
【写真】撮影に使用した“人形&セット”がいたるところに! 制作現場ショット(53枚)
■影響を受けたSF作品の数々
――前作『JUNK HEAD』は多くの賞賛を集めましたが、特に嬉しかった反応は?
堀監督:まず、ギレルモ・デル・トロ監督に僕の名前を呼んでもらえたことですね。『マッドゴッド』(2021)のフィル・ティペット監督とは対談もして。方向性はちょっと違うけど「僕らは同じ卵から生まれた」なんて言ってもらえた。ゲームデザイナーの小島秀夫さん、画家のヒグチユウコさんに熱烈に応援して頂けたのも嬉しかったです。
――前作の成功で大きく変わった点は?
堀監督:自信がつきました。この映画は最初から3部作構想でしたが、本当に出来るのか自分でも半信半疑で。1作目の『JUNK HEAD』が公開された2021年はコロナの真っ最中。興行も思ったようにいかず、配信で一気に評価されて、今回ようやくビジネスとしても成果も出せる段階になったのかな、と。
――本作『JUNK WORLD』は思い描いていた通りの仕上がりになりましたか?
堀監督:いやぁ、全然(笑)。創作は妥協の連続ですが、元々「この予算で望み通りの世界観を創るのは不可能」というのが出発点なので、あとはどこまで頑張れるか。試写で何度か観ましたが、色々と気になって。可能なら撮り直したいです(笑)。
――独自の世界観を示した前作『JUNK HEAD』に対し、『JUNK WORLD』は物語面を掘り下げた印象ですね。
堀監督:最初は30分の短編を10本作る構想からスタートしたんです。『JUNK HEAD』はその短編を膨らませて長編化したので、構成面にやや無理があった。一方、今回は始めから長編映画としての企画で。ただ、『JUNK HEAD』は2017年に完成後、お蔵入り状態の時期が4年くらいあって。その時点で「続編」を作っても意味がない。それなら前日譚にして、仮に『JUNK HEAD』が世に出なくても2本目を単独で観てもらえるように考えたんです。
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堀監督:昔から言っているのは『不思議惑星キン・ザ・ザ』(1986)です。あとは『エイリアン』(1979)。『猿の惑星』(1968)シリーズにも無意識に影響を受けているかも。ただ、SF系の作品は世界観を定着させるのに時間を使ってしまうことが多い。映画としては人間ドラマを描く『バグダッド・カフェ』(1987)や『ショーシャンクの空に』(1994)、邦画なら『仁義なき戦い』(1973)が好き。僕自身が目指すのも、視覚的に楽しいだけではなく、キャラクターの心情を感じられる映画です。
――何度も観返す「神映画」はありますか?
堀監督:たまに観返すのは『スカーフェイス』(1983)。「成りあがる」アツい感じが好きで、作業に立ち向かう活力になっているかも。絵作りの参考に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)も観ました。普段、監督名はあまり意識しませんが、最近注目しているのはアリ・アスター。それから『第9地区』(2009)のニール・ブロムカンプにも期待しています。
■異国インドで得た「悟り」
――今回の『JUNK WORLD』では登場人物の「姿」がどんどん変わったり、時間を思い切り描き飛ばす感覚が神の目線っぽくて面白かったです。監督は若い頃にインドに旅行されていますが、そこで「悟り」的な感覚を得た……なんてことはありますか?
堀監督:インドには20代の頃、半年ほど滞在しましたが、死体が普通に町中に転がっていて、橋を渡ったら何体も積み重なっている。そんな光景も見ました。そこで旅行者が置いていった「葉隠」ってボロボロの古本を買ったんですよ。昔の武士の心得を書いた本で、すごい衝撃を受けた。しかも、その時に居た場所が「釈迦が悟りを開いた」ブッダガヤで。ある晩、「俺は50歳で死ぬ」と決めたんです。「それを踏まえてこれからは生きよう」と。『JUNK WORLD』の主題は「生と死」でもあるし、インドでの体験は少なくとも僕の常識を変えましたね。
――『JUNK WORLD』に登場する変異生物は、『遊星からの物体X』(1982)のようにユニークかつ、グロいですが、同時に進化する生命力のたくましさを感じます。
堀監督:あの世界全体が持つ「生き延びる力」ですね。個々の努力が全体を引き上げるし、小さな死があっても、それをずっと悲しんではいられない。そんな世界観を描いています。
――監督はずっとご自身の作品に対する評価と対価を見極めながら、絵画、人形、立体物造形、内装を手掛け、さまざまな経験を積んで映画を撮られました。ちょうど『JUNK WORLD』同様、長い時が巡ってひとつの成果が結実する、そんな感じがします。
堀監督:僕は人付き合いが苦手で、絵も仕事も人に聞くのが嫌で、万事独学で試行錯誤するスタイルでした。人との関わり方や感情表現を教えてくれたのも、案外映画だったかもしれません。
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――映画作りの過程で一番楽しく、逆に一番辛いのはどの部分ですか?
