
福田正博 フットボール原論
■ヨーロッパのサッカーシーンで、今季活躍が目立った日本人選手たちを福田正博氏が評価。また今オフのステップアップ移籍が噂される選手たちがいるなか、W杯前のシーズンでのチームを変える難しさも指摘した。
>>前編「福田正博が評価する『チームの中心』『見事な結果を残した』選手たち」
【存在感を発揮した堂安の活躍】
ブンデスリーガでは堂安律がすばらしい結果を残した。34試合で10得点7アシスト。攻撃の核として存在感を発揮していた。5位となったチームは、来シーズンはUEFAヨーロッパリーグがあるだけに、堂安は残留したほうがいいだろう。自分のプレースタイルを理解してもらっているチームでしっかり試合に出ながら結果を残し、シーズン終了後に控えるW杯を迎えてほしい。
バイエルンの伊藤洋輝にとっては、故障によって不完全燃焼のシーズンになってしまった。中足骨骨折は再発しやすい箇所だけに、しっかりと直して万全な状態で復帰してもらいたい。
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そのバイエルンをはじめとする複数のビッグクラブから獲得の噂が出ているのが、ボルシアMGの板倉滉だ。リーグ戦31試合3得点で3バックの中央でDF陣を統率する姿は安定感抜群だった。海外でプレーして来季で8年目となる板倉は、来年1月に29歳になる。リーグ戦10位だったチームから、もう1ランク、2ランク上のクラブへ移籍して優勝争いを経験してもらいたいところだ。
ラ・リーガではレアル・ソシエダの久保建英が期待どおりの成長を遂げてくれた。36試合に出場し、5ゴール0アシストは数字的には物足りなく感じるものの、「あのゴールが決まっていたら」「絶妙のアシストをチームメイトが決めていれば」などの"たられば"があった。実際チームの攻撃のほとんどが久保を経由して始まっていた。守備面でもチームに貢献。11位のチームにあって圧倒的な存在感を示した。
レアル・ソシエダは久保を引き立てたイマノル・アルグアシル監督が今季限りで退任するため、久保にとっても分岐点になる。残留するか、もう1ランク上のチームで勝負するか。バルセロナのカンテラ時代から激しい競争に身を置いてきた久保にとって、新たな飛躍へのステップを踏み出してもいいとは思う。どういう決断をするにしろ、来年のW杯ではスケールアップした久保が見られることを期待している。
【W杯前シーズンの移籍はとても難しい】
W杯前のシーズンのタイミングで移籍することは、選手にとってはリスクも大きい。新たなチームで出番が得られればいいが、フィットできずにベンチを温めることが増えると、代表でのプレーにも影響が出てしまうからだ。前回の2022年カタールW杯では、リバプールで多くの出場時間が得られずモナコへ新天地を求めた南野拓実がそうだった。
その南野は3シーズン目となったモナコで、本来の輝きを放っている。今季は31試合で6得点をあげ、攻撃面でチームに不可欠な存在感を発揮した。来季もモナコでプレーし、不本意な形で終えた前回W杯のリベンジを、2026年W杯の舞台で果たしてもらいたい。
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リーグアン2年目の今季は32試合で11得点だったスタッド・ランスの中村敬斗にとっても、このシーズンオフは大事になる。一時は伊東純也とツートップのような形を敷くなど、高い得点力を買われる試合もあった。左サイドのアタッカーとして縦への突破、中央への切り込みに加え、シュートもうまい。
それだけに、中村敬斗を欲するクラブは少なくないだろう。本人がどう考えているかはわからないが、次はプレミアリーグでという思いを持っていても不思議はない。三笘薫が躍動するプレミアリーグで、中村敬斗はどんなプレーを見せてくれるのか想像するだけで楽しくなる。
【鈴木彩艶の活躍は大きい一歩】
最後にセリエAのパルマでGKとして圧倒的なパフォーマンスを残した、鈴木彩艶について触れておきたい。38試合中37試合に出場して、53失点。もちろん失点はGKだけの責任ではないのだが、この失点した分だけ鈴木彩艶が「ああしていたら防げたかも」と考えることで、彼を飛躍的に成長させたと思う。
なにより、日本人GKが世界トップレベルのリーグで守護神を任された。これからの日本サッカーにとっては心強い限りだ。遠藤航がプレミアリーグで日本人には無理だと言われた守備的MFで道を切り開いたように、鈴木が成長を続けていけば彼に続こうとする日本人GKが現われる可能性がある。それくらい大きい一歩を鈴木は踏み出してくれた。
2026年W杯は、2025−26シーズン終了後の6月から幕を開ける。このシーズンオフにステップアップ移籍を決断する選手が現われた時、そこには先述したようにチームで出場機会に恵まれなければ、W杯メンバーから落選するリスクもある。それくらい移籍というのは難しい決断だということを忘れずに、各選手たちがどんな決断を下すのかを見守ってもらいたい。
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