マイルがたまる格安SIM「JALモバイル」誕生の舞台裏 IIJとタッグを組んだ理由は?

0

2025年06月04日 12:11  ITmedia Mobile

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia Mobile

JALのマイルがたまる通信サービス「JALモバイル」

 契約している料金プランに応じてマイルがたまり、約1年ためたマイルを使って旅行に出掛ける――そんな使い方ができるサービスが「JALモバイル」だ。同サービスは、日本航空(JAL)とMVNO最大手のインターネットイニシアティブ(IIJ)がタッグを組んで展開している。料金プランはIIJmioのものをそのまま選択でき、既存の回線とは家族割引も組める。


【その他の画像】


 一方で、マイルの取得や、年1回、通常7000マイルかかる「どこかにマイル」を1500マイルで利用できるのは、JALモバイルならではの特典。普段から“マイラー”をしている人には、お得感のあるサービスに仕上がっている。


 面白いのは、このサービスはJALがMVNOになったわけではなく、IIJもMVNEとして関わっていない。建て付けとしては、既存のIIJmioの上に、JALのサービスを乗せている形だ。IIJmioは、いわばホワイトレーベル的な存在として、存在感をあえて消しているように見える。通信事業者側から見たときの位置付けとしては、エックスモバイルが著名人などと展開しているサービスや、KDDI Digital Lifeのpovoが拡大しているコラボレーションに近い。


 では、JALとIIJはなぜこのような協力関係に至ったのか。JALのマイレージ・ライフスタイル事業本部 マイレージ事業部 事業戦略グループで主任を務める坂本まりん氏と、IIJのモバイルサービス事業本部 MVNO事業部 コンシューマサービス部 副部長を務める姜鍾勲(カン・ジョンフン)氏の2人に、サービス誕生のいきさつや両社の狙いを聞いた。


●モバイルとマイルをためることは相性がいい


―― このサービスですが、どちらがきっかけになって実現したのでしょうか。


坂本氏 弊社からIIJさんにお声がけして実現しました。弊社では、JALマイルという動きを進めています。日常生活の中でマイルをためやすく、使いやすくする取り組みの一環として、日常でためられてうれしいサービスの1つにモバイルがありました。通信費は一人一人の固定費になっているので、モバイルとマイルをためることは相性がいいと思っています。それもあって、通信事業界の方々にお声がけしていきました。


―― 複数の会社を検討したと思いますが、IIJに決まった理由はありますか。


坂本氏 大きく2つの方向がありました。価格がちゃんと競争力があることと、ラインアップが充実していることです。IIJさんの料金プランは、ラインアップが充実していて、データ通信のみという形でも提供ができます。JMB(JALマイレージバンク)会員は数がかなり多く、年代や地域の幅も広いので、いろいろなライフスタイルの方がいます。それぞれに合ったものを見つけていただけるよう、この形になりました。


―― というお話が来て、IIJとしてはどうでしたか。


姜氏 営業から話が来て、最初は驚きました。そんなに甘い話があるのかと(笑)。「それ、本当に大丈夫なの?」と逆に心配したぐらいですが、すぐに細かく話を聞いてみたいとなりました。営業だとどうしても優先順位はありますが、このお話はとてもありがたく、聞いた瞬間、JALの会員様にも喜んでいただけると思えました。


―― 通信費は毎月かかってくるものなので、マイルはためやすくなりそうです。


坂本氏 通信サービスは今や欠かせないもので、1人1回線のみならず、1人2回線以上の契約もあります。月々の固定費という観点では、光回線の「JAL光」や電気サービスの「JALでんき」もありますが、これらはそれぞれの家庭に1つなのに対し、モバイルは1人につき1回線以上になります。マイルは個人にたまっていくものなので、ここも相性がいいですね。JMBの特典を還元しやすいサービスだと考えています。


―― なるほど。モバイルだと個人にひも付きますからね。一方で、たまるだけでなく、使うところにもお得感があります。


坂本氏 まさに今回JALモバイルを始めるにあたって、通信に入り込むために重視したところです。通信は各社の競争が激しい分野です。弊社に一番期待いただけるのは何なのかというと、マイルをためているお客さまは結果として特典航空券に変えたいというご要望があります。今回のサービスはマイルがたまるのはもちろんですが、目的としている特典航空券にも手が届きやすくなります。たまってすぐに使えるというのが特徴になります。


