ジャンタルマンタル
写真/橋本健 8日、東京競馬場では上半期のマイル王を決める安田記念が行われる。
今年はG1馬5頭を含む18頭が集結。週末は雨の予想もなく、良馬場での開催が濃厚だ。果たして混戦を断つのはどの馬か。
日本ダービーに続き、東京大学「東大ホースメンクラブ」出身の鈴木ユウヤ氏にレースの見解を聞いた。
(取材・構成=中川大河、取材日=6月6日)
◆シックスペンスは危険な人気馬!?
——まず東京の芝1600mですが、スピードと瞬発力が問われるコースというイメージですが。
鈴木:そうですね。上がり3ハロンの切れ味が問われるコースで、安田記念は近年、レース上がりが33秒台の決着になることが多いです。
——今年のメンバーを見渡すとスロー必至です。前に行った馬の方が有利というイメージがあります。
鈴木:いえ、このレースに関しては、スローでも前有利にはならないことがほとんど。32秒台の末脚を駆使して中団後方から突っ込んでくる馬もいて、「スローだから前が残る」という単純な図式にならないのが安田記念だと思っています。
——そうなると、末脚自慢のソウルラッシュやシックスペンスあたりにチャンスがありそうですね。
鈴木:実は上位人気が予想される馬の中で、シックスペンスが最も危険な馬だと思っています。これまで勝ったレースは展開に恵まれたことが多く、毎日王冠はスローで前残り。中山記念も開幕週の内有利な馬場で最内からロスのない競馬でした。C.ルメール騎手に手が戻りますが、前走の横山武史騎手も決して悪い騎乗はしていません。そこが大きなプラス材料とは思いませんね。
——たしかに過去2度の敗戦はどちらもG1。私もこの馬にはG1の壁があると思っています。ソウルラッシュはどうですか?
鈴木:今年のメンバーの中では、ソウルラッシュが実績的に抜けた存在ですよね。7歳ですが充実一途で、前走はロマンチックウォリアーに勝っていますし、中間の動きも抜群でした。
◆最有力?ソウルラッシュの不安要素は
——逆にそれが罠になる気もしているんですよね。
鈴木:たしかに追い切りが動きすぎていた部分もありますが、海外帰りでも疲れはなさそう。ただ、懸念されるのが、上がりの競馬になった時ですね。
——スローよりはハイペースが理想ということですか。
鈴木:ソウルラッシュは国内のマイル戦に限ると、レースの上がりが34.3秒以下の時は【0-3-2-3】。これに対して同34.4秒以上の時は【7-0-0-0】と負けていません。今回は道悪にでもならない限り33秒台はまず間違いないので、馬の力は抜けていても勝ち切るまではどうかという見立てです。ただ、外枠を引けたのは良かったですね。早めにエンジンをかけたい馬なので、内枠だと余計に難しいと思っていましたから。
——浜中俊騎手を久々に乗せてきたということもあって応援したい1頭ですが、どちらにしても瞬発力が問われる東京コースはベストではないということですね。
鈴木:そうですね。ベストなコースではないです。昨年同様に能力でカバーしてしまう可能性はありますが。
◆休み明け“4歳最強マイラー”の状態は
——では、休み明けのジャンタルマンタルはどうでしょう。前走の香港マイルは13着に惨敗しました。
鈴木:この馬は昨年秋に富士Sから始動予定でしたが熱発で回避。マイルCSを使わなかったあたり、おそらくすぐ使える状態ではなかったのでしょう。香港マイルに参戦したのですが、やはり体調が整っていなかったのだと思います。なので、前走は度外視が可能。今回も休み明けになりますが、1週前追い切りの時計は良かったです。4歳世代の中では最強マイラーだと思っているので、状態に問題がなければ頭(1着)も十分あり得ます。
——たしかに国内では安定感抜群ですね。
鈴木:昨年の皐月賞はハイペースを先行して3着でしたし、NHKマイルCもアスコリピチェーノに不利があったとはいえ2馬身半差を付ける完勝ですからね。良くも悪くも立て直せているか次第で、期待の反面、凡走する可能性も頭の片隅には入れています。
——ここまで名前が挙がった3頭(シックスペンス、ソウルラッシュ、ジャンタルマンタル)が、3強を形成しそうです。
鈴木:オッズ的にはどうでしょう。ソウルラッシュがやや抜けた1番人気になると思っていますが、もし2〜3番人気になるようなら、無理に嫌わず軸でいいかもしれません。
◆穴候補筆頭は末脚魅力の4歳馬
——たしかに上位人気がどういうオッズを示すか読みづらいレースですよね。3強以外に気になる馬は?
鈴木:次に名前を挙げたいのはウォーターリヒトですね。3歳春まではG3級の馬でしたが、去年の秋からメキメキ頭角を現して、近4走はすべて上がり最速をマークしています。東京新聞杯も内前有利な展開に逆らって、見事な大外一気を決めました。
——いかにも東京コースで走りそう。
鈴木:東京の重賞を上がり33.2秒以下で勝ったことがある馬は、安田記念で好成績を残しているのですが、ウォーターリヒトもこの条件を満たしています。他にジュンブロッサムやブレイディヴェーグなども該当していますが、やはりオッズを見て取捨選択したいところですね。
◆昨年4着馬にもチャンスあり!?
——穴党として個人的に気になっているのが、昨年の4着馬ガイアフォースです。
鈴木:ガイアフォースは、ワンペースの馬なのでペースが上がれば浮上の余地があると思います。データ的にも前年4着以内の馬は過去10年で【2-7-3-7】(複勝率63.2%、単回収率104%、複回収率146%)と妙味も十分。
——香港帰りで疲れが残っていなければ買いたいですね。
鈴木:まさにその通りで、ローテーションと状態面が気になりますが、それを差し引いても人気薄なら魅力のある馬だと思いますよ。
——ガイアフォースを含めて7頭の名前が挙がりました。この中から2頭を選んでワイド1点勝負ですね。
鈴木:シックスペンス以外の6頭の中から選びたいですね。ソウルラッシュとジャンタルマンタルの組み合わせならオッズ次第で馬連かもしれませんが、いずれにしても1点勝負を貫きます。
——私は浜中騎手を応援する気持ちも込めてソウルラッシュとガイアフォースのワイド1点で今年の負けを帳消しにするつもりです(笑)。
鈴木:私はオッズと土曜競馬の馬場状態を見てから、いつも通り土曜の夜には最終結論を出したいと思っています。
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ソウルラッシュは実績が頭ひとつ抜けているとはいえ、7歳という年齢がやはり気になるところ。百戦錬磨のベテランがその実力を遺憾なく発揮するのか、それとも“強い4歳世代”が世代交代を告げるのか。注目の安田記念は6月8日、15時40分に発走予定だ。
【鈴木ユウヤ氏 プロフィール】
東京大学卒。編集者を経てライターとして独立。中央競馬と南関東競馬をとことん楽しむために日夜研究し、Xやブログ『競馬ナイト』で発信している。好きな馬はショウナンマイティとヒガシウィルウィン。
【中川大河】
競馬歴30年以上の競馬ライター。競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。競馬情報サイト「GJ」にて、過去に400本ほどの記事を執筆。