「今年は梅雨入り前の5月から、全国各地で最高気温が30度を上回る真夏日が続出しています。
5月21日には岐阜県飛騨市で5月の観測史上1位となる最高気温35.0度を観測、今年初の猛暑日となりました。これは昨年よりじつに22日も早い。そして、気象庁の季節予報でも、この夏は例年より暑くなることが予想されています」(全国紙社会部記者)
「地球沸騰化」というワードが出た’23年7月以降、夏の気温は35度以上が当たり前となり、昨年は梅雨明けとともに40度前後の危険な暑さの日が相次いだ。
暑さの影響から体温調整がうまく行われなくなると、体内に熱がこもり、めまいや立ちくらみ、頭痛、吐き気、倦怠感、筋肉のけいれんなどの症状が出る。重症化すると意識障害、高体温、全身のけいれんなどが起こり、命を脅かす。消防庁によると、’24年5〜9月に熱中症で救急搬送されたのは9万7千578人で、前年に比べて6千111人増。統計を取り始めた’08年以降で最多だった。
さらに、厚生労働省の発表によれば、’24年の年間の熱中症死者数は過去最多になる見通しであることがわかった。同省が公表している6〜9月の死者数は計2千33人に上り、これまで最多だった’10年の1千731人を大幅に上回る。
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「この数字は、氷山の一角にすぎません」
そう指摘するのは、医師で臨床教育開発推進機構理事の三宅康史さん。三宅さんは大学病院の救命救急センターで急患の治療にあたってきた。夏に急増するのは熱中症の患者だ。
「年間約30万〜60万人が病院で熱中症と診断され、社会問題となっています。熱中症の一歩手前の『熱あたり』状態の人はもっと多いでしょう。熱中症は、暑さが引き起こす体調不良全体のあくまで一部なのです」(三宅さん、以下同)
厚労省が発表する「熱中症の死者数」も、暑さによる深刻な被害の一部でしかないという。それには次のような事情がある。
「厚労省の数字は、人口動態統計をもとに算出されています。人が亡くなると死亡届が役所に提出されます。その際、死亡を確認した医師が死亡診断書に死因を記載しますが、原因が熱中症なのか、それとも熱中症を起因とする心不全、脳梗塞などの疾患なのか、特定するのは難しいのです」
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暑さは心臓や肺などの臓器や精神の負担となり、命を脅かす。
「脱水症状を起こして亡くなった場合も、急性心不全や脳出血といったほかの疾病名がつくこともあるため、熱中症と診断されないケースは多いのです。
死因が熱中症であるかどうかは病理解剖をしないとわかりません。実質的に暑さの影響で亡くなっている人の数は、数千人ではきかないといえるでしょう」
こんな統計がある。’23年、東京大学の研究チームが、厚労省が公開している全国の死者数や過去の気象データなどから、暑さが引き金となり命を落とす「暑熱関連死者数」を推計し、論文を発表した。
論文は、’15〜’19年の5年間における暑熱関連死者数を約3万3千人と考察。厚労省が発表している同時期の熱中症の死者数(約5千人)のおよそ7倍の数字だ。暑熱関連死には、心筋梗塞、肺塞栓症などがある。さらに、高血圧や糖尿病などの持病が悪化したり、自殺のリスクが高まる恐れもあるそうだ。
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「夏は汗をかくので、脱水状態になりがち。体内の水分量が減ると、血液がドロドロになるため血栓ができやすくなります。血栓ができると、動脈硬化が進行している人は、血流がさらに悪くなり、血管が塞がれてしまいます。脳の血管が塞がれば脳梗塞、心臓なら心筋梗塞、肺なら肺塞栓症など重篤な病気に至ります」
生活習慣病などの持病を持つ人も、暑さによる死亡リスクに注意が必要だ。
「糖尿病の人は、高血糖の状態になると尿の量が増えます。尿の量が増えると、脱水が起こりやすくなります。また、高血圧症の人は、ふだん利尿薬という尿を出す薬を飲んでいます。体内の水分を排出して血圧を下げるためです。これも脱水を招くことにつながります。
つまり、熱中症の予防のため水分と塩分を摂取することは、高血圧症の予防とは真逆の行為なので、気をつけなければなりません」
また、酷暑はメンタルヘルスとも関連があるとされている。
’22年に米国医師会が発行する医学雑誌『JAMA Psychiatry』で発表された研究によると、猛暑になるとメンタルヘルスの治療のため救急外来を訪れる人が増加すると指摘されている。ほかに、月の平均気温が1度上がるにつれて自殺率が高くなる、というレポートもある。尋常でない暑さは、さまざまな形で私たちの命を脅かすのだ。
過去最多となる熱中症による死者数を記録した昨年よりも、早い段階で猛暑日に見舞われている今シーズン。高温の時期が長くなるほど、暑熱関連死のリスクも長期化することになる。
暑熱関連死は熱中症による死者の7倍というデータを鑑みれば、今年の酷暑による死者数は1万人以上になることも十分に予想されるのだ。命を守るためにどうすべきなのだろう。
「熱中症は暑い日に突然発症すると思われがちですが、実際には数日かけて少しずつ症状が進行するケースも多くあります。
暑さによる体調不良の初期症状は軽いため、自覚がないまま症状が進行し、気づいたときには熱中症の状態になってしまうことも。
熱中症にならないためにも『熱あたり』の段階で対策を取ることがとても大切です」
少しでも暑さを感じる日は我慢せずに適切にエアコンを使用すること。日中の特に暑い時間帯は外出を極力控え、涼しい部屋で過ごすなど、暑さにさらされる時間をできるだけ減らすようにしたい。
もちろん、喉が渇く前に水分を補給する、バテないようにふだんから睡眠時間を確保する、栄養価の高い食事を取る、といった基本も忘れずに。酷暑を乗り切る十分な心構えを、今のうちから徹底しておこう。
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