
3歳馬の頂上決戦となるGI日本ダービーが行なわれたあと、東京競馬場の最終レースでは古馬による伝統の重賞、GII目黒記念(6月1日/芝2500m)が行なわれた。同レースでは4歳馬がワンツーフィニッシュを決めたが、この春は4歳馬の活躍が目覚ましい。
3月以降の芝の重賞レース(4歳以上)では、19レース中11レースで4歳馬が勝利。GIレースでも、天皇賞・春(1着ヘデントール、2着ビザンチンドリーム)とヴィクトリアマイル(1着アスコリピチェーノ、2着クイーンズウォーク)で4歳馬がワンツーフィニッシュを決めている。
そうした状況にあって、GI安田記念(6月8日/東京・芝1600m)でも素質あふれる4歳馬が集結。それぞれに熱い視線が注がれている。
マイルGI2勝のジャンタルマンタル(牡4歳)に、昨秋のGII毎日王冠(10月6日/東京・芝1800m)で古馬勢を一蹴し、今春のGII中山記念(3月2日/中山・芝1800m)も制しているシックスペンス(牡4歳)。さらに、前走でGIIIダービー卿チャレンジトロフィー(4月5日/中山・芝1600m)を快勝したトロヴァトーレ(牡4歳)や、前走のGIII東京新聞杯(2月9日/東京・芝1600m)で圧巻の差しきり勝ちを決めたウォーターリヒト(牡4歳)。そして、2歳時のGI朝日杯フューチュリティS(阪神・芝1600m)でジャンタルマンタルの2着となったエコロヴァルツ(牡4歳)らである。
これら有望な4歳勢が、遅咲きの"マイル王"ソウルラッシュ(牡7歳)相手にどんな走りを見せるのか、というのが今年の安田記念の一番の見どころと言えるだろう。
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王者ソウルラッシュは、6歳の昨秋にGIマイルCS(11月17日/京都・芝1600m)で戴冠を遂げてGIウィナーの仲間入りを果たした。今年7歳となったが、その能力はまったく陰りを見せず、むしろ上昇気配にある。4月の海外GIドバイターフ(1着。4月5日/メイダン・芝1800m)では、昨年の安田記念の覇者で香港の歴史的な名馬、ロマンチックウォリアー(2着)を撃破している。
まさに今、日本のトップマイラーであり、伸び盛りの4歳勢にとっても高い壁となる。
だが、その高い壁を乗り越えれば、単に安田記念の勝ち馬というだけでなく、日本競馬に待望久しい"マイル界のスター"への階段を一歩刻むことにもなる。
では今回、4歳勢5頭のうち、最もその期待がかけられているのはどの馬か。
いずれも捨てがたい魅力を備えているが、これまでの実績とタレント性を重視すると、ジャンタルマンタルとシックスペンスといったところだろうか。
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ジャンタルマンタルは、朝日杯FSとNHKマイルC(東京・芝1600m)とGIの勲章をふたつ手にしており、GI皐月賞(中山・芝2000m)でも3着と好走。世代トップレベルの実力の持ち主で、ここに集った4歳勢のなかでは実績的に他の追随を許さない。
順当なら、この馬が現在のマイル戦線における「1強」「絶対王者」として君臨している可能性は十分にあった――が、そうはならなかった。3歳秋に一頓挫あって、歯車が狂った。関西の競馬専門紙記者もこう語る。
「ジャンタルマンタルが最後に勝ったのは、昨春のNHKマイルC。ほぼ1年間、勝っていません。それどころか、その間に使われたレースは昨年末の海外GI香港マイル(12月8日/シャティン・芝1600m)だけ。しかも、ふた桁着順(13着)に沈んでいます。
同馬の状況を簡潔に言えば、順調さを欠いている、ということです。今回の安田記念も、体調がどこまで戻っているのか。能力の高さは認めても、大きな期待をかけるのはどうでしょうか」
片や、シックスペンスはどうか。
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同馬も気がかりはある。強さと脆さを抱えている点だ。なにしろ、ここまでの成績が7戦5勝。2、3着はなく、着外が2回と明暗がくっきりと分かれているのだ。
勝ち負けを分けるのは、主に距離。1800m以下のレースなら負けなしだが、2000m以上のレースでは掲示板(5着以内)にさえ載ることができていない。前走のGI大阪杯(4月6日/阪神・芝2000m)でも、1番人気に推されながら7着に沈んだ。先の専門紙記者が言う。
「4角を回るまではいい手応えで来ていながら、直線に入って追い出すと、さっぱりでした。あれは、明らかに距離が長い、という負け方でしたね」
ただし、今回はマイル戦。過去に大敗した2戦の敗因が距離であれば、同馬への期待は大きく膨らむはずだ。が、巷はそういったムードになっていない。
というのも、負けた2戦がともにGIだったからだ。つまり、2度の敗戦は距離だけが原因ではなく、GIの舞台で格負けしていた。そこで勝ち負けできるだけの強さが備わっていなかった、という評価を受けているのだ。
それゆえ、大阪杯敗退後には「千八大将」とか「GII番長」といった、ありがたくないあだ名がついてしまった。
ともあれ、距離を短縮してのGI参戦は、あらためてシックスペンスにとって試金石の一戦となる。
そもそも前々走の中山記念では、ソウルラッシュを1馬身4分の1差の3着に退けている。同馬にとっては、決して"高い壁"ではない。また、先述の専門紙記者によれば、「シックスペンスのこの春の最大目標は、当初から安田記念と決まっていた」という話もある。
絶対的な存在がいなくなって久しいマイル路線。シックスペンスがその候補に名乗りを上げるのか。あるいは、勢いある他の4歳馬が台頭するのか。はたまた、ソウルラッシュが7歳にして、絶対王者として不動の地位を築くのか。注目の一戦から目が離せない。