●「どこかにマイル」を特典に選んだ理由 JALを長く使ってもらうことが根底に


―― どこかにマイルにしたのはなぜでしょうか。


坂本氏 使いやすくするというのは、JALマイルライフの構想でした。そのためにJAL光などをやってきましたが、サービスリリース時に、使うところまで1つ1つ想定していたかというと、まだまだやれることの余地がありました。どこかにマイルはいろいろなところに行けて魅力的ですが、7000マイルかかってしまいます。一度使っていただいた方には、そのゲーム性も含めてお得さなどを分かっていただけます。そのためる、使うのサイクルをもっと認知してもらうために、必要マイル数を減額しました。


 光や電気だと、先ほどお話しした世帯と個人の関係があり、お父さんだけ1500マイルで、他の家族が7000マイルというような形になってしまいます。JALモバイルなら、それぞれのお得意様番号に特典が付与されるので、使いやすくなります。


―― 料金が安い割には、マイルがたまりますよね。普通だと高い料金プランだけとなりそうですが、JALモバイルの場合、2GBプランでも1年で特典航空券になります。


坂本氏 パートナー選定で非常に重視したところです。月いくらぐらいで、どのぐらいのマイルが欲しいのかというバランスを考えました。マイル数が多くなるからといって、通信料金が今より高くなってしまうとご契約を見込めません。市場の中でも競争力が高い価格で提供し、なおかつこの価格でこのマイルなら消費者視点でもうれしいと思っていただけるようにしました。


―― 個人的にはお金を払ってでもいっぱいマイルが欲しいのですが(笑)。それはさておき、このサービスは通信自体でもうけようというものではないのでしょうか。


坂本氏 正直なところ、すごくもうかるかというとその観点でやっているサービスではありません。JMB会員のコミュニケーションとして、弊社をより長く使っていただけることが勝ちだと考えています。


―― サービス形態として、JAL自身がMVNOになるという手もあったと思いますが、その目的だとそこまで踏み込む必要はなかったのでしょうか。


坂本氏 弊社として利益が得られるからというのが判断基準ではなく、価値を還元するところが守られればよかったからです。MVNOとして参入すると、工数が増え、スピード感も落ちてしまいます。


●想定の倍ほどの契約数で好調 IIJmioの家族割引も実は適用される


―― 実際に始めてみて、いかがでしたか。


坂本氏 具体的な数値はお伝えできませんが、想定の倍ほどの契約で大変好調です。


―― IIJとして、このような形でサービスをするのは珍しいですよね。


姜氏 いろいろな代理店とのやりとりはありますが、こういう形で自分たちのお客さまに対して還元するモデルは、弊社として初めてかもしれません。われわれが提供できる領域と、JALさんの提供できる領域がうまくかみ合い、お客さまに喜んでいただけるという意味で、いい取り組みだったと思っています。


―― ビックカメラのBIC SIMのように、相手のブランドで提供するものが形としては近いのでしょうか。


姜氏 はい。独自ブランド「○○SIM」という形を取り組んだのは、久しぶりです。ただし、代理店展開は継続的にやっていました。


―― 通常のIIJmioにないマイルがたまるのは、大きなメリットだと思います。IIJmioから移りたいという人も多いのでは。逆に素のIIJmioを契約するメリットはどこにあるのでしょうか。


姜氏 弊社にも、JALモバイルに移りたいというお問い合わせが来ていますが、それはそういうものだと思います。ただし、全員がJALモバイルに移りたいとなるかというと、そうではありません。(JALモバイルでは適用されない)他のキャンペーンなどがあり、そこは選択肢になります。


―― JALモバイルと通常のIIJmioでも、家族割引は適用されますよね。2社のシステムはどのように連携しているのでしょうか。


姜氏 家族という形で同一アカウントで契約していれば、データ容量のシェアも家族割引も適用されます。システム連携は、例えばお申し込みの導線の中でJALさんのサイトに行き、弊社に戻ってくるとIDが連携されるというような対応をしました。mioIDの中の回線ごとにJMBお客さま番号をひも付けるような連携を取っています。


―― こういった取り組みは、今後も広げていくお考えでしょうか。


姜氏 一番強いのは、いいサービスを提供したいという思いです。今回は、JALさんができることと、われわれができることがいい形で合いました。ただ、いい形でのコラボは他にもあると思っています。われわれができない部分を一緒にタッグを組んでやっていけるところは、探していきます。


●海外で使えるサービスは今後検討していきたい


―― 現状では、あくまでIIJmioの通信サービスにJALのマイルという形ですが、JALモバイルならではの通信サービスのようなものは考えられるのでしょうか。例えば、国際ローミングや海外用のeSIMなどは相性がよさそうです。


