Pokemon GO Festは、年に1度屋外で開催される、Pokemon GO(ポケモンGO)の大型イベントだ。2025年は大阪府吹田市の万博記念公園で、5月29日から6月1日までの4日間で開催された。
こうした大型イベントで気になるのが、携帯電話のネットワーク対策。大勢のユーザーが集まるため、回線の混雑は避けられない。そこで、各キャリアは移動基地局車を配備したり、基地局の電波を増強したりして対策を実施している。
筆者は5月30日の午後からPokemon GO Fest 2025:大阪に参加してきたので、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルのネットワークがどれほど快適だったのかを検証した。
●下りはドコモが最速、auは上りと下りのバランスが良好
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5月30日は、午前の部が終了した13時〜14時にかけて、公園の出口付近から中央橋まで、長蛇の列ができてほぼ身動きが取れないほど混雑していた。公園自体は広大なので、1箇所に大量の人が集まって動けないような事態にはならなかったが、これまでのポケモンGO関連イベントの中でも、最多クラスの人数が集まっていたのではないだろうか。
今回は12時、14時20分、17時22分から約10分間ずつ、3回に分けて通信速度を測定した。測定にはOoklaの「Speedtest」アプリを使用し、下りと上りを3回ずつ測定した。測定場所は、公園の出入口に近いチームラウンジで統一している。
ドコモと楽天モバイルはiPhone 16 Pro Maxを、auとソフトバンクはiPhone 16 Proを使用しており、ソフトバンクはY!mobile、KDDIはpovo2.0(24時間データ使い放題のトッピング)を契約している。使用している回線は変わらないので、Y!mobileはソフトバンク、povo2.0はauとして表記する。
まずは12時からの結果を見ていこう。午前の部が終了する1時間前という佳境の時間帯だ。下り最速はドコモで、500〜700Mbps台の速度をたたき出したが、上りは10〜20Mbps台にとどまった。auは下りが200Mbps前後、上りも80Mbps前後出ており、4キャリアの中では最もバランスがよかった。ソフトバンクは下りが60〜100Mbps台、上りが20Mbps台を出しており、問題なく使用できた。
続いて、午後の部が始まった直後の14時20分に測定した。12時のときと傾向は変わらず、ドコモは下りが特に高速で、auが下りも上りもバランスのよい速度、ソフトバンクは下りが比較的速く、上りも問題のない速度が出ていた。
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午後の部が佳境にさしかかった17時22分からは、やや状況に変化が見られた。ドコモの下り速度は3回目が600Mbps台だったが、1〜2回目はやや速度を落として200〜300Mbps台だった(それでも十分な速度だが)。auは下りも上りも順調で変わらないが、ソフトバンクが上りも50〜60Mbpsと高速になり、4キャリアの中では最もバランスがよかった。通信環境をリアルタイムで見ながら、移動基地局車の電波の出力をチューニングしていたのかもしれない。
●移動基地局車最多はドコモ、KDDIはStarlinkを活用、ソフトバンクは高所作業車が目を引く
では、ここまで順調に速度が出ていたドコモ、au、ソフトバンクは、今回のイベントに際して、どのような対策を打っていたのか。
ドコモは、5G移動基地局車を3キャリアで最多の5台配備しており、うち1台はMMU(Massive MIMO Unit)を搭載しているという。MMUが導入しているMassive MIMOでは、通常の基地局よりも多くのアンテナを搭載しているため、人が密集する場所でも多くのトラフィックを処理できるようになり、パケ詰まりを防ぐことが期待される。
この他、ドコモは以下の対策を実施している。
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冬場からイベント主催者と現地検討を行うなど、イベントに合わせたエリア成形をしています。トレーナーが滞留する場所は、周辺基地局にもMMUを搭載するなど強化を行い、イベント開催中はリアルタイムでのエリア調整も実施いたしました。関西においては大阪・関西万博へも移動基地局車を配置する中で、他イベントと比べても今回最大数の移動基地局車を配置しています。
KDDIは、3台の移動基地局車を配備している他、移動基地局車の装置をMMUに切り替えるなど、機材をアップデートしているという。また、2023年に同じく万博記念公園で実施されたPokemon GO Festや、音楽フェスで実施した対策のノウハウも生かしているという。
万博記念公園は、ゲームエリア内でも起伏があり木々が多く細かい調整が必要であるため、以前に同会場で行われた、Pokemon GO Fest 2023や、夏に行われた音楽フェスの臨時対策を通して得られた知見をもとに、限られた車載型基地局でより多くのお客さまが快適に使えるようなエリア設計・調整を行いました。
さらに、衛星通信「Starlink」を活用した公衆Wi-Fiも導入しているという。
KDDIが提供するStarlink活用の公衆Wi-Fi「イベントWi-Fi」を導入いただいており、会場内で参加者向けにフリーWi-Fiエリアが展開されました。5G/4G通信とWi-Fi通信の両方でイベントの通信環境をサポートしました。
ソフトバンクは3台の移動基地局車を稼働させ、うち1台は、高所作業車を用いている。この高所作業車では、通常は11.8mのところ、アンテナを20mの高さまで上げることができ、より広範囲をカバーするようにした。高所作業車は2024年に仙台市の七北田公園で実施したPokemon GO Festでも導入しており、大規模イベントでは高所から広範囲をカバーする手法が有効のようだ。
この他、ソフトバンクでは以下の対策も実施している。
