井上尚弥と中谷潤人の試合予想にノニト・ドネアも「興奮してくる!」伸び盛りの中谷は今後、パッキャオのようになれるか

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2025年06月05日 07:20  webスポルティーバ

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米ボクシング関係者から見た井上尚弥vs.中谷潤人 後編

(前編:井上尚弥vs.中谷潤人を米ボクシング関係者たちはどう見る? モンスターの防衛戦を見て予想を変えた識者も>>)

【ドネア「本当に楽しみ」】

 フライからフェザーまで5階級を制し、"モンスター"井上尚弥とも世界戦の舞台で2度戦ったノニト・ドネアにも、来年5月に予定されている中谷潤人戦の予想を訊ねた。

「イノウエもナカタニも超一級品だから、予想は本当に難しいです。2人の利点は、イノウエならスピードと経験値、そしてパンチ力。ナカタニもパワーがあり、背の高いサウスポーだというところでしょう。

 イノウエがナカタニの懐に入れるか否かがカギになりそうですね。距離の取り合いが結果を左右するかな。離れて戦えば、ナカタニが有利、接近戦ならイノウエのボディショットに分があるように感じます。今、こうして話しているだけで興奮してきますね!

 現時点では50/50としか言いようがありません。これから、来年の5月までに両チャンピオンがメンタル、技術をどれだけ磨き上げていくかにかかっているでしょう。2人が試合をする度に、僕も含めて、色んな意見が出る筈。本当に楽しみですね‼」

 ドネアは終始、笑顔で答えてくれた。

 WBA/WBC/IBF/WBOスーパーバンタム級タイトルマッチを、T−モバイル・アリーナの記者席から見つめたあと、井上、中谷のこれまでのファイト映像をじっくり見たジェフ・メイウェザーにも、後日コメントをもらった。かつてのパウンド・フォー・パウンドで、ここ数年はYouTuberやキックボクサーなどとのエキシビションで稼ぐ"Money"フロイド・メイウェザー・ジュニアの叔父である。

「ダウン後の立て直しは見事だった。でも俺は、イノウエのディフェンス面が気になっている。一方のナカタニも非常にうまい。モンスターと戦う時は、間合いと距離を利用してパンチを当てる必要があるね。距離を取ってジャブを放ち、出たり入ったりしながら攻撃的な姿勢を貫くことだ。ナカタニにはいいジャブがある。ジャブで試合のテンポをコントロールし、相手を前に出させて、接近してくるのを捕まえる策が有効と見る。

 打ち合いはイノウエも望むところだろう。イノウエは前進し、ジャブの差し合いで相手を凌駕しようとするだろう。メンタルを武器に、距離を詰めていくんじゃないか。

 2人とも偉大なファイターだが、この試合こそボクシングの基本である"ジャブをいかに当てるか"で決まりそうだな。ワクワクする。あえて50/50と言っておくが、ジャブを制した者が勝つ――そんな戦いになるだろう」

【戦うとしたらどの階級?】

『RING』誌で記事を発表し、『ESPN』や『Fox』といった大手TV局のボクシング中継でコメンテイターを務めるマノウク・アコピアンにも話を聞いた。

「イノウエvs.ナカタニ戦は日本ボクシング史上最大のファイトとなるでしょう。ボクシング界にとって年間ベストバウト、そして日本にとっては年間最高のスポーツイベントとなる要素が、すべて揃っています。

 この一戦は、五分五分の激戦になると私は考えます。イノウエを下すことは難しいですが、ナカタニがもたらす脅威を無視するのはさらに困難です。このファイトと彼らのライバル関係が再戦、さらには第3戦の実現に至るような、すばらしいものになることを願います。

 イノウエには衰えの兆しが見られます。このところ、2試合で序盤にダウンを喫しています。とは言え、ルイス・ネリやラモン・カルデナスを圧倒するなど、驚異的な闘志を見せて復活しました。ナカタニとの対戦が実現する頃、彼は33歳になり、ムロジョン・アフマダリエフやフェザー級チャンピオンのニック・ボールとの厳しい戦いを経験しているはずです。イノウエがいったん126パウンドまで階級を上げ、ナカタニ戦に向けて再度122パウンドに下げるのは、あまりいい考えではないと感じます。

