中受の定番フレーズ「受かったけど行かない」 精いっぱいの嘘に込められた12歳の心の傷

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2025年06月08日 16:40  まいどなニュース

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地元の中学に行っている…その前の一言が気になります

中学受験を終えた子どもたちの間では、「受かったけど行かない」「特待をとったけど辞退した」といった話が交わされることがあります。中には事実かどうか疑問を抱くような内容も含まれ、保護者の間で違和感を覚える声も聞かれます。二人の子どもの中学受験を経験したMさん(東京都・40代)も、そのひとりです。

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公立中高一貫校を目指す子どもたち

Mさんが暮らす地域には、都立の中高一貫校が複数あります。そのため、子どもが通う公立小学校では、私立ではなく公立中高一貫校を志望し、中学受験に臨む家庭が多く見られます。これらの学校では、国語や算数といった教科ではなく「適性検査」と呼ばれる独自の試験が行われ、読解力や論理的思考力、表現力などが求められます。そのため、多くの家庭では、公立受験専門の塾に通わせて対策を行っています。

公立中高一貫校の受験には、小学校から提出される「調査書」も大きく影響します。欠席日数のほか、児童会やクラブ活動、作文や図工のコンクールでの受賞歴など、あらゆる「実績」が点数となって合否に関わってきます。高学年になると、子どもたちは皆勤を目指して多少体調が悪くても登校したり、児童会や係活動の長に立候補したりと、まるで小学生の就職活動のように過ごすようになります。

それでも倍率は毎年非常に高く、合格できるのは学年で2〜3人ほど。ほとんどの子どもたちは不合格を経験し、それぞれの道を歩むことになります。

「本当に受かったの?」という違和感

Mさんが気になっていたのは、Bくんという存在でした。朝の登校時間にほとんど間に合わず、給食の時間になってようやく登校する日もありました。雨の日はほとんど休みがちで、年間の欠席日数も多め。休み時間に気分で帰宅することもあり、「受験組」とは距離のあるタイプに見えていました。それでも受験塾に通い、公立の中高一貫校を受験すると聞いていました。

中学受験シーズンが終わったある日、Mさんの息子がオンラインゲームをしていたところ、しばらく登校していなかったBくんがゲーム内に現れたそうです。雑談の中で「そういえばBくん、受験どうだったの?」と尋ねたところ、Bくんは「都立H校に受かったけど、地元の中学に行くことにした」と答えたといいます。都立H校は非常に高倍率で進学実績も高く、難関校として知られています。Mさんの息子が通う小学校からは、今年は男女あわせて3人が合格したと聞いていましたが、その中にBくんの名前は含まれていませんでした。

もちろん、家庭の事情で進学先を変えることもあります。ただ、Bくんの出席状況やこれまでの言動を思い返すと、Mさんには少しだけ違和感が残りました。

「合格してたけど、行かない」は定番フレーズ?

中学受験後には、こうした「合格の物語」が少なからず耳に入ってきます。

ある子は、「A中に特待で受かったけど、雰囲気が合わなくてC中にした」と話していました。受験経験のある保護者たちの間では、「A中には特待制度はなかったはず」「C中はA中に比べて偏差値もかなり低い。A中に受かったなら普通は行くのでは?」といった声があがっていました。

また別の子は、「D中に合格したけど、入学金を期限までに納め忘れてE中に行くことになった」と話していたそうです。最難関のD中は誰もが憧れる学校です。入学金を納め忘れるというのは、保護者の立場から見ると現実的ではなく、意図的にそう話しているのではと感じる部分もあったといいます。

合格したけど、あえていかなかったわけ 

こうした話に共通するのは、「合格はしたけれど、別の理由で進学しなかった」という語り方です。「不合格だったから行けなかった」のではなく、「行こうと思えば行けたけれど、あえて自分の意思で行かなかった」というかたちにすることで、自分を守ろうとしているのかもしれません。

中学受験は、12歳の子どもたちにとって大きな挑戦です。努力した結果が合否という形で突きつけられ、納得できない結果に終わったとき、自分なりの物語を作ってしまうのは、自然な心の働きなのかもしれません。それは見栄やプライドだけでなく、自尊心を守るための防衛本能ともいえるでしょう。

小さな嘘の奥にある気持ちを想像する

Mさんの子どもも、第一志望の私立中学校には届かず、第三志望として受験した中学校に進学することになりました。悔しさを抱えつつも現実をきちんと受け入れ、今では新しい中学校生活を前向きに楽しんでいます。ただ、周囲から聞こえてくる“謎の合格エピソード”には、やはり複雑な気持ちになることもあるようです。

けれど、こうした小さな嘘の奥には、「頑張ったけれど報われなかった」「認めてほしかった」「悔しかった」といった、子どもたちの切実な気持ちがあるのだと思います。

中学受験という小さなドラマの終わりに、子どもたちが語る「物語」。たとえそれが事実と違っていたとしても、その言葉の奥にある気持ちを受け止めることで、大人にできる優しさがあるとMさんは感じています。

(まいどなニュース特約・松波 穂乃圭)

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このニュースに関するつぶやき

  • 都市圏の事情はよくわからない。こちらは中学受験するとしても地元国立大附属の中学ぐらいしかないし、入っても3/4が小学校からのエスカレーターだから、その輪に入るの容易でないのよ。
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