鳥山明、堀越耕平、辻真先らを輩出 アニメ映画祭「ANIAFF」で名古屋がさらなる“聖地”に

1

2025年06月04日 08:00  リアルサウンド

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

「ANIAFF」・ディレクターの井上伸一郎(左)、ジェネラル・プロデューサーの真木太郎(中)、アーティスティック・ディレクターの数土直志(右)

 名古屋にアニメーションの風が吹く。「第1回あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」(ANIAFF)と銘打たれたアニメーションの映画祭が今年12月12日から17日まで名古屋市で開催されることが決定。全世界から最先端のアニメーション作品が集まり、クリエイターも名古屋に来てアニメ好きを喜ばせることになりそうだ。「ジブリパーク」が愛知県長久手市にあり、「世界コスプレサミット」も長く開催してきた名古屋一帯は、アニメーション映画祭を新たな柱に加えて新たなアニメ聖地になっていくのか?


参考:【写真】会見に登壇した「ANIAFF」・ディレクターの井上伸一郎ら


◼︎大村秀章知事や、広沢一郎市長ら行政も後押し


 愛知県の大村秀章知事が、「本県は、『ジブリパーク』や『世界コスプレサミット』など、アニメーション文化と深く関わりを持つ地域であり、本映画祭を通して、愛知の国際的な文化交流が進み、地域全体の活力が一層高まることを期待しています」とコメントを寄せれば、名古屋市の広沢一郎市長も、「本映画祭では、アニメーションの文化的価値を世界に発信し、国境を越えた多様な文化交流を創出して、『アニメ大国、日本』のブランドイメージを強化できるよう支援をしてまいります」と、全面的なバックアップを約束した。


 ANIAFFは、名古屋で開かれる初の本格的な国際アニメーション映画祭だ。地元自治体のバックアップがあり、会場も名古屋駅前のシネコンが用意されていて、どれだけ大規模なものになるのか期待を誘う。6月2日に会見したANIAFFのジェネラル・プロデューサーでアニメ企画会社のジェンコを率いる真木太郎は、現時点では明確にしなかったものの、2023年から3年間携わった新潟国際アニメーション映画祭(NIAFF)で、押井守監督の審査委員長就任やトークイベントの開催を実現したようなサプライズへの期待を誘っていた。


 2003年から「世界コスプレサミット」が開催され、2022年には「ジブリパーク」も誕生して、アニメとの深い関わりを見せていた名古屋や愛知。『機動戦士ガンダム』を送り出した名古屋テレビ放送(メ〜テレ)の所在地でもあるが、国際的なアニメーション映画祭が開かれたことはなかった。2024年から名古屋駅前の映画館で「どまんなかアニメ映画祭」という、1980年代に作られたアニメ映画を上映するイベントが開かれるようになり、ファンを名古屋の地に誘ってきたが、海外の新作アニメーションが上映される機会は、「あいち国際女性映画祭」のアニメーション部門などに限られていた。


 ANIAFFでは、国内外から長編や短編、テレビシリーズにミュージックビデオといった様々なアニメーション作品が集められて上映される見通しだ。アーティスティック・ディレクターを務めるジャーナリストの数土直志は、世界中から募った長編アニメーション作品を見せるコンペティション部門の他に、最新作や話題作を上映する部門、監督やスタジオにフォーカスを当てて作品を上映する部門などを用意していることを明かした。


 ニューウェーブ部門では、VR(仮想現実)やAI(人工知能)が使われた斬新な作品を見せ、セミナー/カンファレンス部門ではアニメーションに関する情報を交換したり、ピッチと呼ばれる企画のプレゼンテーションを行ったりする場所を用意して、次代のクリエイターが世に出るための支援を行う。基調講演部門も用意されており、どのような大物が名古屋の地に足を運んでくれるのか、今から期待が高まる。


◼︎鳥山明に堀越耕平、辻真先らレジェンド作家を輩出してきた愛知県


 ANIAFFでは、地元のファンが興味を持つようなプログラムも用意してくれるようだ。「ジブリパーク」や「世界コスプレサミット」に限らず、名古屋や愛知はアニメーションとの関わりを幾つも持っている。例えば作品の舞台として。つるまいかだの漫画を原作にした『メダリスト』は、名古屋市内にあるスケートリンクが舞台として登場する。


 安藤正基の漫画が原作のアニメ『八十亀ちゃんかんさつにっき』は、名古屋における“常識”をこれでもかと内容に盛り込んで当地への関心を誘っている。東京にも進出している人気のとんかつ店「矢場とん」がスポンサーとなって制作されたアニメ『大須のぶーちゃん』に至っては、舞台となる大須が登場し、落合福嗣や小山茉美、櫻井孝宏といった名古屋に縁のある声優たちによる名古屋弁と共に地域を盛り上げている。


 視線を広げれば、愛知の東三河にある豊橋市が雨森たきびのライトノベルを原作にした『負けヒロインが多すぎる!』の舞台となって来訪者を増やし、北隣の岐阜県にある岐阜市が米澤穂信の学園ミステリ『〈小市民〉シリーズ』、笠松町がオグリキャップの登場する漫画『ウマ娘 シンデレラグレイ』のアニメ化で”アニメ聖地化”している。こうしたムーブメントと連携することで、映画祭単体に留まらない関心の広がりを期待できる。


 アニメと縁の深い漫画家の鳥山明も名古屋近郊の出身で、漫画もアニメも世界中で大人気となっている『僕のヒーローアカデミア』の堀越耕平も輩出してと、名古屋や愛知はトップクリエイターを大勢生み出している。『コードギアス 叛逆のルルーシュ』の谷口悟朗監督や『美少女戦士セーラームーン』の佐藤順一監督、『ペンギン・ハイウェイ』の石田祐康監督も地元出身者の列に並ぶ。『スター・ウォーズ』VisionsのVOL.3で「BLACK」を監督して、圧倒的なセンスを改めて世界に見せつけようとしている大平晋也、アニメーション映画祭と縁の深いアニメーション作家の山村浩二監督も出身者だ。


 こうした先人たちにスポットを当てて、当地にクリエイティビティの機運が前々からあったことを改めて見せて、今のクリエイターたちを刺激するようなプログラムはあるのか。名古屋出身でテレビアニメの黎明期から脚本を書き続け、今なお現役の辻真先を記念する脚本家のための賞、やはり名古屋出身で『聖闘士星矢』『キューティーハニー』のキャラクターデザインを手がけた荒木伸吾にちなんだキャラクターデザイナーのための賞などが思い浮かぶ。


 実際にどのようなプログラムが打ち出されてくるかはこれからの発表を待つことになるが、他のアニメーション映画祭との差別化も狙って斬新な企画が繰り出されてくれば、地下で滾っていた名古屋のアニメ熱も一気に吹き上がることだろう。12月の開催が今から待ち遠しい。


(文・取材・写真=タニグチリウイチ)



    ニュース設定