 ただし126パウンドでの試合を成立させ、ナカタニに2階級上げさせる場合は別です。ナカタニはWBOフェザー級王者、ラファエル・エスピノーザとの対戦にも前向きなようですね。フェザーでイノウエと対戦する用意もできているんじゃないかな。両者がスーパーファイトに向けて態勢を整えようとしているなかで、これからの8カ月間、チェスマッチのような展開がいかに進むかは非常に興味深いです」

 T−モバイル・アリーナで、モンスターの8ラウンドKO防衛を目にし、翌週、中谷のLAキャンプ地に足を運んだアコピアンはこう結んだ。

「ルディ・エルナンデスは、ナカタニが15歳の頃から彼を指導してきました。エルナンデスは過去12年間でナカタニに3階級のタイトルを獲得させるなど、パウンド・フォー・パウンドの偉大なファイターに育て上げました。2人は絶妙なチームワークを築いています。だからこそ、ナカタニはトレーニングのために地球の裏側までやってくるし、母国に戻って試合に臨むのです。ナカタニがルディをどれほど信頼しているかがわかりますね」

【英雄視される前のパッキャオとかぶる中谷】

 まずは6月8日、中谷がどんなパフォーマンスで、西田凌佑からIBFバンタム級タイトルを奪って2冠を達成するかに着目したい。ここ最近の中谷の躍進ぶりは、かつてのマニー・パッキャオを彷彿とさせる。

 2001年にボクシングの本場・アメリカ合衆国に進出した"パックマン"は、同年6月にIBFスーパーバンタム級タイトルを獲得した。だが、決して際立った男ではなかった。この日のメインイベントでは、オスカー・デラホーヤがハビエル・カスティリェホを判定で下してWBCスーパーウエルター級タイトルを奪取している。その前座でパッキャオは6回KO勝ちを収めたが、強烈なインパクトを残したとは言いがたい。

 同じ年の11月、今度はフロイド・メイウェザー・ジュニアの前座に登場。パックマンにはWBO王者との統一戦が組まれたが、偶然のバッティングで第6ラウンドにドクターストップとなり、5回までの採点の結果、3者3様のドローに終わった。

 筆者の取材ノートには「日本製、ミズノのシューズを履いたサウスポーのフィリピン人、ストレートが鋭い」としか記されていない。記憶も、文字のままである。翌2002年6月には、WBC/IBFヘビー級チャンピオンのレノックス・ルイスvs.マイク・タイソン戦の前座で2ラウンドKO勝ちを飾り、122パウンドの赤いベルトを守っているが、この時もメインイベントの一戦が大きすぎてパックマンは蚊帳の外、といったところであった。まさか、のちにデラホーヤを引退に追い込み、メイウェザーとのメガ・ファイトを行なうなどとは露ほども思えなかった。

 しかし、パッキャオはフェザーに階級を上げ、マルコ・アントニオ・バレラ、ファン・マヌエル・マルケスと拳を交え、さらにスーパーフェザーに増量し、エリック・モラレス戦を迎える。メキシコの名王者3名とのサバイバルを経験しながら、強烈な光を放つようになる。

 特にモラレス戦は初顔合わせで判定負けを喫しながらも、リターンマッチを10ラウンドKO。3戦目は第3ラウンドで鮮やかに仕留めた。そんなパックマンは時代の寵児(ちょうじ)となる。フィリピン人サウスポーと契約していたTop Rank社の代表、ボブ・アラムも"金のなる木"の価値を了知し、最も話題になる選手とのファイトを組み続けた。

 かつてデラホーヤを"持ち駒"としていたアラムは、バルセロナ五輪の金メダリストとしてプロに転向したゴールデンボーイには、ピークを過ぎたビッグネームとの試合をマッチメイクし、ビッグマッチの合間には安牌(あんぱい)とのチューンナップ戦を挟んだ。が、パッキャオには強豪とのハードなファイトばかりを用意する。そうした状況下で、フィリピン人サウスポーは勝ち続け、英雄視されるようになった。三十路を超えてややペースダウンしていくが、それまでの4年弱は「狂い咲き」と表現できた。

 筆者の目には、モラレス第2戦目の頃のパックマンと、今の中谷潤人がだぶる。来年5月のスーパーファイトまで、誰もが思い思いに持論を述べるであろう。世界中が2人の日本人チャンピオンにこれほど熱い視線を送るなどレアケースだ。

 井上尚弥、中谷潤人の存在に心から拍手を送りたい。アコピアンが述べたように、両者のぶつかり合いは一戦だけでは終わらない可能性もある。

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