
── 堀越啓太は長いイニングを投げられるのか?
それは、2025年ドラフト戦線を左右するトピックだった。
【開幕後の起用に見る異変】
堀越は花咲徳栄(埼玉)を経て、東北福祉大4年になる速球派右腕だ。身長184センチ、体重96キロと重厚な肉体を鍛え上げてきた。茨城県のトレーニング施設での投球練習では164キロを計測し、SNS上で大きな話題になっている。実戦での最速は157キロだが、その強力なエンジンは2025年のドラフト候補のなかでも群を抜いている。
堀越は大学1年春からリーグ戦マウンドを経験し、リリーフ中心に起用されてきた。東北福祉大にはエース右腕の櫻井頼之介(よりのすけ)ら、先発型の好投手がひしめくチーム事情もある。
だが、ドラフト会議で重複1位指名されるような投手は、先発タイプがほとんど。堀越が2025年ドラフトで投手として最上位の評価を勝ち取れるかは、長いイニングを投げられるかにかかっている。
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今春のリーグ戦開幕前から、堀越は先発への強い思いを語り、オープン戦では先発投手として起用されてきた。ところが、いざ仙台六大学春季リーグ戦が開幕すると、堀越の起用はリリーフとして3試合、3イニングのみ。やはり、長いイニングを投げることは難しかったのだろうか。そんな疑問を抱きながら、5月24日から東北福祉大学野球場で行なわれるリーグ戦最終節(仙台大戦)に向かった。
試合前のキャッチボールを見た時点で、堀越のある変化に気がついた。右腕を振る位置が下がっていたのだ。
もともとスリークォーターだった堀越だが、見るたびに腕を振るアングルが高くなっていく印象があった。昨年12月の大学日本代表候補強化合宿に参加した際には、右腕を縦に振り下ろすスタイルに変わっていた。それに伴い、ストレートのスピンは効き、縦の変化球が生きるようになった。
だが、今春の堀越はアングルがスリークォーターに戻っていた。試合前にバレーボールを投げる、独特のルーティンもやらなくなっている。ちなみに、バレーボール投げは、堀越が高校3年時に球速が大幅に向上する要因になった練習法。体全体を使って投げる感覚を染み込ませたことで、爆発的な出力を手に入れたのだ。
この時点で、堀越に何かが起きていることは想像できた。
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【3回途中3失点降板】
東北福祉大が先勝して迎えた5月25日の仙台大2回戦、試合前からバックネット裏がざわついた。堀越の先発起用が発表されたためだ。全国から集まったプロスカウト陣は、試合前のブルペン投球から堀越の一挙手一投足に熱視線を送っていた。
しかし、結論から言えば、堀越の先発登板は苦い結果に終わった。
1回裏、簡単に二死を奪ってから試練が待っていた。仙台大の3番・石川太陽(2年)の放った力ないゴロが、安打になる不運。その直後、4番・今北孝晟(2年)に投じた125キロのスライダーが高めに浮いた。右翼スタンドに放り込まれ、堀越はいきなり2点を失ってしまう。
さらに3回裏には一死一、二塁のピンチで石川に甘く入ったストレートをとらえられ、左翼越えの適時二塁打を浴びる。ここで東北福祉大の山路哲生監督がベンチを出て、堀越の交代を球審に告げた。
2回1/3を投げ、被安打4、奪三振3、与四球1、失点3。最高球速は152キロ。堀越の先発マウンドは、わずか43球で終わった。
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しかし、後続の投手陣や打線が奮起し、東北福祉大は逆転に成功。5対3で仙台大を破り、3季ぶりのリーグ優勝を果たした。
試合後、山路監督は堀越を先発起用するまでの経緯を語った。そこで意外な事実が明かされる。
「春から先発をやるためにずっとやってきたんですけど、シーズン中は肩に違和感があるということで、投げられなかったんです。オープン戦で状態が上がっていたので、昨日仙台大に勝った時点で堀越の先発を決めていました」
