
猫と暮らしたい—そんな思いが動き出したのは、コロナ禍がきっかけでした。仕事中心の生活で出張も多く、猫を迎えるのは難しいと感じていたXユーザー・トルぽたさん(@tortepotage)夫婦でしたが、2021年に暮らしや心に少しずつ変化が訪れます。
「偶然見たある動画をきっかけに、『猫が家にいる暮らしっていいな』と思うようになりました。そこから夫婦で話し合い、迎える決意を固めたんです。ペット不可物件だったので、まずは引っ越しからスタートしました。ところが、ご縁を探し始めたものの、いくつか“覚悟を試されるような出来事”があって…そのたびに『まだタイミングじゃないんだ』と自分に言い聞かせながら、猫との暮らしについていろいろ学んでいきました」
やがて新居にも慣れ、仕事も落ち着いたある日、夫がスーパーの掲示板で見つけてきたのが、近隣のボランティア団体による譲渡会の告知でした。
「その日は2回目のワクチン接種の直後で、副反応が強くて寝込んでいたけれど、どうしても気になって、『熱が下がったら行こう』と決めてから眠ったんです。翌朝、平熱に戻り、なんとか会場へ向かいました。到着したのは、なんと終了時間ギリギリでした」
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そのとき元気よく出迎えてくれたのが、生後2カ月半ほどの男の子「トルテ」くん。まるで「この人のおうちがいい!」と選んでくれたかのような、特別な出会いだったといいます。
「なんと、トルテが私のバッグの中に、するすると入ってきて…本当にびっくりしました。迎えたいと思ってから1年以上が経っていましたが、譲渡会から5日後には、もう家の中でトルテが走り回っていました」
迎えるその前夜、起こったハプニングと“神様のプレゼント”
今では笑って話せるけれど――お迎え前日、忘れられない出来事がありました。ケージを組み立てていた夫が、なんと膝の靭帯を痛めてしまったのです。
「幸い手術は回避できたのですが、仕事をしばらく休むことになった夫は、とても痛いはずなのに『これは神様がくれたプレゼントの時間だ!』って嬉しそうに笑っていたんです」
そうして迎えた小さな家族。飼い主さんは、初めて会ったときから「トルテは私たちを選んでくれた」と感じているといいます。
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お迎え後、とくに根気が必要だったのが“食事の時間のルールづくり”でした。トルテくんは病院でも「とても好奇心旺盛」と言われるほど、なんでも気になる性格。特に夫婦の食事時には毎回興味津々で近寄ってきてしまうため、最初はケージに入ってもらっていたそうです。
「だけど、なんだかケージに入れてしまうのはイヤで…私たちの食事の時間を知らせる言葉を覚えてもらおうと決めました。『しょくじ』ではうまくいかなくて、『いただきます』に変えてから、しばらくして少しずつ行動が変わりはじめたんです」
言葉と音で伝え、できたら、やめられたら、すかさずほめる。そんな「思いっきりほめるコミュニケーション!」を根気よく続けました。ときには、トルテくんが届かないよう、立ったまま食事をとるという“ちょっとシュールな風景”にもなったといいます。
「しばらくすると、トルテが自分から別の場所へ移動するようになって。ようやく座って食べられるようになったときは、本当にうれしかったです。もちろん今でもニオイを確認しに来たり、ちょっと触ろうとしたりはしますが、『いただきます』を何度か繰り返すと、『わかってるよ〜』って感じでスッと移動してくれるんですよ」
この“ことばと気持ちを伝える”姿勢は、今もずっと大切にしているそうです。
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「猫がこんなに優しく、愛情深く、賢くて、たくさんの魅力にあふれていることを、恥ずかしながら以前は知りませんでした。私たち夫婦の物理的な活動範囲は、猫を迎えたことで少し狭まったかもしれません。ですが、心の目線や視点は、確実に広がっていると思います」
また、トルテくんから教わることもありました。
「私は仕事に入ると、つい休憩を忘れがちだったんですけど…トルテがそばにいることで、『ときどきは休んだり、伸びをしたりしていいんだよ』って教えてもらいました」
家族を失った悲しみを包んでくれたトルテくんーーこれからも一緒に
トルテくんは、現在推定3歳。おもしろい仕草や行動も多く、とても優しい子です。2023年にふたりの家族が永眠し、飼い主さんにとって辛い別れの年となりました。生活の変化に戸惑ったのは、トルテくんも同じだったようです。
「ストレスからか毛づくろいの頻度が増えて、腰のあたりの毛が薄くなってしまった時期もありました。それでも、私たちに寄り添い、悲しみを和らげ、笑顔のきっかけを作ってくれたんです」
とくに忘れられないのは、ある日、飼い主さんが突然泣いてしまったときのこと。
「私の顔をじっと見て、『大丈夫?』って言いたげな表情で、前足でそっと涙をぬぐってくれたんです。本当に驚きました。その瞬間、『ごめんね』と『ありがとう』の気持ちでいっぱいになったのを覚えています」
日々健やかに穏やかに過ごしてくれるトルテくんの姿を見ながら、あらためて「この命をつないでくれた方々への感謝」を感じているといいます。
「そして、辛い思いをする猫が少しでも減ってほしいと、心から願っています。大切にしたくて迎えたけれど、気づけば私たちのほうが守ってもらっている。そんな毎日です」
最後に、トルテくんに届けたい言葉は、やさしく、まっすぐなものでした。
「『いつもありがとう』と『ただ一緒に生きていこうね』と伝えたいですね」
(まいどなニュース特約・梨木 香奈)