出した。

「僕が前に行くということは、後ろが空いてしまうから、確実に何か形にしてしないといけない」

 試合後、海舟は覚悟の攻撃参加であることを説明してくれた。

 この1年間、海舟が繰り返し語ってきたのは「やるべきことをやり続けるだけです」ということ。

 試合出場が続いて高評価がピークに達した今年4月、海舟に「日本代表が気になるのでは?」と尋ねた。すると、海舟は「そうですね」と言い、「時差があるからあれ(全部見られるわけではない)ですけど、結果は見ています」と話した。

【佐野航大は地獄の6週間を乗り越えて】

 続けて海舟に、「活躍が続いているのだから、代表に選んでほしいのでは?」という質問を投げてみた。

 それに対し、海舟は「それはまったくないです。自分が決められることでもないので、自分のできることにフォーカスしないと。選んでくれとかはあんまりなくて、それは人が決めること。自分がここでやること、自分の課題に向き合うことしかできない。やり続けるだけです」と静かなトーンで淡々と返してきた。

 森保一監督は以前に、「こちらが選ぶのではなく、選ばせてやるくらいの気概を持ってプレーしてほしい」という主旨の発言で選手の奮起を促した。そういう意味でならば、佐野海舟はやはり森保監督に選ばせたひとりと言えるだろう。

 一方、取材現場での弟・航大は常に明るく、兄・海舟よりもコミュニケーション上手な印象だ。ただ、丁寧に言葉を尽くして質問に答えてくれるあたりは共通点。

 オランダのNECナイメヘンには2023年夏に所属し、すでに2シーズンを過ごした。今年になってオランダで会った時、航大は地元クラブである前所属のファジアーノ岡山の様子を気にしていた。

 初めてのJ1シーズンについて、「メンバーを見ても、木山(隆一)監督のやり方からしても、俺は驚かない」と上位進出を信じ、さらに「新スタジアムが早くできないですかね」と思いを馳せる。わずか1年半しか在籍しなかった古巣について話し出すと止まらない。

 今年1月、フォルトゥナ・シッタート戦で中足骨を骨折し、約2カ月の戦線離脱を経験した。復帰は3月30日のAZアルクマール戦。リーグ戦7試合の離脱で済んだわけだが、「骨折ってもっと時間がかかるものだと思っていました」と呑気に話していた。

 ただ、負傷から2週間は歩くことさえできず、走ることも6週間はできなかったそうだ。航大は当時を「この6週間が地獄でした」と振り返る。

【1993年の三浦泰年・知良以来】

 航大はその6週間、できることをやろうと思った。

「フィジカルが足りなかったので、ひたすら筋トレをしたり、足首を強化したり、頭(試合勘)が鈍らないようにサッカーを見たり、パソコン上で動体視力や反射神経を鍛えたり...」

 涙ぐましい努力をした甲斐もあって、復帰3戦目のRKCヴァールヴァイク戦では今季2ゴール目を挙げた。

 インサイドハーフからボランチにかけて、時にはサイドなど、航大はどこでもプレーすることができる。ただ、本人の第一希望はボランチで、ピッチで兄と横に並ぶ、もしくは近くでプレーする機会もあるのではないだろうか。

 冒頭の会話になった日、航大が「日本代表で兄弟ふたり同時に先発した選手はいるんですか?」と聞いてきた。その時は曖昧にやりとりを終えたが、後日調べてみると1993年10月15日に行なわれたワールドカップ・アジア最終予選のサウジアラビア戦で、三浦泰年と三浦知良がともに先発出場を果たしている。

 日本代表で実に32年ぶりとなる「兄弟同時スタメン」はあるのか──。ふたりとも、まずはこの6月ラウンドで出場のチャンスをつかみたい。

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