
清水直行が分析するロッテの現状 前編
今季のロッテは49試合を消化した時点で18勝31敗、5位の楽天と5ゲーム差のリーグ最下位と低迷している。苦しいチーム状態が続いているが、OBはどう見ているのか。長らくロッテのエースとして活躍し、2018年、19年にはロッテの投手コーチも務めた清水直行氏に見解を聞いた。
【「VISION 2025」が目指していたものと現実】
――ロッテは苦しいチーム状態が続いていますが、ここまでの戦いぶりをどう見ていますか?
清水直行(以下:清水) 借金が2ケタありますし、チーム状態がよくないのは間違いありません。細かく分析をすればさまざまな課題が出てくると思いますが、大きな部分で言うと、昨年に機能していたネフタリ・ソトとグレゴリー・ポランコの不振が長く、点が取れない状況が続いていること。点が取れないのでピッチャーも我慢しきれず、流れをつかめないままズルズルきている印象です。
昨年のロッテは5つの貯金をしてシーズンを終えましたが(71勝66敗)、西武戦では17個もの貯金をしました。ただ、今年はいまのところ西武に負け越していますよね(4勝6敗/6月4日時点、以下同)。その部分だけを切り取ると、西武に負け越したらトータルで借金してしまうのも当然のこと。つまり、今年のロッテは数字だけで考えれば、実は昨年とあまり変わっていないという見方もできます。
――昨年は16勝8敗と大きく勝ち越したオリックスに対しても、今年は2勝7敗と負け越していますね。ロッテは主力にケガ人が少ないにもかかわらず、ここまで状況が暗転しているのはなぜでしょうか。
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清水 これも大きな問題で、シーズン終了後にしっかりと精査しなければいけません。ただ、これらのことは、単に選手の状態や実力といった問題というよりも、「もっと根深い部分の問題なのでは?」と感じます。
ロッテは2025年までに常勝軍団となることを掲げ、2021年に「VISION 2025」を発表しましたが、その頃からの球団の編成も含め、大きな視点で議論するようなことがあってもいいのではないか、と思います。球団としてビジョンを掲げたのであれば、それに対して何らかの成果が求められるのは必然だと思いますし、それが実現できないとなれば、何かしらのアクションがあっても不思議ではありません。
――大きな改革が必要になる可能性もある?
清水 日本ハムの新庄剛志監督が今年4年目。チームを根本から変えてきて着実に力をつけていますが、やはり過去の例を見てもチームを変えていくためには3年〜5年くらいはかかります。2021年に掲げた「VISION 2025」を自分なりに解釈すると、「近年のドラフトで指名した選手たちを、日本代表クラスに育てていきながら優勝をつかむ」というビジョンだと思うんです。
今のロッテに、日本代表に選ばれるような選手がどれくらい、いるのか? チームを引っ張っていく選手がいるのか? そう考えると、スッと名前が出てきませんよね。取っ替え引っ替えの選手起用では、選手に「自分は中心選手なんだ」といった自覚が芽生えにくいと思いますし、チームの柱になるような選手はなかなか育っていかないんじゃないのかなと。
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【改革が進まなかった理由】
――選手を育てるためには、ある程度我慢して使っていくべき?
清水 あくまで個人的な意見ですが、ある程度は固定したほうがいいと思います。すべてのポジションを固定したほうがいい、1番から9番まで固定したほうがいい、クリーンナップを固定するべきだとか、そういうことではなく、将来中心になっていくような選手、現在結果が出ている選手は辛抱強く使い続けたほうがいいんじゃないかと。
相手ピッチャーとの相性などもあると思いますが、バッティングもピッチングも"生き物"です。当然データ班が提示するデータも大事だと思いますが、その日の調子を見て臨機応変に対応していくことへの意識が少し薄くなっているような気がするんです。
例えば、山本由伸(ロサンゼルス・ドジャース)が、(5月21日のアリゾナ・)ダイヤモンドバックス戦で110球(投球回7回)を投げましたよね。状態を近くで見ている監督やコーチが、山本の投球のメカニックや表情、息づかいなども踏まえ、100球を超えても投げさせる判断をしたと思いますが、それが采配であり仕事だと思うんです。
――先ほど「VISION 2025」が実現できないのであれば、何かしらのアクションがあっても不思議ではない、という話がありました。現在のチーム状態は、常勝軍団を目指すといったビジョンとの乖離を感じざるをえません。
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清水 企業は想定していたよりも業績が悪ければ下方修正しますよね。それと同じように「VISION 2025」が難しくなったのであれば、誰かが責任をとりつつ、例えば「VISION 2030」といったようにビジョンを変えてもいいと思うんです。やっぱりフロントと現場の監督・コーチ、選手が一体となって、遮二無二やならなければチームを強くしていくことは難しい。
それと、ここ数年ロッテはシーズン終盤に粘りを見せて2位になったり、3位に滑り込んだりしぶとさを見せています。そのしぶとさゆえの弊害と言ったら変ですが、そのことがチームを改革しにくくしているのかもしれません。「Aクラスになれるかも」「優勝できるかも」というシーズンが続いていて、(54勝87敗2分けでリーグ最下位となった)2017年以来、ドカンとやられたシーズンがありません。そうなると、思いきったことがやりにくくなったりするんです。
――選手の世代交代なども、それに当たりますか?
清水 そうですね。例えばベテランや、経験値が高い選手を多く使えば、「3位にはなれる」「日本で実績のある外国人選手を獲れれば、優勝争いができるかも」となるかもしれませんが......それも、もちろん悪いことでないのですが、そうなると世代交代も遅れかねません。ベテランは起用を続ければ、それなりに結果を出します。でも、それを繰り返してしまったために、若手がなかなか育っていないんです。
それは"逃げ"の考えであって、どういう状況であろうと世代交代を図っていくこと、チームを強くしていくことが、フロントや監督・コーチの仕事なはずです。常に優勝争いできるチームを目指すということは、そういうことがありながらも、しっかりと"血"を入れ替えていかなければ実現できないと思うんです。
――極端に言うと、落ちるところまで落ちたほうが改革に着手しやすい?
清水 そうですね。ただ、監督は就任から1、2年が勝負になりますよね。選手を育てることも大事ですが、やはり勝つことが最優先。目先の勝ちだったり、「自分が監督になったからには、こうする」みたいなものはどの監督にでもあるでしょうし、負けを受け入れるのは難しいでしょう。
しかし、そこはフロントと現場が「この政権で〇年間」といったようなロードマップを共有して足並みをそろえて進めていかないと。そうしなければ、根っこから変えていくことは難しいような気がします。
(後編:清水直行は「勝っているロッテが見たい」バッテリーが抱える問題、苦境のなかで見える光明についても語った>>)
【プロフィール】
清水直行(しみず・なおゆき)
1975年11月24日に京都府京都市に生まれ、兵庫県西宮市で育つ。社会人・東芝(旧・東芝府中)から、1999年のドラフトで逆指名によりロッテに入団。長く先発ローテーションの中核として活躍した。日本代表としては2004年のアテネ五輪で銅メダルを獲得し、2006年の第1回WBC(ワールド・ベースボールクラシック)の優勝に貢献。2009年のシーズン後にトレードでDeNAに移籍し、2014年に現役を引退。通算成績は294試合登板105勝100敗。引退後はニュージーランドで野球連盟のGM補佐、ジュニア代表チームの監督を務めたほか、2019年には沖縄初のプロ球団「琉球ブルーオーシャンズ」の初代監督に就任した。