ついにApple全デバイスが同じ操作体系に 共通の“皮膚”と“神経”を取り入れて新たな時代へ踏み出したApple

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2025年06月11日 06:11  ITmedia PC USER

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Appleのデザイン部門であるDesign Studioは、Liquid GlassのUIを設計するにあたって実際にガラスでこのようなオブジェを作ってガラスの光学的特性を研究した

 Appleが、開発者に向けて次期OSの未来を示す「WWDC」(World Developers Conference)。今回の「WWDC25」は、単なる機能紹介の場ではなかった。それは、Appleエコシステムの再定義を宣言する、歴史的な転換点だったと言えよう。


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 これまで個別の道を歩んできたiOSやmacOSなど6つのOS群は、バージョン番号を2026年のOSということで年号に従った「26」で統一。さらに、新デザイン言語「Liquid Glass」の採用により、iPhoneからMac、Vision Proに至るまで、全ての製品が初めて共通のルック&フィール、すなわち一貫した体験品質を共有することになった。


●Liquid Glass:全デバイスを包む“共通の皮膚”


 2007年のiPhone登場以後、Appleが提供するOSは、iPhone用のiOS、iPad用のiPadOS、Apple Watch用のwatchOS、Apple TV用のtvOS、Apple Vision Pro用のvisionOS、そしてそもそものAppleの出発点、MacのためのmacOSという6種類にまで増えていた。


 OSバージョンの統一は単なるブランディングの話ではなく、プラットフォーム間での機能対応状況が把握しやすくなるなどメリットも多い。


 統一された新しいOSブランドを、ユーザーが「体験」として実感できるようにするのが、全OS共通のデザイン言語として採用された「Liquid Glass」だ。表示されたWebページや写真、文章などを完全には覆い隠さず、その下に情報があることを感じさせる半透明で繊細なボタンやウィンドウフレームなどの操作系だが、その本質は見た目の美しさで利用者の注目を集めることではない。


 むしろその逆で、作業をしているとき、作業対象の写真や文章、Webページなどのコンテンツこそを主役として引き立たせることにある。その証拠に、ユーザーがボタンのクリックやウィンドウのドラッグなどの操作を終えると、スーッと姿を消す仕様になっている。


 このおかげで、iOSでのWebブラウジング中にはWebページがiPhoneの画面いっぱいに広がり、Macで文章を書いているとメニューバーはスーッと姿を消すといった具合だ。


 ちなみにOSのリブランドという視点で言えば、もう1つ見逃せないのがiPadOSの劇的な進化だ。初心者でも使いやすいようにアプリを起動すると、それが全画面に広がるのが基本だったiPadOSだが、MacなどのPCのようにアプリの画面をウィンドウとして画面上に複数並べられるマルチウィンドウでの利用に対応した。


 直感的な操作で、ウィンドウを画面の右の方にドラッグしていくと自動的に画面右半分の大きさになるなど、ウィンドウを開きすぎて画面がごちゃごちゃにならないような工夫を施しながらも、画面上にいくつものアプリを同時に開いておいて作業ができるようになる。


 また「ファイル」アプリを通してフォルダーなどを作成して書類を管理したり、書類をどのアプリで開くかを指定できたりと、画面上部には必要な時にメニューバーが現れ、画面下には必要な時にドックが現れる。このように、タッチ操作対応の有無以外でmacOSとどんな違いがあるのかが分からなくなるほど、できることの共通化が一気に進んだ。数年以内にmacOSとiPadOSは1つにまとまるのではないかと思わせるほどで、今後の成り行きが気になるところだ。


●Apple Intelligence:OSを貫く“神経系”の進化


 Liquid Glassが新しいApple OSの共通の「皮膚」だとすれば、その下でシステム全体に知性を宿らせる「神経系」と言えるのが、さらなる進化を遂げた「Apple Intelligence」だ。ユーザーの作業を中断させて対話を求めるタイプのAIではなく、OSの機能と深く融合し、私たちが日々行っている操作を、より賢く、より効率的に進化させる縁の下の力持ちのような存在だ。


 最近の対話型AIは確かにユーザーの意図を正確に読み取り、あらゆるタイプの情報を生成してくれるが、例えば書いた文章を校正させたり、文章のスタイルを変更しようとしたりするといった場合、いちいち文章をコピー&ペーストしてどのようにしたいのかをプロンプトとして打ち込む必要がある。


 言葉の通じない外国人とチャットをする際も、確かにAIを使って翻訳はできるが、いちいち相手の言葉をコピー&ペーストして「翻訳して」とプロンプトを打ち込む必要がある。


 Apple Intelligenceは、2024年の登場以来、それとは異なるユーザーが作業をするその場に組み込まれたプロンプト不要のインテリジェンスを目指してきた。


