『ジークアクス』は『機動戦士ガンダム』の“正史”とどう関わる? 「シャロンの薔薇」の正体から考察

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2025年06月05日 08:00  リアルサウンド

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塙 真奈美X(@hanahanahanawa)より

※本稿は『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』のネタバレを含みます。


 『シャロンの薔薇』のサブタイトル通り、これまで謎のオブジェクトであることだけが伝わっていたシャロンの薔薇の正体が明かされた『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』。その正体は、ララァ専用モビルアーマーことエルメスだった。


 第7話での大暴れの後、ソドンに囚われてしまったマチュ。第9話では、そのマチュのソドンからの脱出、そして地球での行動が描かれた。ジオン軍によって独房に拘束され、さらにシャリア・ブルによる尋問も受けるマチュ。ニュータイプ特有の勘の良さでマチュの考えを先読みしていくシャリアの姿には、「ニュータイプってそういう使い方もあるのか……」と感心させられた。


 先週のニャアンに対するエグザベの態度にもうっすら感じた点だが、今回のマチュに対するコモリ少尉やシャリア・ブルの態度も、単にコロニー内でモビルスーツで暴れた犯人に対する態度の範囲を若干超えているように思う。いずれの物言いも戦勝国のエリート軍人らしい無意識のえぐみが感じられるものになっており、特にシャリアがマチュに対して「サイド6に生まれたことを感謝しろ」と言い出すに至っては、マチュでなくとも「一年戦争の発端を作ったジオンの軍人にだけは言われたくない」と思うのではないだろうか。「スペースノイドが勝った世界では、そのスペースノイドの軍人が他の立場の人間を見下す」という点を、意識して描いているように感じた。


 マチュのスマホに何者かからメッセージが届いたことで、マチュはソドンの艦内から脱走する。謎のメッセージの指示通りに逃走したマチュはGQuuuuuuXに乗り込み、ソドンのカタパルトから脱出。単独で大気圏に突入し、一路地球を目指す。大気圏突入後、マチュはコアファイターでGQuuuuuuXから離脱。どことも知れない場所に墜落する。意識を失ったマチュが目覚めたのは、豪勢なベッドの上だった。


 そこからマチュが目覚めたのは娼館である「カバスの館」であること、そしてマチュが保護されたのは、ある種の予知能力を持つ元娼婦ララァ・スンの察知によるものだと語られる。そしてマチュと邂逅したララァの口から語られたのは、『GQuuuuuuX』の世界ではない世界線でのシャアとララァ、そしてアムロ・レイの存在だった。


 ラストで海中から引き揚げられた「シャロンの薔薇」がエルメスであり、この機体に該当するモビルアーマーを『GQuuuuuuX』でのジオン軍は開発していないとシャリア・ブルが言っていたことからも、「『GQuuuuuuX』ではない世界線」「『正史』の『機動戦士ガンダム』の世界線」の存在は想像できるようになっている。


 果たして「シャロンの薔薇」が『機動戦士ガンダム』の世界から来たものなのかはわからない。ストレートに『機動戦士ガンダム』の世界から次元を超えて『GQuuuuuuX』の世界にやってきたのではなく、一捻りされた設定があるのかもしれない。が、いずれにしろ「こういう話になったかあ……」という気持ちがある。


■『GQuuuuuuX』当初に示した方法論

 自分が『Beginning』を見た時に驚いたのは、「『機動戦士ガンダム』の語り直しをする」という大胆さに対してだった。宇宙世紀0079年、『ガンダム』の物語が始まったそのスタート地点から、我々が知っているのとは全く異なるイベントが発生し、それによってここから先は全く誰も知らない、これまでの作品や設定の積み重ねを完全にぶっちぎった、宇宙世紀を舞台にしているにも関わらず誰も見たことがなく予想のつかない『ガンダム』が語り直されるのだと思ったのである。


 ガンダムシリーズはすでに45年以上の時間が積み重なり、その間に建て増し旅館のように蓄積された設定によって自縄自縛に陥っているように思う。特に宇宙世紀を舞台にした作品に関して言えば、設定と設定の間に齟齬をきたさないように新しい作品を差し込むような状態になっている。それらの設定から完全に自由な別の世界を舞台にした作品も定期的に作られているが、いずれも宇宙世紀ものほどの情報の蓄積には至っておらず、ガンダムシリーズの歴史の中では一過性の作品と言っていい。設定が乱立する宇宙世紀ものの中に新作をねじ込むか、既存設定を離れた「一回やって終わり」な新作を作るか、ふたつにひとつだったわけである。


 『GQuuuuuuX』が当初示した方法論は、そのどちらでもなかった。宇宙世紀0079年に遡っての完全な語り直しという、強引と言えば強引ながら「その方法があったか!」と唸らされるような手法だった。これなら既存作品の設定に乗っからず、知識量でのマウントの取り合いが通用しない、宇宙世紀の面白いところだけを使った誰も見たことのないガンダムが作れるかもしれない。既存のモビルスーツのどれにも似ていないGQuuuuuuXと赤いガンダムのデザインも、そんな期待を裏付けるものだった。


 しかし『GQuuuuuuX』は回が進むごとに既存のガンダム世界からの設定の引用が増えていき、「そのキャラクターをそこにはめ込むか」というパズルの上手さに感心するような局面が増えていった。それに連動して「このキャラクターやこの要素の元ネタが知りたい」という動機から『機動戦士ガンダム』を初めて見る人も増えて、作品自体の延命とバンダイの売り上げには大きく貢献していると思う。


 そしてとうとう、第9話で明かされたシャロンの薔薇の正体に至って「異なる世界線」の存在が明確に示された。これはちょっとなんというか、自分が『GQuuuuuuX』に期待していたものとはかなり遠いところにきちゃったな……という気がしている。自分が見たかったのは、これまでの設定やお約束やガンダム世界の常識が通用しない、視聴者全員が「何も知らない」という同じ条件に置かれた、誰も知らない宇宙世紀の物語だった。勝手に「こうなるのではないか」と思ってそれが裏切られただけだから、悪いのは自分の方である。しかしまさか、アムロがガンダムに乗る「正史」の存在を仄かしてくるとは思わなかった。そこを否定して、全くまっさらの状態から宇宙世紀の物語を作っていくものだと思っていたのだ。


 ゼクノヴァ発動時にシャアが誰かと話している描写など、「向こう側」の存在をうかがわせるシーンは確かにあった。しかし、それがここまで重みを得て、『GQuuuuuuX』という物語の重心を占めるとは思っていなかった。繰り返しになるが、これは勝手に自分が期待して勝手に肩透かしを食っているだけである。ただ、思っていたより『機動戦士ガンダム』の存在に寄りかかった作品になった、という点が明確になったのが、この第9話であるように思う。


 泣いても笑っても残り3話である。シャロンの薔薇の正体が明かされたことで、ゼクノヴァやキラキラについての謎、そしてギレンとキシリアの暗闘についても何らかの結論が出そうに思う。肩透かしを食った気分にはなったものの、やはり続きは気になるもの。ここまできたら最後まで、きっちり付き合おうと思っている。


 



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