周辺の基地局もフル活用できるよう、現地測定を行いつつチューニングを実施しました。また、移動基地局車周辺にWi-Fiを設置し、トラフィックの負荷分散を図りました。さらに、イベント開催中もリモートで通信状況をモニタリングし、トラフィックが集中している場所があれば分散するよう調整するなど、状況に応じた運用を行うことで、ユーザー体感の向上に努めました。
3キャリアの回線でポケモンGOをプレイしてみたが、ポケモンの捕獲やレイドバトルなど、快適にプレイできた。ネットワーク対策が有効に機能していたことが分かる。
なお、万博記念公園は、2023年のPokemon GO Festでも会場だったが、3キャリアが配備した移動基地局車は、2023年よりも増やしているという。Niantic ライブイベント APAC マーケティングマネージャーの三宅那月氏によると、2024年の七北田公園は、基地局車を置いたときに干渉が発生しないようにすることが困難だった一方で、万博記念公園は面積自体が広いので干渉の課題はないものの、端から端まで電波をしっかり届けるところに苦労したという。
万博記念公園は広大な公園ではあるが、2024年の七北田公園と比べて平らな地形が多いため、「物理的な課題は七北田公園よりは少なかった」(三宅氏)とのこと。
「キャリアの方には、逼迫(ひっぱく)している箇所がないか、イベント期間中はずっと測定されています。弊社側にもネットワーク担当がおり、彼らがイベント期間中は測定して回りながら、問題になりそうな箇所があったら、キャリアさんに連絡させていただいています」(三宅氏)
●楽天モバイルが2024年に続き、厳しい通信環境だった理由
さて、ここまで、ドコモ、au、ソフトバンクの通信速度や対策について触れてきたが、残る1キャリア、楽天モバイルについても触れたい。まず通信速度について、3つの時間帯いずれも、下りと上りともに1Mbpsも出ず、常に混雑していた。17時台に1度だけ下り1.39Mbpsを記録したが、他は1Mbps未満で、Speedtestアプリではタイムアウトしてエラーになることも多かった。
肝心のポケモンGOも、アプリの起動すらままならないという状況で、楽天モバイル回線ではそもそもゲームをプレイできなかったのが実情だ。
まず事実として、楽天モバイルは移動基地局車を配備していなかった。イベントにおける移動基地局車は、キャリアが一方的に配備できるわけではなく、イベント主催者と調整をした上で配備する必要がある。つまり今回でいえば、Niantic側の了承を得る必要がある。
楽天モバイルが移動基地局車を配備しなかった件についてNianticに問い合わせたところ、具体的なコメントは避けたものの、「ポケモンGOのユーザーがお使いの通信会社の割合をもとに、現場での環境整備をしています」(三宅氏)とのこと。つまり、ポケモンGOにおける楽天モバイルのユーザーが少ないため、ネットワーク対策のオファーをしなかったようだ。2024年のPokemon GO Festでも楽天モバイルは移動基地局車を配備できず、2025年も残念ながら同様の状況となってしまった。
なお、楽天モバイルに確認したところ、Pokemon GO Fest 2025:大阪では、以下の通りネットワーク対策を実施したという。
当社は各イベント会場の状況に応じて、移動基地局(移動無線車)の設置や既存基地局のパラメータ調整(一時的に電波照射強度や範囲を変更)などを行って、つながりやすい環境を整備しています。
今回のイベントにつきましても、大人数が同時にアクセスすることを想定し、既存の周辺基地局のパラメータ調整を行っております。
引き続き、多くの人で賑わうイベント等でも安定した通信サービスを提供できるよう改善対策を検討してまいります。
可能な限り対策は打ったものの、想定を上回る参加者が集まったためか、やはり移動基地局車を配備できなかったことが響き、実使用に耐えない状況となってしまった。
なお、午後の部が終了した後の18時20分頃、万博記念公園出口にある、ららぽーとEXPOCITY周辺で通信速度を測ったところ、楽天モバイルは下り100〜200Mbps台、上りは5〜20Mbps台の速度が出た。この数値は、実は4キャリアの中では最も高かった。つまり楽天モバイルは、イベント開催中の公園の中だけ、極端に速度が出なかったのだ。
考えられる原因は、楽天モバイルのユーザーが大量に集まったため速度が出なかったか、公園内をカバーする楽天モバイルの基地局が少なかったかだ。だが、万博記念公園から出入口付近は高い建築物や障害物の少ない開けた場所で、公園内と出口付近でそこまで通信速度に差が出るとは考えにくい。そもそも、ここまで大規模な公園のエリア化が不十分であることはあり得ない。
実際、楽天モバイルのサービスエリマップを確認したところ、万博記念公園は5Gのカバーエリアなので、本来なら5Gの実力が発揮できるはずだ。やはり、局所的に楽天モバイルユーザーが集まったことが原因である可能性が高い。
Xを見ると、大多数とまではいえないが、Go Festの会場で楽天モバイルの回線がつながらないことに対する不満の投稿がいくつか見られた。
楽天モバイルの契約数は850万を超えており、もはや新興キャリアとはいえない規模感になりつつある。ポケモンGOのトレーナーの中にも、楽天モバイルがメイン回線という人も増えているのではないだろうか。
さらにいえば、万博記念公園の面積は約260ヘクタールで、甲子園球場の約65個分に相当する。2024年の会場だった七北田公園は約22ヘクタールなので、万博記念公園は約12倍広い。2024年は物理的な制約があったのかもしれないが、2025年は楽天モバイルの移動基地局車を配備する余裕はあったはずだ。
Nianticには「より多くの方に快適にご利用いただきたいと考えている」(三宅氏)との意向はある。楽天モバイルをメイン回線として使っているポケモンGOユーザーは、Nianticに対して、大規模イベントで楽天モバイルのネットワーク対策も行うよう、積極的に伝えた方がいいだろう。
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