9月13日開幕の陸上世界選手権東京大会(国立競技場)まで、5日であと100日となった。34年ぶりに開催される東京には、世界中からアスリートが集結する。注目選手の1人が、女子走り高跳びのヤロスラワ・マフチフ(23)。母国ウクライナが22年からロシアの軍事侵攻を受ける中、昨夏のパリ五輪では金メダルを獲得した。同種目4人目の連覇を狙う世界選手権や祖国への思いを語った。【取材・構成=藤塚大輔】
マフチフは9月の世界選手権を待ちわびている。銅メダルだった21年東京五輪は、コロナ禍の影響で無観客開催。今秋は満員の国立競技場でビッグジャンプを見せる。
マフチフ とても楽しみ。熱気に満ちたスタジアムでベストを尽くしたいです。
14歳で走り高跳びを始めた。15歳だった17年のU18世界選手権でいきなり優勝。3度目の出場となった23年世界選手権を初制覇した。24年7月に37年ぶりの世界新記録(2メートル10)を打ち立て、同8月のパリ五輪で金メダル。競技の合間には血流を良くするために寝袋姿で横になり、「眠り姫」と話題になった。同種目は同じ高さのバーに3回まで挑戦できるため、失敗を引きずらない精神力も求められる。人生においても同じだという。
マフチフ 情熱を傾けられるものを見つけて、諦めずに突き進むことが大切。走り高跳びに3回チャンスがあるように、たとえ失敗しても継続すること、ベストを尽くすことが肝要です。私も7歳のころに空手を勧められたけど、陸上が好きだった。今は世界記録保持者にもなれて、正しい選択だったと思います。
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諦めずに突き進む−。それはマフチフの歩みとも重なる。生まれ育ったのは、ウクライナ東部のドニプロ。100万人近い人々が住み、重化学工業が盛んな都市で知られる。故郷が戦禍に見舞われたのは22年2月。ロシアによる軍事侵攻が始まった。街には爆撃やサイレンの音が響くようになり、今も終息していない。
マフチフ 戦争のことを考えるととてもつらいです。紛争の最前線のドニプロには、今も家族が暮らしています。毎日電話をして状況を聞いていますが、大変なことばかりです。
競技を続けることに迷いもあったが、父の後押しもあって、国外を拠点に継続を決断。「いつ戻れるか分からない」と不安を感じながらも、祖国から寄せられる声が支えとなっていた。
マフチフ 「跳んでくれて、ありがとう」というメッセージは、精神的な支えになっています。私のジャンプは、ウクライナの人々のためでもあります。家族、友人、スタッフが支えてくれた。私には諦めない気持ちがあります。
試合に臨む時は、ウクライナ国旗の色である青と黄をアイラインに配したメークを施す。メディアから侵攻に関する質問を受ければ、丁寧に応じる。それが自分の使命だと思うからだ。
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マフチフ ウクライナ人である私が活躍したり、思いを伝えたりすることで、母国を知ってもらう機会にもなると思っています。
東京での世界選手権も、母国のことを伝える舞台。同種目4人目の連覇がかかる大会で、記録にも記憶にも残る活躍を目指す。
マフチフ 世界選手権で今季の一番良い記録を出せるようにしたい。陸上は力を引き出してくれる。ハイジャンプは私の情熱なのです。
生きざまの宿ったジャンプで、母国に光を照らす。
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