じつはリーグ戦開幕2戦目(4月13日・東北工業大戦)で、堀越は先発登板する予定だった。ところが、堀越が右肩の違和感を訴えたため、登板を回避。復帰後も大事をとって、ショートイニングでの登板に留めていたのだ。
山路監督は堀越に対して「ボール自体は悪くなかった」と評価しつつも、こんな苦言を呈している。
「同期の櫻井が昨日いいピッチングをしたので、堀越も鼻息が荒くてボールが高くなっていました。そこは今後の課題ですね」
堀越が先発として長いイニングを投げるには、どんな要素が必要になってくるか。そう尋ねると、山路監督は少し考えてからこう答えた。
「投げるスタミナは十分にあると思います。オープン戦では志願して160球くらい投げた試合もあるくらいですから。ただ、もう少し低めに丁寧に投げなければいけないですね。『櫻井を見習え』と言いたいです」
今後の堀越の起用方針を尋ねると、山路監督は「(大学選手権までに)オープン戦もあるので、もう一度見てから決めたいです。ほかにも先発をさせたいと考えているピッチャーはいますから」と答えた。
【腕の位置を元に戻した理由】
試合後、うれし泣きした堀越は、報道陣の前に姿を現すなり「はぁ......、よかったです」と安堵の表情を見せた。
「今日はカウントを悪くしたあとの甘く浮いたボールを完璧にとらえられてしまいました。調子自体は悪くなかったです」
肩の状態について聞くと、堀越は「だいぶ戻ってきました」と笑顔を見せた。
「シーズン前の関東遠征から戻ってから、オープン戦で連投したところ疲労が抜けづらくなってしまって。それで(開幕)2戦目の先発を辞退させてもらいました」
投球アングルを元に戻したように見えた点について尋ねると、堀越は「はい、戻しました」と認めた。
「肩に疲労がきていたので、2週間くらいかけて修正しました。右腕が上がったことで、少し肩のラインから外れて出てくるようになって、肩に負担がかかりやすくなったのだと思います。昨年の仙台大戦では縦のスピンの効いたストレートのいいイメージがつきすぎて、縦の変化球を落としたい意識が強くなりすぎたせいだとも思います」
ルーティンだったバレーボール投げをやらなくなった理由も、右肩の疲労を考慮してのことだった。ただし、「感覚は入れておきたいので、今も週に1〜2回ペースでバレーボールを投げています」と堀越は語った。
今後は肩をケアしつつ縦に振り下ろす形に戻すのか、それともスリークォーターのまま勝負するのか。そう尋ねると、堀越は即答した。
「バッターから見た怖さは、腕が低いほうがあると思います。タイプ的にまとまりすぎないほうがいいのかなと。(アングルが)上がりすぎず、下げすぎず。今がちょうどいいのかなと感じます」
腕を振る角度こそ変わっても、縦の変化球に対する自信は揺らいでいない。堀越は1回表に仙台大のドラフト候補・平川蓮から空振り三振を奪ったシーンについて言及した。
「この冬に縦変化を磨いてきて、平川からフォークで三振をとれたのは、自分自身で成長を感じとれました。腕の振りが変わっても、フォークは関係なく落ちています」
今後、先発投手として長いイニングを投げるには、何が必要になってくると思うか。堀越に尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「自分は(ストライク)ゾーンで勝負するピッチャーなので、それぞれの変化球でゾーンに投げ込めるかがカギになってくると思います。スライダー、カットボールでもボールに強さを出して、ゾーンで勝負していきたいです」
ブルペンでの投球練習を見る限り、剛速球の軌道から小さく横滑りするカットボールに、強烈な印象を覚えた。そんな感想を伝えると、堀越は「最近、カットの感覚がよくなっているんです」と笑った。
「社会人とのオープン戦で投げても、バッターの反応がよかったので。ここにきて、精度が上がっていると感じています。今日は1球しか投げていないんですけど、もっと投げればよかったですね」
6月10日には、大学選手権で九州産業大との初戦(神宮球場)を迎える。よほどのことがない限り、東北福祉大の先発投手はエースの櫻井だろう。だが、堀越が今年のドラフト戦線における重要人物であることに変わりはない。
堀越啓太が長いイニングを投げる「新たな顔」を見せたその時。ドラフト戦線は音を立てて動き始める。