58万人以上が「別姓婚待ち」の推計も…なぜ選択的夫婦別姓は30年近く停滞? 専門家が解説

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2025年06月07日 06:48  TBS NEWS DIG

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「選択的夫婦別姓」制度の導入に向けた法案が、28年ぶりに衆議院で審議入りしました。長年導入を求める声が挙がってきましたが、今国会では自民党が法案の提出を見送り、野党3党がそれぞれに法案を提出し1本化できない状況で、実現の見通しは立っていません。

そもそも、選択的夫婦別姓とはどのような制度なのか?現行制度の課題とは?「選択的夫婦別姓」制度に詳しい弁護士の寺原真希子さんに聞きました。
(TBSラジオ「荻上チキ・Session」5月15日放送分より抜粋)

「選択的」夫婦別姓とは何か? 現行制度の問題点

選択的夫婦別姓とは、結婚する際に夫婦をいずれかの氏にするか、それぞれの氏を使い続けるか、選べるようにする制度です。寺原さんは「『選択的』とついているのは、いずれの選択肢もあるということ」と説明します。

現行の民法750条では、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と規定されています。これを受けて戸籍法74条1号では、婚姻届に夫婦が称する氏を記載することが求められており、これがなければ婚姻届は受理されません。

つまり、どちらかの姓を選ばなければ法律上の婚姻ができないのです。

寺原さんは「現行法の根本的な問題は、氏と婚姻という、人にとっていずれも重大な価値の二者択一を迫ることの不合理性」だと指摘します。
この不合理性から生じる問題は大きく3つあると寺原さんは説明します。

1. 氏名権の侵害
婚姻の際に片方は必ず氏を変えなければならず、「氏は個人の人格の象徴ともいえるので、改姓が不便という話だけではなく、アイデンティティの喪失になっています」。

2. 婚姻自体をできない人々の存在
事実婚を選ぶ人の約半数にあたる、58万人以上が別姓婚を待っているという研究結果があり、現在の状況は婚姻の自由の侵害になっていることが指摘されています。

3. 男女不平等
ほとんどの場合に女性が氏を変えており不利益を被っている状態です。大阪大学の三浦麻子教授の調査(2024年12月)によれば、「婚姻の際に8割の夫婦がどちらの氏にするかの協議すらしていない」状況で、男性の氏を名乗るのが当然であるという男女不平等な価値観が固定化することにつながっています。

「今、夫婦同姓にしている夫婦であっても、もし別姓という選択肢があれば氏を変えたくなかった方もいらっしゃると思います。同姓にする場合でも、きちんと協議をして納得したうえで同姓にしたいという方もいらっしゃると思うんですね」(寺原さん)

最高裁で「夫婦同姓は合憲」ただし…

強制的に夫婦同姓となっている現制度について、憲法学では「違憲であるという見解が通説になっている」と寺原さんは説明します。具体的には、憲法13条で保障される人格権(氏名権)、24条1項の婚姻の自由、14条1項の法の下の平等、24条2項がうたう個人の尊厳や両性の本質的平等に反するという見方です。

ただ、2015年と2021年の最高裁の判決では、いずれも「現行の夫婦同姓制度は憲法には違反しない」という結論でした。「ただし、問題がないと言ったわけではなく、『国会できちんと議論をしてください』と国会にボールを投げた状態だ」と解説します。

最高裁の判事の意見のなかには、「同姓にするにしても、きちんと協議の上で選択がある中で自分が選択したんだという自己決定の機会を持たせることは重要だという指摘があった」と寺原さんは付け加えます。

「通称使用の拡大」の限界と、子どもの姓への懸念

「選択的夫婦別姓」導入の代替案には、「通称使用の拡大」という案も挙げられています。これは婚姻時に改姓をしても、旧姓を「通称」として使用できる機会を増やすものです。

これについて寺原さんは「通称“併記”の拡大に過ぎない」と指摘します。「通称を単独で公的な証明書に書いたり、これによって区役所等で手続きができたりするものではありません。戸籍姓がある以上は、それが第一の姓であって、通称は戸籍姓と同じ価値は得られない」と説明します。

「もし単独で通称が使用できるような法案にするということであれば、戸籍姓の意味がなくなってしまうので、そうした法案は与党から出てきていないというのが現状です」

また、近年強調されている「子どもがいずれかの親と氏が異なるとかわいそう」という懸念について、「今でもいろんなパターンで父母両方と同姓でない子どもたちはたくさんいる」と指摘。事実婚の子ども、国際結婚の子ども、再婚の子どもなど、「氏と愛情を結びつけるような言説は、こうした子どもたちの存在を無視した、実態を捉えていない議論だ」と述べています。

また現行法であっても、国際結婚の場合は別姓か同姓かを選ぶことができます。過去の訴訟で、ニューヨークで別姓婚をした日本人夫婦が日本でも婚姻を認めることを求めた際に、「戸籍は受け付けないが、婚姻は有効」という判決が下されています。「日本人同士の別姓夫婦の婚姻は日本でも有効であるにもかかわらず、戸籍だけが追いついていない状態が残っている」と指摘しています。

国会での議論状況は…

TBSラジオ国会担当の澤田大樹記者によると、現在の国会での議論状況は次のようになっています。

立憲民主党:
民法を改正し、選択的夫婦別姓を制度化する案。子どもの姓については、結婚する際にどちらの姓にするか決める内容。

国民民主党:
民法を改正し、選択的夫婦別姓を制度化する案。結婚する際に「戸籍筆頭者」を決め、子どもの姓は筆頭者の姓になる。

日本維新の会:
別姓制度の導入ではなく、戸籍法を改正し、戸籍に旧姓を記載するなど法的に通称使用できるようにする案。

自民党:
今国会での法案提出を見送る方針を固めた。野党案に反対する党議拘束をかけることも検討したが、見送る方針。

澤田記者は「衆議院法務委員長のポストを持っている立憲民主党は、今国会中の成立を目指し、内容の近い国民民主党に秋波を送っているが、国民サイドは難色を示している」と分析。

「ただ、参院選を前に各党の判断を示す意味でも採決自体は行いたい考えで、選択的夫婦別姓実現に前向きな与党・公明党および自民党内の推進派の動きも含め、会期末にどういった結果になるのか注目が集まります」

30年近く進展がないままの選択的夫婦別姓。当事者たちの声と各党の政治的思惑が交錯するなか、制度設計の具体的な議論がどう進むのか、今後も注目が必要です。

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