
やなせたかし氏がモデルのドラマ放送で注目を集める高知。私フリーライター・スズキナオにとってはまだ未知の土地だが、取材を重ねるほどに、その奥深い魅力に引き込まれていった。本連載は、そんな高知をさまざまな視点から見つめ直す、全3回のシリーズ。
シリーズの第2回目として、大阪市北区・中津にある高知料理の専門店「わら焼き熊鰹 大阪中津店」にやってきた。ちなみに、第1回にも名前を出させていただいた京阪神エルマガジン社の編集者・藤本和剛さんに紹介してもらって知ったお店である。

2023年6月にオープンし、もうすぐ2周年となるお店で、本店は高知・・・ではなく、山梨県にある。また、この「わら焼き熊鰹 大阪中津店」の店主・坂口雄志さんは和歌山県のご出身だという。

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高知直送の新鮮なカツオを本場そのままのわら焼きで食べられるこのお店がどういった経緯で生まれたのか、また、どんなお客さんに喜ばれているのかなどなど、店主の坂口さんにお話を伺った。
――「わら焼き熊鰹」の本店は山梨の甲府にあるんですよね?
「はい。オーナーが山梨出身なので、地元を盛り上げたいと甲府にお店を出したんです。オーナーの奥さんが高知出身で、その縁もあって高知料理の専門店になったと聞いています」
――そして坂口店長は和歌山のご出身だとか。
「そうなんですよ。うちの店に来て下さるお客様は高知出身の方が多いんです。もともと高知に暮らしていて、今は大阪に住んでいる方ですとか。そういうお客様にいつも『高知出身なんですか?』って聞かれて『和歌山なんです』って言ってガッカリされるという(笑)」
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――ははは。そうなんですね。どういった経緯でこのお店を始めることになったんですか?
「もともと僕と甲府のオーナーは東京にある同じ飲食の会社で仕事をしていたんです。それぞれが独立して、僕も東京で九州料理のお店をやっていたんです。そこを閉めることになったタイミングで、この店の運営会社の社長が新たに大阪に店舗を見つけたという話があって、九州料理の店ではホルモンを扱っていたんですけど、それだと大阪ではインパクトが薄いなと。その時、オーナーはすでに甲府で『わら焼き熊鰹』をやっていたので、そのフランチャイズとしてオープンしたのがこの店なんです」
――なるほど、甲府で高知料理の店をやろうというオーナーのそもそもの発想も面白いですね。
「奥さんが高知の方だというのもあって、甲府のオーナーはよく高知に行く機会があったんです。そこで高知料理を深く知っていったんでしょうね。食材やお酒の仕入れ先とのつながりも一から作っていったんやと思います」
――その甲府のオーナーさんきっかけで高知料理の専門店でお仕事をすることになったというと、坂口さんにとっては高知の料理に関わるというのは初めての試みだったんですか?
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「そうです。ただ、初めては初めてだったんですけど、和歌山と高知って食べるものが結構似てるんですよ。同じ黒潮の海流があって、ウツボも、カツオも食べますし、食文化的に似ているところがあるんです。なので、まったく初めての食材を使いますっていう感じはなかったですね」
――そう言われてみると親和性が高そうですね。和歌山も高知もかんきつ類が豊富ですし。坂口さんは高知には何度か行かれたことがあるんですか?
「それが、まだ一回しか行けてないんですよ。お店をオープンする前、業者さんとの顔合わせで宿毛の漁港に行ったり高知市内の酒屋さんとお会いしたり、まだそのぐらいなんです」
――そうなんですね。でもそうやって高知の業者さんから仕入れをしているわけですね。
「はい。たとえばカツオなどの鮮魚は宿毛の与力水産さんから仕入れたり、高知市内の上町池澤本店という業者さんから仕入れることもあります。お酒も高知の鬼田酒店さんから送ってもらっています」

――こちらではカツオのわら焼きは通年提供しているんですか?
「はい。どうしても値段は上下することがあるんですけど。やっぱり、4月、5月の初ガツオか秋口の戻りガツオが旬ですね。最近はカツオの価格が若干高騰してきているのを感じます」
――高知出身のお客さんが来るとのことでしたけど、みなさん喜ばれますか?
「カツオがおいしいって言ってくださる方が多いのでありがたいですね。厚く切った塩たたきをわら焼きで食べられるというのはなかなか大阪でもないみたいなんです。うちではオーダーをもらってから焼き立てを提供しています」
――そうなんですね。焼きたてを食べられるのはうれしいですね。わら焼きはどこでやるんでしょうか?
「(厨房の奥を指差し)ここです。わらは新潟の臼井農畜産さんから仕入れています。わらはしっかり乾燥してないと煙ばっかり出ちゃうので、本店と同じ、信頼できる業者さんに送ってもらっています」
――わらで焼くとおいしいのは、なぜなんでしょうか。
「わらで焼くとやっぱり香りがつくんで、それが一番ですね。あと、火力も瞬間的に500度以上になるんで、おいしさが閉じ込められるというのもあります」

