「旅行には行きたいけど、どこに行きたいのかは決めかねている」という人は珍しくない。Xに5月下旬に投稿された、中島悠里さん(@jimapahinasu)がドイツに行った時の出来事や思い出をユニークにまとめた旅行記『冬の南ドイツでクリスマスマーケットを満喫する話』を読むと、ドイツを旅行先の第一候補にしたくなる。
参考:【エッセイ漫画】『冬の南ドイツでクリスマスマーケットを満喫する話』を読む
普段はWeb記事や紙面のイラストを描いたり、商品説明の漫画を描いたりと、マルチに活動している中島さんに、本作がどのようにして制作されたのかなど話を聞いた。(望月悠木)
◼︎旅行記を描き始めたわけ
――なぜ『冬の南ドイツでクリスマスマーケットを満喫する話』を制作したのですか?
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中島:海外の航空会社がめちゃくちゃ格安のセールをしていて、「せっかくこの安さなら、なるべく遠い所に行ってみよう」と考え、ミュンヘンに行くことを決めました。それまではpixivに日常系の4コマ漫画を投稿していたのですが、「日常漫画だけでなく旅行記も描いてみようかな?」と思ったんです。とはいえ、自分の中で4コマ漫画と旅行記の相性が悪すぎて途中で飽きてしまいました。
――途中で断念したのですね。
中島:はい。ただ、ちょっとずつデジタル作画に慣れ、コマ割りの漫画に挑戦してスピードを上げて描けるようになりました。その後、ウズベキスタン旅行記や、学生時代に訪れたバヌアツの旅行記を本にしたことをきっかけに、「今なら背景がややこしいドイツの本も描けるかな」と思って挑戦しました。
――ちなみに、旅行が決まった時点で「旅先の体験を漫画にしよう」と決めていたのですか?
中島:あまり「旅行記にしよう」と気負うと旅先で楽しめなくなってしまうので、旅行プランは自分が行きたい場所や体験を優先してプランを組み立てています。その結果、「自分的に面白いことが起きて、1冊の本にして他の人にも読んでもらいたいな」と思うような旅になれば本にします。ドイツ旅行に挑戦するにあたってフルマラソンに挑戦したり、帰りの便でトラブルがあったりなどいろいろあったので、「帰国したら、これは1冊にまとめたいな」と思って漫画に描きました。
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――旅行中のいろいろな出来事はメモして、それを頼りに作成したのですか?
中島:どこで何を食べたか、何を買ったか、というのは後で写真を見返して思い出せます。ただ、「その時どんな気持ちでいたのか」「旅先のどんな人と会って何を話したのか」ということは帰国して落ち着いてしまうと忘れてしまうので、なるべく旅行先で持ち込んだ折り畳みキーボードを使い、その日の夜にスマホの日記アプリに残すようにしています。
◼︎ユーモアと情報のバランス
――レポート漫画ではありますが、情報だけではなくユーモアも散りばめられており、楽しく読める内容でしたね。
中島:レストランや宿情報、観光名所の情報などはガイドブックで知ることができます。情報を描く場合はガイドブックよりも漫画でより伝わりやすく、それでいて「自分が実際に行ってみてどういう空気感で、どういう気持ちになったのか」を優先して描くようにしています。ただ、それも連続して続くと説教臭くなるし、物語もダレるので、何回も読み返して面白い物語になるようにユーモアを合間合間に挟むようにしています。
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――ユーモアと情報のバランスはどのように意識していますか?
中島:自分でもよくわからないです。いつもウンウンうなりながら描いているので……。「テンポよく、笑いも挟みつつ、かといって勢いだけになって情報が薄くならない内容にすること」を目指して描いています。
――体験した出来事を読者に楽しく伝えるために、どのような工夫をしていますか?
中島:旅行記を描く時、どうしても説明の文章が多くなりやすく、そうするとテンポが悪くなります。なるべく説明文を描かず、絵と間合いとセリフで表現できるようにしています。また、「1日の物語の中に大きなエピソードは3つぐらいまで」と決め、不必要なエピソードは削り、その残したエピソードを膨らませて面白くするようにしています。
――先ほど「今なら背景がややこしいドイツの本も描けるかな」という話もありましたが、作画が大変そうなページが多かったです。特に8ページ目のマリエン広場の作画は大変そうでした。
中島:作画が大変すぎて撮った写真をそのまま載せることも考えました。ただ、私の絵が比較的シンプルなので、写真をそのまま載せたり加工したりすると絵柄から浮いてしまうため、嫌々描きました。夜の明かりのシーンだったので、「光がふんわりしている様子をモノクロでどう表現するか」という点に苦戦し、トーンを削ったり塗ったりしながら悪戦苦闘して描きました。その結果、めちゃくちゃデータが重くなりました。
――また、作画からはクリスマスマーケットの楽しげな雰囲気が伝わってきました。陽気な雰囲気を演出するうえで作画で意識したことは?
中島:私は人物の動きや表情を描くのが好きなので、「“自分の動きや表情でクリスマスマーケットを楽しんでいるんだな”ということが表現できれば」と思って描きました。
――今後はどのように漫画制作を展開していく予定ですか?
中島:とりあえず11月16日開催の「COMIC CITY SPARK 20 -day2」や「コミティア」などの即売会に向け、ポルトガルに行った旅行記を完成できればと思い、今制作に取りかかっています。旅行記だけではなく、しばらく上げられていなかった「何かをオススメしたり、これにハマっていますよ」とお伝えする漫画も描ければと思っています。また、苦手なオリジナルのストーリー漫画にも挑戦して、自分の描ける幅を広げたいと思っているので、Xやpixivなどでチェックして応援してもらえれば嬉しいです。
(文・取材=望月悠木)
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