中谷潤人が振り返る「少し力みがあった」西田凌佑戦 井上尚弥超えへ「異常なことをやっていかないと到達できない」

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2025年06月10日 10:10  webスポルティーバ

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【「力みがあった」試合、2ラウンド目にはアクシデント】

「西田選手を驚かせる意味で、『試合開始のゴングからパンチを思いっきり振っていけ!』という指示が出ました。打たれずに前に出る繊細な駆け引き、相手のパンチをもらわずに攻撃するという意識でしたが、少し力みがありましたね」

 WBCバンタム級タイトル4度目の防衛戦、及びIBF同級王者・西田凌佑(六島)との統一戦における中谷潤人(M.T)は、立ち上がりから非常にアグレッシブだった。LAキャンプで繰り返した左の打ち下ろしからの右アッパー・ダブルを繰り出し、ペースを握る。西田はガードを固めていたが、その外から、中からと容赦なくアゴへのアッパーが火を噴く。

 1、2ラウンドは問題なく西田を上回った。ただ、いつもの中谷のスマートなボクシングとは異なり、荒々しく、その姿には気負いが感じられた。

 全勝中の世界チャンピオン同士と言っても、30戦全勝23KOの中谷に対し、西田はその3分の1のキャリアしかなく、10の白星のうちノックアウトはわずかに2。ボクシングの本場であるアメリカ、隣国メキシコのジャーナリストやファンから熱い視線を浴びる中谷とは、実績もスケールも雲泥の差だ。

 だが、西田もひるまずに応戦し、世界王者としての矜持を見せる。3回の攻防ではジャッジ2人が、続く4ラウンドは3名全員が、IBF王者にポイントを与えた。

 試合を終えてから約5時間後、中谷はこう述懐した。

「実は、2ラウンド目ぐらいに左拳を痛めてしまったんです。左フックをやや外側から打ち、ちょっと当たりどころが悪かったんですよ。それで、左ストレートが出し難くなりました。

 また、3ラウンド前のコーナーからの助言が『接近しろ』でした。近づけば、西田選手の距離です。あちらは気持ちが乗って手数が増え、僕が受けてしまう場面が生じましたね。クロスレンジで打ち合う時、パンチをもらわずに攻めたかったので、そこは反省点です。

 彼のボディを打って、左に回れとも言われたのですが、パンチを出した後、止まってしまった局面もありました。西田選手は手が出ていたので、『見栄えがよくなかったな』っていう気持ちはあります」

【感情をコントロールしながら「削っていった」】

 バンタムに上げてからの中谷は、「体が勝手に動く」体験をしつつ、KO勝ちを重ねてきた。しかし、今回の統一戦において、それはなかった。すべてセコンドの声を聞き、かつ自身の頭で考え、狙いを定めた。

 6月8日の有明コロシアムは、中谷戦を想定して策を練りに練った西田が己を出しきった試合でもある。米スポーツ総合局『ESPN』も生中継したが、オンエア中、実況席では「ニシダとナカタニではパンチ力が違う」「ノックアウトは時間の問題」なる言葉が飛んでいる。それでも、劣勢に立たされた西田がポイントを奪ったラウンドも存在した。

 この日の会場にはWBA、WBOの同級王者である堤聖也(角海老宝石 ※休養王者)、武居由樹(大橋)もゲスト出演のため姿を現していた。西田は中谷の壁を越えられなかったが、他の2名の王者になら白星を挙げる可能性は十分にある――。そんな期待を抱かせる内容ではなかったか。少なくとも西田は、自身の価値を下げる戦いはしなかった。「最強の男と拳を交えたい」と中谷戦を望んだ西田はハートを見せたのだ。

「3、4ラウンドを終えてからは、流れを変えるというより、『ボディを打っていけ』というセコンドの声を聞いて淡々とやりましたね。リズムをつかめるようになると同時に、西田選手のダメージが感じられたので、『そこまで試合は長引かないな』と感じていました」