――わら焼き以外に、人気の品はありますか?
「ウツボの唐揚げですね。大阪ではあまり食べたことない方も多いんです。あとは四万十ポークを使ったミルフィーユカツとか、メヒカリの唐揚げも人気です。夏場になったら高知名物の『ちくきゅう』も出します。自家製ジンジャーエールは高知県の刈谷農園のショウガを使って甲府のセントラルキッチンで仕込んだものなんです」
――ショウガも高知産なんですね。
「甲府のオーナーは毎年11月に刈谷農園さんにショウガの刈り取りの手伝いに行っているんです。僕も今年は一緒に行けたらなと思ってるんですけどね。力仕事の後の打ち上げがすごく楽しいらしいです(笑)」
――「自家製ガリサワー」も気になりますね。おいしそうなものが色々ありますね。
「日替わりやおすすめメニューの方には、高知の料理以外のものもあります」
――本当ですね。馬肉のわら焼きもあるし、南高梅もありますね。和歌山的なメニューも。
「農家さんが塩漬けにした白梅なんで結構酸っぱいですよ」
――高知と和歌山のエッセンスが両方感じられるお店なんですね。ちなみに坂口さんが次に高知に行くとしたら何かしたいことはありますか?
「高知の食材を色々見てみたいですね。使いきれてない食材がまだまだありそうなので。『土佐はちきん地鶏』とか、なかなか高級で簡単に手が出ないんですけど、安く仕入れるルートがあればなと」
――ありがとうございました。最後に、月並みで申し訳ないのですが高知県のどこが好きですか?
「高知の方の人柄ですね。気前がいい、豪快というか、飲みっぷりもいいですし(笑)。お話し好きな方が多いんで、会話が楽しいんです。『高知のあの店がおいしかった』とか、高知の話を色々聞かせてくれたりするんです」
――高知愛の強い方が集まるお店なんですね。ありがとうございました!
坂口さんにお話を伺った後は、料理とお酒をたっぷり堪能させていただいた。火力たっぷりのわらで焼かれたカツオは表面が香ばしく、中は新鮮そのもの。

塩やポン酢も高知県産のものを厳選して使っているとのことで、それも味わいをより高めているのだろう。

また、歯ごたえがいい「ウツボの唐揚げ」をつまみながらいただいた「自家製ガリサワー」もおいしかった。刈谷農園のショウガのフレッシュな味わいがグイグイ飲ませる。

18時を過ぎるとお勤め帰りのお客さんで店内がにわかににぎわい始める。会社の多い中津エリアゆえ、週末よりも平日の夜の方がかえって活況なのだとか。店主の出身地である和歌山の梅干しをつまみつつ、もう一杯だけ飲んでいくことにした。

「わら焼き熊鰹 大阪中津店」(Instagram)
住所:大阪府大阪市北区中津1-17-12 メロディーハイム中津5番館109
営業時間:17時〜23時
休業日:Instagramの営業カレンダー投稿をご確認ください
※本記事は、ことさら出版との連携企画です。
スズキナオ(X/tumblr)
1979年生まれ水瓶座・A型。酒と徘徊が趣味の東京生まれ大阪在住のフリーライター。WEBサイト「デイリーポータルZ」「集英社新書プラス」「メシ通」などで執筆中。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーで、ことさら出版からはbutajiとのユニット「遠い街」のCDをリリース。大阪・西九条のミニコミ書店「シカク」の広報担当も務める。著書に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』『遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ』『家から5分の旅館に泊まる』(スタンド・ブックス)、『「それから」の大阪』(集英社)、『酒ともやしと横になる私』(シカク出版)、『思い出せない思い出たちが僕らを家族にしてくれる』(新潮社)、『大阪環状線 降りて歩いて飲んでみる』(インセクツ)。パリッコとの共著に『酒の穴』『酒の穴エクストラプレーン』(シカク出版)、『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』(ele-king books)、『“よむ”お酒』(イースト・プレス)、『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)。