堀監督:『JUNK HEAD』は脚本を書かず、いきなり絵コンテを描いたんですが、今回はそれなりにシナリオを煮詰めてから絵コンテを作成した。そこまでが一番しんどかったです。僕にとってはそれで映画が9割出来たも同然なので。大変な作業こそ、後になると懐かしいので、そこが一番楽しいかな。辛いのは作業を終えても、まだ作業をしている夢を見ること。しかも、絶対に望み通りにならない。まさに悪夢です。
――今回は絵コンテの段階で栃木県の宿坊にこもり、1週間断食されたそうですが、作業に入る際に何か儀式的なことをしますか?
堀監督:セットに入る前におじぎするとか……そういうのはないですね(笑)。宿坊はダイエットも兼ねて、もう少し軽い気分で。ただ、自分の体の中身を出し切ると、感覚が鋭敏になる。普段、毒にまみれた生活をしているので、シンプルなお米だけの食事が本当に美味しくなる。暫くは酒も呑まない。綺麗な体を汚したくない、って感覚が生まれるので。自分をリセットする意味で、たまにやってみるのもいいと思います。
――YouTubeの『JUNK WORLD』メイキング動画にセットが雨漏りした映像がありましたが、製作中、他にも「これは参った」という瞬間はありましたか。
堀監督:工房の水道管が抜けて、1階がくるぶしまで水没したんです。まぁ、配管は自分がやったので、誰も責められないんだけど(笑)。僕の工房も壁を叩けば錆が落ちてくるし、もうギリギリです。次は都内寄りの物件に移りたい。スタッフさんを募集しやすいし。
――作業が分業体制になっても、ここは譲れないという箇所はありますか?
堀監督:基本、人形の動きは僕らが自演して、録画した映像をアニメーターがトレースする。ただ、自演が不可能な大きな跳躍や、殴られて吹っ飛ぶショットは想像力が必要な作業なので、そこは僕がやりました。僕が描いたイラストを3D化するモデリングもスタッフに頼むのですが、感覚が似ている人に任せるのが重要で。ちょっと違うな、って箇所は何度も修正することになるので。
――3部作の最終章『JUNK END』の結末はもう決まっていますか?
堀監督:おおまかには固まっています。当初から考えていた設定と、後づけで思いついたアイデアがあり、『JUNK WORLD』の結末を受けた物語になります。
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堀監督:僕のイメージに沿って、SFやジャンル系の要素を入れ込み、実写とコマ撮りを交えた作品を2本、考えていて。他にも企画はいっぱいあるんですよ。僕はアニメには固執しておらず、特撮にも強い興味があるわけじゃない。コマ撮りの技法を使えば、数百億円の予算になるSF物語をコスパ良く、人力で説得力のある映像に出来そうだと感じただけで。
――実写となると、監督がコントロールできる分量が変わりますよね。
堀監督:人形は指1本まで演技をつけられるけど、実写ならコンテ通りに役者が演じるとは限らない。でも、生身の役者さんは想像以上の動きをしてくれる可能性もあり、どちらもいいところがあります。ストップモーション作品でも従来とは違う、僕なりのやり方や世界観を示して、自分の映画を新しいジャンルとして確立したいんですよ。
――「ものづくりは批判することから始まる」と以前、監督は仰っていましたが、ゼロからではなく、ストックを組み合わせて創造するAIのような表現をどう思いますか?
堀監督:便利でいいです(笑)。逆に、完璧な絵を作るため、もっと人間が努力してもいい。昔、僕が粘土を捏ねて作っていた物が、今ならパソコン上で創作できるし、水や油で溶いて塗った絵がタブレットでサ〜っと描ける。創作を「AIに盗まれる」なんて言うけど、その創作自体が既にチートじゃないか、と。どっちみち、クリエイトという概念は近々なくなるんじゃないかな。今やるべきは、とにかく突き抜けること。人間がひねり出す創作の面白さを求める部分はまだまだ続く。僕は、その部分での競争になると思っています。
(取材・文:山崎圭司 写真:高野広美)
映画『JUNK WORLD』は、6月13日より全国公開。