まさかの「備蓄米ブーム」到来…… 米の価格は下落するのか? 各社の「仕入れ量」「取り組み」総まとめ

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2025年06月07日 06:01  ITmedia ビジネスオンライン

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まさかの備蓄米ブームが起きている

 政府と小売店業者間の随意契約に基づく備蓄米の供給が始まった。当初、備蓄米は入札方式で放出したが、高騰に歯止めがかからず、随意契約に切り替えた。大手小売チェーンが仕入れ、既に店頭に並んでいる。


【画像】イトーヨーカドーの販売する備蓄米、セブンの「政府備蓄米 無洗米 2kg」、ファミマの1キロ単位の備蓄米、ローソンの2種類の備蓄米(全4枚)


 随意契約ではないが、市場から調達した古米をそのまま売るのではなく、おにぎりとして販売するコンビニも現れた。各社はどのように販売しており、そして価格への影響は出ているのか。小売各社の仕入状況と販売額を比較していく。


●2024年から上昇し始め……


 もともと、スーパーにおける米5キロ当たりの価格は2000円未満で推移していた。2024年5月辺りから2000円強となるも、緩やかな上昇だった。


 2024年後半から急にペースが早まり、8月に2500円、9月には3000円を超えた。直近では4000円台となっている。


 日本の農業はJA(農業協同組合)が全てを左右するという極論も聞かれるが、米の全生産量に占めるJAの集荷割合は4割程度。残りは農家から卸売業者や外食事業者等への直売で、市場の原理が働く。昨今の高騰で卸売業者に流れる米の量は増えており、2024年産に至ってはJAの集荷率がさらに1割減少するといわれる。


 価格高騰が収まらない状況で政府は3月以降、入札方式による備蓄米の放出を決めた。備蓄米は政府が凶作に備えて用意するものであり、1993年の大凶作をふまえて1995年から備蓄している。計3回の入札で31万トンが落札されたが、3月中に落札された21万トンのうち、小売業者に回ったのはわずか13%で2.7万トンしかない。国内における主食用米の需要は年間700万トンであり、焼け石に水となった。


 流通が滞っている現状を踏まえ、政府は入札方式から小売業者との随意契約に切り替えた形だ。5月26日に契約申請の受け付けを開始し、早くも31日から一部スーパーの店頭に並び始めた。


●「利益は求めない」 小売り各社は通常米の半値程度で発売


 業界最大手のイオンは随意契約で2万トンを申し込んだ。都市部の店舗から先行販売を進めるとして、6月1日に東京、2日に千葉・愛知・大阪の3店舗で販売を開始した。価格は5キロで2138円と、現在の相場の半分だ。初日の販売では6200袋を用意。開店前から850人が並んだという。準備ができ次第、全国の店舗にも供給する。


 5000トンを申請したイトーヨーカドーはイオンより1日早い5月31日に備蓄米を発売した。価格は5キロで2160円。先行販売した都内の大森店では500袋を用意したが、すぐに完売した。同日のネット販売も、3500袋が10分で完売したという。6月より順次、イトーヨーカドーやヨーク全店に広げる方針だ。


 流通に関する意見書を小泉進次郎農相に提出した、ドン・キホーテ運営元のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は1万5000トンを申し込んだ。5キロで2139円とイオン並みの価格に設定。6月1日に東京都大田区のMEGAドン・キホーテで販売を開始し、順次取り扱い店舗数を拡大している。


 スーパー各社の価格は5キロ・2000円程度であり、政府が想定した価格帯になっている。原価率は半分程度だが、備蓄米は玄米であるため、精米の確保がネックだ。PPIHの幹部は別紙の取材で「利益は求めない」としており、単体の利益よりも集客や宣伝が目的といえる。


●コンビニ各社は、より小ロットで発売


 コンビニ各社は随意契約第1弾の申請が通らず、第2弾で再申請した。既に契約が完了し、各社とも販売方針を発表している。


 セブン-イレブンは500トンを申請し、届き次第、全国に展開する方針だ。販売価格は2キロで775円、6月17日から販売する。コンビニらしくスーパーよりも小分けで販売し、かつ利便性を求めて無洗米とした。


 1000トンを申請したファミリーマートは1キロ単位とし、価格は388円に設定した。発売日は6月5日で、東京と大阪から、全国へ扱う店舗数を増やす。


 500トンを申請したローソンは6月5日に東京・大阪の計10店舗で発売。1キロ・389円と2キロ・756円の2種類を用意した。6月14日からは沖縄を除く全国の店舗に展開する。スーパー各社が5キロで販売する一方、コンビニ各社は1〜2キロ単位で供給する方針だ。


 コンビニではどれほど供給が進むだろうか。ローソンは1万3800店舗での展開を目指しているが、仕入れた玄米500トンから精米される米はおよそ450トンだ。全店舗に均等に配った場合、1店舗あたり32キロしかない。他社も同程度といえる。随意契約第2弾の仕入れ分は各社ともすぐに完売となりそうだ。


 なおローソンでは古米を使った「ヴィンテージ米おにぎり」の販売を予定している。従来品よりも50円前後安く設定した。随意契約の備蓄米ではなく、市場から仕入れた古米を使う。スーパー、コンビニ以外では楽天やアイリスオーヤマがECで随意契約に参入しており、既に品切れ状態だ。


●備蓄米ブームはどこまで続く


 安い備蓄米の放出によって、コメ価格が下落するという憶測が出ている。しかし随意契約による備蓄米の供給は始まったばかりであり、影響は判断できない。スーパーにおける米5キロ当たりの平均価格は直近で少し安くなったが、劇的な変化はない。


 とはいえ政府は7月まで備蓄米を放出するとしており、追加の随意契約で値下がりする可能性はある。夏以降になれば2025年産米が市場に出るため、問屋が貯めこんでいた分が安く市場に出回るかもしれない。


 米価格が高騰した要因は、好調な外食産業による需要増加、燃料費・人件費などコストの上昇などさまざまだ。インバウンドの増加を要因とする意見もある。


 巨視的に見れば、減反政策に伴う生産量の低下が今回の騒動を招いた主要因である。農家に補助金を供給する形での減反政策は2018年に終了したが、その後も飼料米への転作に補助金を出すなど、事実上の減反が続いた。若年層の参入が起きず高齢化が進み、高齢化した農家の引退も相次ぐ。こうしたことが影響して米の生産量は近年でも減少を続けており、2018年産の約778万トンに対し、直近の3年間は720万トン前後しかない。


 政治的に補助金政策の廃止や、増産などの政策は難しく、今後も需給がひっ迫すると見られる。備蓄米ブームはしばらく続くかもしれない。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。



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  • 平常時に備蓄米を高値で買わされてるのがブーム?
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