Nianticがスマートフォン向けに提供しているゲーム「Pokemon GO(ポケモンGO)」「ピクミンブルーム」「モンスターハンターNow」の事業を、米国のモバイルゲーム会社、Scopely(以下、スコープリー)が35億ドルで買収する。取引完了は2025年を予定しており、スコープリーに移管後も、これらのゲームやアプリの提供は継続する。
このスコープリーとは、どんな会社なのか。また、買収したゲーム事業をどのように展開していくのか。2025年5月下旬に、スコープリーの共同創業者 兼 共同CEOのウォルター・ドライバー氏、共同CEO 兼 取締役のハビエル・フェレイラ氏、最高収益責任者(CRO) 兼 取締役のティム・オブライエン氏が来日。短時間ながらグループインタビューという形でお話をうかがうことができた。
スコープリーは、2011年に米ロサンゼルスで設立されたゲーム会社。スマートフォン、Web、PC、コンソールに向けたゲームを、世界15カ国以上で提供している。代表作の「MONOPOLY GO!」は、モバイルゲームでは史上最速という50億ドルの収益を達成し、1000万人以上のデーリーアクティブユーザーと1億5000万回以上のダウンロードを記録した。この他、「Star Trek Fleet Command」「MARVEL Strike Force」「Stumble Guys」など、スコープリーのゲームは累計150億時間以上プレイされているという。
●日本は「世界有数のマーケット」、強いIPにも着目
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今回のNianticに限らず、スコープリーは世界有力のゲームスタジオや企業を買収することで、ゲームのポートフォリオを強化してきた。例えば2020年には、ディズニーからMARVEL Strike Forceのスタジオを、2021年にはソニー・ピクチャーズエンタテインメント傘下のGSN Gamesを買収した。今回のNianticの3タイトル買収も、そうした事業拡大の一環だと捉えられる。
2023年には、サウジアラビアの政府系ファンド、パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)傘下で、ゲームとeスポーツ事業を展開するSavvy Games Group(サビー・ゲームズ・グループ)が、49億ドルでスコープリーを買収した。これにより、スコープリーは潤沢な資金を得て、ゲーム事業をさらに成長させていく基盤が整った。
日本市場についてウォルター氏は「世界でも有数のマーケット」「イノベーションで最前線を行っている市場」だと評価する。中でも注目しているのがIP(Intellectual Property:知的財産)だ。「日本には、世界中に羽ばたいている強いIPがあるので、世界中のゲーマーに届けたい」とウォルター氏は意気込む。Nianticから買収した3タイトルも、「ポケモン」「ピクミン」「モンスターハンター」という強いIPを持っており、これらのIPがスコープリーのゲーム事業をさらに拡大させると考えたようだ。
●「私たちの目標は、何かを変えることではない」
スコープリーの買収の発表があった直後は、Nianticのゲームはサービス終了するのか、といった臆測がネットで見られたが、スコープリーのビジネス拡大の戦略や、IPをゲーム事業の武器にしたいという買収の意図を考えると、サービス終了はあり得ないことが分かる。一方、これまでのゲーム体験が維持されるのかは気になるところ。例えば、課金要素や広告が増えることがあれば、ゲーム体験は大きく損なわれる。
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この点についてハビエル氏は、「私たちは、Niatnicが持っているビジョンに共鳴した。そういう意味で、私たちの目標は、何かを変えることではなく、逆にエンパワーをしたい」と話す。例えばポケモンGOについては、開発チームは一切変わらず、今後もポケモンGOのチームが主導権を持って開発を進めていく。スコープリーの買収によってゲームの体験が変わることはなく、継続していくことを、ハビエル氏は強調する。