 5ラウンドの途中から、西田の右目の腫れが目立つようになる。場内アナウンスでは、「偶然のバッティングによるもの」と説明されたが、筆者には中谷のパンチによるものと感じられた。

「そういう判断が下ったのなら、バッティングだったんじゃないですかね。多少、頭が当たったところがありましたし。その後、こちらが目に当てたパンチもありました。西田選手の目が腫れる前の3ラウンドくらいでしたか、右肩を痛めていることがなんとなくわかりました。ですから、『そこを狙おう』と考えました。

 ダメージを与えていくことにフォーカスした戦いというか、西田選手はすごく気持ちが入っていましたから、『そう簡単には倒れないだろうな』と。力をこめた一発で倒すというよりも、削っていった感じです。ダメージを溜めさせるというのは、今回のテーマのひとつでした、胸とか肩とかに当てていけば、本当に相手が擦り減ることを学びましたね。僕のパンチが当たって効いていることが伝わってきたので、そういった回数を増やしていけたと思います」

 第6ラウンドが終了し、右目の塞がった西田は右肩脱臼を理由にレフェリーに棄権を申し入れる。試合終了とともに二冠王者となった中谷だが、さっそく課題も挙げながら、さらに自らのパフォーマンスを振り返った。

「空振りが多かったですね。強いパンチを当てていこうとして、肩に力が入った部分があります。前に出て戦うスタイルを選択しましたから、被弾もしました。今回は、フットワークをあまり使わずに相手をコーナーに追いこむイメージでした。どっちかというとベタ足で、ちょっとずつプレッシャーをかけていくみたいな。相手によって、足の運びも変わってきますよね。

 試合中にムキになると絶対によくないので、それだけは避けています。今回、感情のコントロールはできました。西田選手のボクシングを崩すには、ああいう打ち合いが必要だと考えたからこそ、計算の上でやったんです。第1ラウンドからいくっていうのも、チームと話しての戦略です。西田選手がどれだけの思いで僕との試合に臨んだかもわかりました。すべてが想定内でしたが」

【LAキャンプで行なった「異常」なメニュー】

現地時間4月20日からのLAキャンプで、中谷は合計268ラウンド、日本に戻ってからの半月でさらに60ラウンドのスパーリングを消化した。一日に18ラウンド、20ラウンドと、並の世界チャンプなら壊れてしまうほどのメニューだった。

「異常なことをやっていかないと、上のステージに到達できないと感じていますから」

 LAキャンプが始まった折、中谷はそう言った。静かな口調だったが、彼の決意は確かなものだった。そして、キャンプ終了時には「異常だと感じたものが、普通になってきました」と笑顔で話した。

「ああいう練習を乗り越えたので、初回から飛ばしても12ラウンドを戦い抜けるだけのスタミナもメンタルもあると確信しています。西田選手との試合では、自分のハードルを上げ、新しい中谷潤人を作り出していることを実感できました。成長し、幅も広がったと感じています」

 今回、中谷はファーストラウンドからエンジン全開で西田に向かっていった。もし、判定決着となったとしても、「あのままのペースで12ラウンドを戦えた」と振り返る。中谷の発した"異常なメニュー"をこなす理由は、もちろん"モンスター"井上尚弥(大橋)戦を見据えるが故だ。

 中谷は、これまでの歩みを回顧する。

「成功のカギは自分を律する力にあると考えています。ボクシングのトレーニングだけでなく、食事や睡眠、マッサージ、ストレッチなど生活全般で自己管理ができるかどうかが大きな差になるでしょう。トレーニング時の集中力も重要で、普段の生活でもひとつひとつ丁寧に物事をこなすことが大切です」

 バンタム級2冠チャンプとなっても、中谷は決して満足しない。中谷の当面のゴールは、"井上尚弥超え"だ。いかに自身に負荷をかけるか。刻一刻と、日本人頂上決戦のゴングは近付いている。

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