画像提供:マイナビニュースダイハツ工業が新型「ムーヴ」を発表した。フルモデルチェンジの目玉は「スライドドア」の採用だが、DNGAプラットフォーム、燃費の向上、価格の上昇など注目点はほかにもたくさんある。「ムーヴキャンバス」とどう差別化するのかも気になるところだ。今回は、メディアからの質問が尽きなかった事前オンライン説明会の模様をお伝えしたい。
新型ムーヴの最大の売りは?
――価格が従来比で20万円くらい上がっている。従来のムーヴは「フリート」(企業がまとめて購入すること)も多かったと思うが、そういう需要にはどう対応するのか。
製品企画部 チーフエンジニア 戸倉宏征さん:新型ムーヴの最廉価グレードは、ダイハツ調べではスライドドアの付いた軽自動車で最も安い。こちらのグレードで対応していきたい。
――スライドドアの採用で価格上昇も仕方ない面があると思うが、ヒンジドアでこのサイズ(かつ、もっと安い値段)のクルマが欲しいという顧客もいるはず。どうカバーするのか。
戸倉さん:そうした課題があると認識はしているが、顧客の声を聞いたうえで、今回のラインアップで対応できると考えている。
――従来、ムーヴには「標準車」と「カスタム」があったが、今回は?
戸倉さん:基本、そういったグレード設定はない。ワンコンセプト、ワンシルエットで4グレードを設定した。
――一般的に、新型車が登場するときには「ここが新しいよ、ここが売りだよ」というポイントがある。ムーヴの場合は?
戸倉さん:「飛び道具」といえるような特徴的な装備はない。ムーヴが長く愛されてきた理由はバランスのよさ。今回は時代のニーズに合わせてスライドドアを付けて、徹底的にバランスにこだわった。新型ムーヴは「軽の魅力の決定版」だ。
――「電動パーキングブレーキ」(EPB)は上位グレードの「G」と「RS」が採用していて、「L」と「X」は採用していない。全車標準装備にしなかったのはコストが理由?
戸倉さん:確かにEPBの採用はGとRSだけで、ほかのグレードは足踏み式になる。全車標準装備にしなかったのはコストも含めたバランスを考えてのこと。エントリーグレードには必要十分な装備を盛り込み、そこから、ほかの機能が欲しい顧客は上のグレードに、というのがコンセプト。
※全車速対応のACCは「G」にオプション設定、「RS」は標準装備
――「X」と「G」の価格差が20万円ちょっとあって、割と大きいと感じる。どんな違いがあるのか。
戸倉さん:わかりやすい仕様差でいうと、ホイールが「鉄チン」から「アルミ」になったり、EPBの有無であったり。ヘッドランプは全グレードでフルLEDとしているが、「G」「RS」にはADB(配光可変ヘッドランプ)機能が付く。
――「G」と「RS」の価格差が18万円くらい。これはターボエンジン搭載による価格差なのか、装備面でも差があるのか。
商品企画部 車種企画室 室長 中澤学さん:エンジンに加えてACC、右側パワースライドドア、15インチアルミホイールなど、意匠と機能についても差がある。
――ボディサイズはムーヴキャンバスとほぼ一緒だが、具体的に、どこがキャンバスと違うのか。足回りの設定が違うのは理解したが。
戸倉さん:まずはムーヴキャンバスと「同じところ」からお話しすると、基本のプラットフォーム、パワートレイン、ボディサイズは一緒だ。ハード面での違いは運動性能に関わるところ、チューニングに違いがある。最も大きな違いはデザイン。Aピラーを傾斜させたり、ムーヴらしい流麗なシルエットを実現すべく、サイドシルエットは特に大きく変えている。クルマの意匠に関わる部分を「アッパーボデー」と呼ぶが、ここはムーヴ専用に開発した。
キビキビした走りにこだわり
――新型ムーヴでは「DNGA」プラットフォームを採用しているが、ほかのDNGA採用モデルと比べて進化している部分、変更している部分は?