ポケモンGOのチームリーダー、エド・ウー氏に、Pokemon GO Fest 2025の会場でお話をうかがったところ、スコープリーが現在の開発チームを尊重していることを強調する。「スコープリーは全面的にNianticのチームを信頼している。そこに自分たち(スコープリーのスタッフ)が加わって一緒にやろうというわけではない」というエド氏の言葉からも、開発体制にプラスの影響はあれど、マイナスの影響はないことが分かる。
「私はNianticのゲームに10年関わっているが、今の姿になったのは、これまで関わってくれたチームのおかげであり、同じチームを進化させ続けることで、今までのようにすてきなものができると信じている」(エド氏)
スコープリーの買収によって、運営元や開発元、ましてや開発チームが変わるわけでもない。あくまで「オーナーが変わる」という関係性であることを、Nianticの広報担当者も強調する。この点は誤解されやすいそうで、Niantic側もユーザーに対して丁寧に説明していく必要がありそうだ。
●ゲームを強化するための支援に徹する IPホルダーとの関係強化も
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では、スコープリーによる買収は、Nianticのゲームにとって、どんなメリットをもたらすのだろうか。分かりやすいところでいえば、スコープリーが持つ潤沢な資金力だ。
ウォルター氏は「追加のリソースを提供して、プレイヤーのために、良いものを提供できるようお手伝いをしたい。私たちのビジネスは、プレイヤーに何日も何週間も、ずっとゲームに戻ってきてもらうこと。これは素晴らしいプレイ体験を提供することで実現できる」と話す。繰り返しになるが、スコープリー自らがゲームの方針に口を出すのではなく、ゲームを強化するための支援に徹するという関係になりそうだ。
日本市場で達成したいKPI(目標)については、ポケモンGO、ピクミンブルーム、モンスターハンターNowのユーザーを拡大することだとハビエル氏は言う。また、開発チームの拡大も目標に掲げている。
「日本市場には、世界有数のタレントがいる。今後もスタジオに投資を続けて、チームを拡大していきたい。IPホルダーとの関係も深め、向こう3年、パートナーシップを拡大していきたい」(ハビエル氏)
●位置情報ゲームと熱狂的なコミュニティーに価値あり
スコープリーが買収した3タイトルは、いずれも位置情報を活用したゲーム。こうしたゲームを手に入れたことについて、ウォルター氏は「そのカテゴリーをリードしている会社と仕事ができることに喜びを感じている」と率直に語る。位置情報ゲームは外に出て遊ぶものなので、運動をしたり、似たような趣味を持ってつながったりすることにつながる。そうした副次的な効果もウォルター氏は高く評価する。
「こういうカテゴリーに入ろうとして失敗した会社も多い。世界のトップのチームと仕事ができるので、どんな体験を提供できるのかを楽しみにしている。体験を改善、拡大していきたい」(ウォルター氏)
ウォルター氏はコミュニティーが盛り上がっていることにも関心を示し、「そういう意味では10年単位で考えられる」と評価する。スコープリー自身も、ゲームを通じて意義のあるコミュニティーを形成することをミッションに掲げており、ユーザーとの接点を持つことを重んじている。これはまさに、ポケモンGOを始めとするNianticのゲームとも通じる理念であり、スコープリーが共感した部分でもある。
なお、現在のところ、Nianticの現チームと一緒に新しいゲームを開発する計画はないという。
「(新しいゲームを)並行して開発する可能性はあるし、日本のスタジオが今後、出してくるアイデアによって変わる可能性はある。ゲーム開発はチームがけん引するプロセスなので、スタジオと協力しながら考えていきたい。可能性はオープンに考えている」
このハビエル氏の言葉からも、新しい取り組みをするにしても、現在の開発チームが主体的に動けることを前提にしていることが分かる。
ちなみに、ウォルター氏、ハビエル氏、ティム氏は、Pokemon GO Fest 2025:大阪にも参加したそうだ。多数のトレーナーが集まってゲームを楽しむ様子を目の当たりにしたことで、位置情報ゲーム、ひいてはポケモンGOというゲームの大きな可能性を感じたことだろう。
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