
風間八宏のサッカー深堀りSTYLE
独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、世界のサッカーシーンで飛躍している選手のプレーを分析。今回はリーグアンで今季11ゴールを挙げ、日本代表でもゴールを決め続けている中村敬斗。その理由を風間氏は「日本の選手のなかでは珍しい特長を持っている」からだという。
【シュートのためのテクニックを持っている】
2023年3月24日のウルグアイ戦で代表デビューを飾って以来、これまで16試合に出場して8ゴールをマークしている中村敬斗は、2試合に1ゴールのハイペースでゴールを量産する、日本屈指の点取り屋だ。
今シーズンは、所属のスタッド・ランス(フランス)でもブレイクを果たし、5試合連続ゴールを含む計11ゴールをマーク。主戦場は左ウイングだが、数字だけで見れば完全なストライカーと言っていい。
まさに成長の真っ只中にある中村は、なぜこれほどゴールを量産できるのか。現在南葛SCで監督を務めながら解説者としても活躍する風間八宏氏に、中村のプレーの特長についてうかがった。
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最初に解説してくれたのは、中村の真骨頂とも言えるシュート技術についてだ。
「明らかなのは、中村はシュートのためのテクニックを持っている選手だということ。
シュートはGKの届かない場所に、GKが止められないタイミングで撃つことがポイントになりますが、中村はフルパワーでシュートするというより、四隅を中心にしっかりとコースを狙ってシュートしているのがひとつ。
そこで重要になるのが、シュートコースを瞬時に見つけられるかどうかということですが、中村はそれを見つける目を持っていて、しかも狙ったコースに正確にシュートするテクニックもある。だから、いとも簡単にゴールを決めているように見えるのだと思います。
中村のシュートシーンを見るとわかると思いますが、シュートする時はしっかりボールを見てキックしています。それは、すでに自分が狙うシュートコースを見つけているからで、それさえ見つけてしまえば、あとはボールをミートすることに集中できるからです。
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もうひとつは、ボールを受ける、止めるといった技術もしっかりしているので、いつでも自分がシュートできる場所にボールが置けている。もちろんシュートミスする時はそこにズレがあるからで、その正確性、確率の高さという部分でも長けていると思います。
ただ、話を聞くだけだと簡単に感じるかもしれませんが、こういったシュートのテクニックを身につけるのは決して簡単ではありません。そういう意味では、中村は日本の選手のなかでは珍しい特長を持った選手だと思います」
確かに、日本のストライカーのなかにも、シュートをする時に力んでしまい、シュートが枠の外に飛んでしまうシーンはよく見かける。もちろん中村も百発百中ではないが、それでもその精度は日本屈指と言えるだろう。
しかも風間氏が指摘したとおり、シュートする時の中村は落ち着いて見えるうえ、力任せにシュートするようなシーンもほとんどない。
【動きで仕掛けられるようになった】
続けて、中村のシュートテクニックを解説してくれた風間氏が、もうひとつの中村の特長について解説してくれた。
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「ゴールを決めるためにもうひとつ大事なのは、シュートまでの動きです。それが備わっていなければ、高いシュートテクニックがあっても宝の持ち腐れ。ゴールを量産することはできません。
そういう点で、中村はシュートまでの動きの質が高い。自分の動きだけで相手を振りきれて、相手の背後も取れて、ボールを扱いながらシュートまで持ち込む技術も備わっています。特に目立っているのは、ボールを持った時に、自分とボールが一緒に動いていること。そのなかで、自分のタイミングでシュートが撃てるのは、大きな武器だと思います。
確かに最初の頃は「サイドでボールを受けてからプレーを始める選手」という印象がありましたが、今シーズンの中村を見ていると、動きながらボールを受けることもできて、ボールを運ぶこともできて、さらに自分の動きだけで相手DFに仕掛けて背後をとることもできるようになったように見えます。だからこそ、相手にとって捕まえにくい選手になれたのだと思います。
そういう意味では、ボールを持ってから自力で運ぶことと、ボールをもらう前に相手の背後を取ったり自分にとって良い場所に相手を引っ張っていったりすることと、その両方の能力を備えた選手になったと言えます。それができるようになったから、ゴールに近い場所でボールがもらえて、得意のシュートに持ち込めているのだと思います。
動いて相手を外し、動きだけで相手に仕掛けられるかどうかはとても大事な要素で、ゴールを決めるうえでは欠かせない技術です。いくらシュートの技術が高くても、いつも相手の目の前でプレーしているだけでは、相手に止められてしまいますし、シュートに持ち込むこともできません」
【最前線より少し後ろでプレーするのが効果的】
気になるのは、これだけの得点力を備えた選手がサイドを主戦場としていることだ。理論的には、点取り屋はゴールに近い場所でプレーするのが最も効果的だと思われる。
「それは、どういったかたちでボールを受けてプレーするのが得意なのか、という点がポイントになると思います。それで言えば、中村は前を向いてボールをもらった時に自分の武器を使える選手だと思うので、もちろん2トップもできると思いますが、最前線よりも少し後ろで起用するのがベターかもしれません。しかも中村はスタミナもあって走れる選手なので、その走力も生かしたい。そのほうが相手は嫌でしょうね。
特に日本にはボールをもらってからプレーをスタートさせる選手は多くいますが、中村のように動きながらボールを受けてプレーするタイプは多くないと思います。その特長を最大限に生かすなら、サイドだとしても中央だとしても、最前線より少し後ろでプレーするのが最も効果的だと思います。
いずれにしても、中村は日本のなかでは稀有なタイプの貴重なFWであることは間違いありませんね」
まだまだ伸びしろを感じさせる中村は、これからどのような進化を遂げてくれるのか。ゴールハンターとしてのレベルアップも含め、今後がますます楽しみだ。
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