
在職老齢年金制度とは?
在職老齢年金制度とは、厚生年金を受給している高齢者が働いて収入を得る場合、その賃金と厚生年金の合計額が一定基準を超えると、年金の一部が減額される仕組みです。例えば、65歳以上の方が賃金(※1)と厚生年金の合計で月50万円(2024年度)を超えると、超えた金額に応じて厚生年金が支給停止となります(※2)。
本来、この制度は「現役並みに収入のある高齢者には年金支給を控え、年金財政を支えてもらう」との趣旨で設けられたものですが、実際には「年金が減るなら働くのを控えよう」と考える高齢者を増やしているとの指摘もあります。
※1:ボーナスを含む年収を12で割った額が相当する「標準報酬月額」が基準になります。
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今回の年金制度法案でどのように変わるの?
厚生労働省が第217回通常国会に提出した「年金制度改正法案」では、在職老齢年金制度の見直しが盛り込まれており、2026年4月から支給停止となる基準額を月50万円から62万円に引き上げるとされています(※3)。※3:この62万円は2024年度の価格であり、2026年度までの賃金動向によって調整される可能性があります。

例えば、賃金45万円、厚生年金10万円(合計55万円)の方であれば、現行制度では基準額の50万円を5万円超えているため、厚生年金の半額である2万5000円が支給停止となります。しかし、2026年4月以降は基準額が62万円に引き上げられるため、このケースでは年金が減額されることなく全額受給できるようになります。
在職老齢年金制度が見直される背景は?
今回の見直しには、以下のような背景があります。
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65〜69歳の就業率は2003年の約35%から年々上昇し、2023年には約53%に達しています。高齢者の就業が進む中で、約308万人の年金受給者のうち50万人(約16%)が支給停止の対象となっています。
2. 慢性的な人手不足
高齢者の労働参加が期待される一方で、「働くと年金が減る」という仕組みが就労意欲を低下させ、人手不足を悪化させる要因となっているとの指摘があります。
3. ライフスタイルの多様化
「もっと働きたい」「社会と関わりを持ち続けたい」と考える高齢者が増えており、年金制度が多様な働き方に対応できていないとの課題が浮き彫りになっています。
また、内閣府の調査では、60代後半の高齢者の約3割が「年金が減らないように働き方を調整している」と回答しており、在職老齢年金制度が高齢者の働き方に影響を与えていることが明らかです。
在職老齢年金制度の見直しによるメリットは?
基準額の引き上げによって、次のようなメリットが期待されています。
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厚生労働省の試算では、新たに約20万人の高齢者が年金を全額受給できるようになると見込まれています。
2. 人手不足の解消に貢献
高齢者の就業意欲が後押しされることで、人手不足が深刻な業界での労働力確保につながると期待されています。
3. 高齢者が働きやすくなる
「年金が減るから働くのを控える」といった就業調整の必要がなくなり、より柔軟な働き方が可能になります。
まとめ
2026年4月から見直される在職老齢年金制度は、働きながら厚生年金を受給する高齢者にとって大きな前進となるでしょう。これまで「年金が減るから」と就業を調整していた方も、賃金と年金の合計が62万円以内なら減額されることなく年金を受け取れるようになります。また、経験豊富な高齢者が即戦力として活躍できる場が広がることは、社会全体にとっても大きなメリットです。
年金制度は今後も社会の変化に合わせて進化していきます。制度の内容を正しく理解し、自分に合った働き方や老後の生活設計を考えることが、安心した暮らしへの第一歩です。
※2025年度の在職老齢年金の支給停止調整額は51万円に変更となっています。
文:川手 康義(ファイナンシャルプランナー)
CFP・1級FP技能士。製薬会社に勤務し、お金にも詳しいMR(医薬情報担当者)として活躍。日本FP協会に所属しており、協会会員向けの研修会や一般の方へのセミナーの企画・運営活動にもボランティアとしてかかわる。
(文:川手 康義(ファイナンシャルプランナー))