
ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
――先週のGI日本ダービーは、大西さんが「1強」と評していたクロワデュノールが人気に応えて快勝。堂々と世代の頂点に立ちました。そして今週からは、2歳戦がスタート。来春のクラシックへ向けて、新たな戦いが始まります。そうしたなか、東京競馬場での5週連続GI開催のラストを飾る、GI安田記念(6月8日/芝1600m)が行なわれます。
大西直宏(以下、大西)安田記念はグレード制が導入された1984年、GIに格づけされました。それまでは、ハンデ戦のオープン特別レースでした。自分はGI昇格後の2002年、ミヤギロドリゴ(16着)に騎乗して参戦しています。
GI昇格前には、1981年に稲葉幸夫厩舎のホルテスポートという馬を任されて出走したことを覚えています。稲葉厩舎と言えば当時、二本柳俊夫厩舎と並ぶ名門中の名門。所属騎手も3〜4人いたのですが、減量(騎手)目当てでちょこちょこ乗せてもらっていて、その流れで騎乗依頼をいただきました。
ホルテスポートは本質的にはダート向きで、結果は6着に終わりました。それでも、若手時代の貴重な経験となって、印象深い一戦でしたね。
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――そういった時代を経て、今や安田記念は上半期の最強マイラー決定戦といった位置づけにあります。同舞台ではどういったタイプが向いているのか、簡単に教えていただけます。
大西 マイル戦ですから、一定以上のスピードや瞬発力は不可欠です。ただし、舞台は直線が長い本格コースの東京競馬場。ひとつの武器に特化したタイプよりも、高い総合力、底力を備えた馬にアドバンテージがあると思っています。
――では、今年の出走メンバーをご覧になっての率直な印象を聞かせてください。
大西 安田記念は1993年から外国馬にも門戸が開放されました。それによって、メインシーズンにある欧米からの遠征は見込めないものの、ドバイや香港からは強豪が来日するケースが多々見受けられるようになりました。昨年も香港からロマンチックウォリアーが参戦し、史上4頭目の外国馬制覇を遂げました。
しかし今年は、残念ながら外国馬の出走はなし。絶対的な存在がいないため、どの馬にもチャンスがある大混戦、といったイメージですね。ひと筋縄ではいかない、波乱の結末もあるのではないでしょうか。
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――先ほど、この一戦でのポイントに挙げられた「高い総合力」「底力」という点においては、1番人気が予想されるソウルラッシュ(牡7歳)が当てはまるような気がします。
大西 昨年のレースでコンマ1秒差の3着。昨秋のGIマイルCS(11月17日/京都・芝1600m)で戴冠を遂げたあと、この春には海外GIのドバイターフ(4月5日/メイダン・芝1800m)でロマンチックウォリアーとの一騎打ちを制して、見事にリベンジを果たしました。7歳馬とは思えないほどの充実ぶりです。
今回は今季3戦目と、ローテも理想的。浜中俊騎手とは久しぶりにコンビを組むことになりますが、大崩れは考えにくいと思います。
――このソウルラッシュを脅かす存在、伏兵候補として食指が動く馬はいますか。
大西 前走のGIII東京新聞杯(2月9日/東京・芝1600m)で重賞初制覇を飾ったウォーターリヒト(牡4歳)が面白そう。
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もともと管理していた河内洋厩舎の定年解散に伴って、3月からは石橋守厩舎の所属に。休み明けのうえ、転厩初戦ゆえ、条件的には決していいとは言えないのですが、最も一発の魅力を感じるのはこの馬です。
――推しのポイントを詳しく教えてください。
大西 3歳春は河内厩舎の定年前ラストシーズンということで、押せ押せのローテで使われてきました。そのなかで、GI皐月賞(中山・芝2000m)は16着、GINHKマイルC(東京・芝1600m)も8着と振るいませんでしたが、夏場はじっくりと休養。おかげで、昨秋からは別馬のような成長を遂げました。
昨秋のリステッド競走・キャピタルS(11月23日/東京・芝1600m)では、今回も出走するトロヴァトーレ(牡4歳)、レッドモンレーヴ(牡6歳)らを鮮やかな差しきり勝ちで一蹴。続く今年初戦、GIII京都金杯(1月5日/中京・芝1600m)では内から最高のさばきを見せたサクラトゥジュール(せん8歳)には及びませんでしたが、大外8枠16番発走から直線で強襲し、勝ちに等しい2着。近走の内容は充実一途です。
以前は、ちょこちょことこぢんまりとしたフォームで走っていた馬が、今では体を大きく使って実にダイナミックな走りを披露しています。東京の芝コースも、徐々に外差しが利きそうな見立てもあって、総合力で勝る本命サイドを打ち負かすとすれば、直線での爆発的な決め脚を秘める差し・追い込みタイプと見ます。
ということで、4歳馬で十分な上がり目も見込めるウォーターリヒトを安田記念の「ヒモ穴」に指名したいと思います。