坂本氏 IIJさんのご協力にも関わってきますが、構想段階ではスピードを重視しました。海外ということでいうと、特典の中にJAL ABCのレンタルWi-Fiをつけ、海外渡航時にJALモバイルの方が優待を受けられる導線を設けています。そこが最もシームレスにつながるようにしたり、通信として提供したりというところはIIJさんと検討できればと考えています。


―― ただ、データローミングは今のMVNOだと難しいですよね。


姜氏 確かに現状だと難しいのですが、海外で使えるサービスは今後検討していきたいので、今、具体的に考えています。よりいい形でできるよう、用意したいと思っています。


―― 今後、素のIIJmioとJALモバイルで、サービス内容が変わってくることもあるのでしょうか。


姜氏 いろいろな形の商品設計ができると思っています。例えばプリペイドという形や、オプションなど、まさに検討したいと考えていたところです。お客さまにとって一番適切なものは何なのかというのは、今後の流れの中で考えていきます。お話をうかがう中で、専用の料金プランがあった方がいいという方向になるのであれば、検討したいと考えています。


●IIJmioからJALモバイルに移ることはできない?


―― もっと高額で、マイルがたくさんつくようなプランもありうるのでしょうか。


姜氏 ただ、ご契約者の分布を見ると、割と中央によっている傾向があり、25GBがかなり多くなっています。55GBを契約している方も一部います。まさに始めたばかりのサービスなので、今データを見ているところです。どこにニーズがあり、ベネフィットになっているかは精査し、商品設計の試行錯誤をしたいと考えています。


―― IIJmioだと5GBプランが多いという話でしたが、JALモバイルはより中・大容量志向なのでしょうか。


姜氏 JALモバイルはスペックアップ後に始まった取り組みなので、その影響が出た結果になっているところは多少あると思います。IIJmioは当初2GBプランが多かったのですが、前々回のスペックアップでだいぶ中容量に移ってきました。春のスペックアップでも、申し込みされる客層やプランが変わってきています。ただし、IIJmioとの特徴的な違いは今のところ出ていません。


―― 現状、IIJmioからJALモバイルに移ることができませんが、改善の予定はありますか。


姜氏 考えてみたい気持ちは、ないことはないのですが……。ただ、ちょっとややこしいことはあります。行ったり来たりのケースも発生するので、どううまくやるかは知恵を絞るポイントだと思っています。


―― 最後に、JALモバイルとして契約数などの目標はありますか。


坂本氏 数値的な目標はありますが、非公表になっています。ただ、既存のJMB会員が増えていくことにつながればいいなと思っています。契約者数だけでなく、どう他のサービスに関心をお持ちになっていただくかなど、いろいろな指標があると思っています。


――  既存の利用者だけでなく、新規に会員が増えるということもあるのでしょうか。


坂本氏 当初は既存のお客さまのことを考えていましたが、実は新しいJMB会員の獲得にもつながっています。たまってすぐに使える――入口と出口がはっきりしているので、ここから始めてもすぐに価値を感じていただけるのだと思います。


●取材を終えて:通信の中身にも踏み込んだ特典が欲しい


 マイルがたまってお得なJALモバイルだが、料金はIIJmioとまったく同じ。あえて素のIIJmioを契約するメリットが薄くなってしまったようにも見える。ホワイトレーベル的に通信サービスを持たない企業が回線を提供する動きは他社の事例もあるが、業界最大手のIIJmioと、引きの強いJALのマイルという組み合わせのインパクトは大きい。契約数が想定を大きく上回っているのも、納得できる。


 一方で、インタビューにもあったように、サービスの早期立ち上げを優先した結果、現状では主な連携がマイルにとどまっている。せっかく、JALのモバイルサービスと位置付けるのであれば、より通信の中身にも踏み込んだJALモバイルならではの特典が欲しい。IIJが以前提供していたトラベル用のSIMカードのようなものがあると、よりJALモバイルらしさを感じられるような気がした。


 通信のノウハウがない企業がMVNOに参入すると、通信事業者にない強みを発揮しやすい反面、システム構築などのハードルが高くなり、事業リスクも高まる。その意味では、このようなホワイトレーベル的な仕組みの方が参入はしやすい。他社でも似た事例はあるが、今後、こうした座組が増えていく可能性もありそうだ。



    ランキングIT・インターネット

    前日のランキングへ

    ニュース設定