戸倉さん:DNGA採用は軽自動車でいうと4台目(タント、タフト、ムーヴキャンバスに続き)。ハード面で大きな改良はないが、新型ムーヴ専用のチューニングを施した。具体的にはアクセルスロットルの特性、操縦安定性、ショックアブソーバーの特性、ステアリングの操舵力と戻り制御などだ。「ムーヴらしさ」に適合させた。
――足回りの設定を具体的に教えてほしい。
戸倉さん:ムーヴキャンバスは穏やかな挙動を狙って開発。ムーヴについては、歴代モデルの顧客の声を聞くと「キビキビした走り」への要望が多いので、応答性を重視して開発した。「タント」も同様に乗り心地と操縦安定性のバランスを狙っているが、あちらはどうしても重心が高くなる。
――安全装備の面で「ムーヴキャンバス」から進化した点は?
戸倉さん:基本的な安全装備、安全性能はキャンバスと同等。例えばエアバッグの個数は一緒。
――燃費が従来比で10%向上しているそうだが、決め手は。
戸倉さん:DNGAの採用が大きい。
――燃費がムーヴキャンバスに比べると少し低い理由は?
戸倉さん:詳細は答えられないが、走行抵抗のところに少し差がある。
――新型ムーヴに軽自動車向けハイブリッドが採用になると思っていたが。
ダイハツ広報:この商品については、発表したもの(パワートレインのラインアップ)がベストだと思って投入している。
スライドドア付き軽自動車が乱立! 差別化できる?
――ダイハツの主力はタントだと思うが、今回、ムーヴもスライドドアを採用した。どう住み分けるのか。
中澤さん:タントはセールスボリュームが大きく、客層も幅広い。広さ、スペースを中心とした使い勝手を期待する顧客や、サイズからくる存在感による付加価値を期待する顧客などから支持を得ている。ムーヴは、どちらかというとクルマ全体のバランス、走り、値段、性能の全体的なバランスを見極める顧客が多い。タントもムーブも歴史があり、保有台数はどちらも200万台ほどに達する。ブランドに愛着を持っている顧客にしっかりと次世代モデルを届けたいという思いも、実際問題としてはあった。
――ムーヴシリーズとして考えた場合、新型ムーヴとムーヴキャンバスの販売比率をどう見るか。
中澤さん:おおむね半々。
――ムーヴの保有台数、けっこう多いと伺ったが、新型への乗り換えはどのくらい想定しているのか。
中澤さん:軽自動車の需要の構成比を見ると、初めて購入する顧客と軽以外から乗り換える顧客が大体3割、軽から軽への代替えが大体7割くらい。(軽からの代替えの)過半数はムーヴからだと思っている。
――「ムーヴらしさ」とは。
戸倉さん:開発で悩み抜いたところだ。一言で言うと、クルマに求められるさまざまな要素を高いレベルでバランスさせている。「ミライース」は価格コンシャスな顧客、タントは広さ重視の顧客が支持。ムーヴは、それぞれの要素をまんべんなく持っていて(平均点、というと聞こえは悪いのだが)、価格とのバランスがいい。
――競合他社との比較で勝っているところは。
戸倉さん:今回はスライドドアを採用したので、軽ハイトワゴン市場の中で、顧客からどんな反応があるかは投入してみないとわからない部分がある。競合他社の、いわゆるスイングドアのクルマと同じ土俵になるのか、ならないのか。
――「カスタム」がなくなった理由は? 競合はスポーティーであったりキラキラ感があったりするカスタムを設定しているが。
戸倉さん:初代ムーヴを発売した30年前は「裏ムーブ」という通称でカスタムに先鞭をつけたが、顧客像は30年で変わった。先代ムーヴでは、標準もカスタムも顧客像がほぼ一緒になってきていた。
――NAとターボの比率をどう見るか。
中澤さん:ターボの比率、おおむね2〜3割と見る。軽自動車マーケットの全体で言えばターボ比率は1割くらいと見ているが、ムーブでは2〜3割。特に投入当初は最上級グレードが売れる傾向にあるので、比率は高めに出ると思っている。(藤田真吾)