 文章スタイルの変更はワープロ画面でテキストを選んだ後、コンテクストメニューから「作文ツール」を呼び出し、「フレンドリー」「プロフェッショナル」などあらかじめボタンとして用意された文章スタイルをクリックして選択。表示された内容に満足したら、ワープロ上の文章をそれに差し替えるといった形で使う。


 一方、言葉の通じない相手とのチャットや、FaceTimeのビデオ通話でも新たに追加された「ライブ翻訳」というApple Intelligenceを使えば、文字でのやり取りなら翻訳文が一緒に表示されるようになり、ビデオ通話などでは相手が話し終わると、逐次通訳をしてくれる。


 どんなことでも頼める代わりに操作が面倒だったり、たまに偽情報が紛れ込んでいたりするので真偽を見極めながら利用する他社のAIとは異なり、AIの使い方として最も間違いがなく失敗しない用途を厳選して、丁寧に機能という形にまで落とし込んだのがデザインの会社、AppleのApple Intelligenceだ。


 おでんの種のようにいろいろな種類のインテリジェンスの集合体で、「これがApple Intelligence」と言える顔がないために実態の把握がしにくい難点は確かにある。だが、技術が苦手な人にも優しいデジタルツールを提供する会社のAI戦略としては極めて正しいと筆者は思う。


 ライブ翻訳と並んで重宝しそうなのが、画面上に表示されている写真などについて、さまざまな情報を教えてくれるビジュアルインテリジェンス機能の拡張だ。従来はカメラで撮影した書類の文字をテキストとして取り込んだり、植物の名前を調べたり、Googleでイメージ検索したりするための機能だったが、新たにスクリーンショットを撮る操作を行うと、開いていたWebページに表示されていたランプの部分を指でなぞって、その商品をネットで探し出したりできる。


 スクリーンショットを通して利用するビジュアルインテリジェンスで特に重宝しそうなのが、ソーシャルメディアに投稿されたイベントのチラシやポスターのイメージから日時や場所、イベント名などの情報を取り出し、カレンダーの予定を作成してしまう機能だろう。


 個人的には、これまでやや強制的に3種類のアクの強すぎる絵柄の利用を強いていたImage Playgroundが進化して、ChatGPTを使っての絵の描画もできるようになったので、その点にも期待している。


●スポットライト:ショートカットキー入力で完結する新しい操作体系


 Apple Intelligenceの方向性を強く感じさせる新しい機能として面白いのが、「macOS Tahoe 26」に搭載される進化したスポットライト機能だろう。


 検索機能のスポットライトは、これまでもMacのストレージ上のファイルを探したり、アプリ名の最初の数文字を打ち込んで起動したりといった使い方ができたが、新スポットライトでは予定やリマインダーの追加など、普段アプリを操作して行っていたさまざまなアクションをタイプして実行できる。


 例えば、「牛乳を買いに行く」という項目をリマインダーに追加することを考えてみよう。これまでだとリマインダーアプリを起動して、新規項目を作成して、項目を入力していた。しかし、同じ操作をスポットライトから行えばキーボードから手を離さずにこれを実行できてしまうのだ。


 これに進化した「ショートカット」機能を組み合わせれば、さらにできることが広がる。ショートカットは、ユーザーがよく行う一連の操作を一発で実行するものだが、macOS Tahoe 26からは、ショートカットの中にApple IntelligenceやChatGPTのAI処理を組み込めるようになった。


 そのため、例えば講義の録音をAIで文字起こしした内容と、講義中にとったノートを比較してノートを取り損ねていた部分を補う、といった複雑な一連の操作を登録し、何度でも実行できる。


 新スポットライトでは、こうやって作成したショートカットの一連の操作を、その操作につけた名前をタイプして実行可能だ。


 特によく行う操作について見ていくと、「リマインダー作成」は「Create Reminder」の略で「CR」、「メール送信」は「Send Mail」を略して「SM」など数文字のアルファベットとして登録しておくQuick Keysという機能が用意されており、呼び出しをさらに楽に行える。


 このスポットライト機能は、アプリの利用中も使用できる。例えばPagesなどのワープロで挿入した絵を選択して、スポットライトから「background removal(背景を削除)」とタイプする。するとタイプし終えなくてもPagesに組み込まれた「背景削除」機能が検索に引っかかるので、これを選ぶとキーボードからの操作だけで背景を消すことができる。


 あまり使わないアプリの機能は、たまにどこのメニューにあるのか分からなくなったり使い方が分からなくなったりして困ることがあるが、スポットライトはそういった問題も解決してくれそうだ。


 Appleはアプリ開発者たちに、このようなアプリではなく、アプリ内の機能を直接呼び出す機能(App Intentという)を用意するように呼びかけている。これに対応するアプリが増えれば、スポットライトからタイプするだけでさまざまな操作が行えるようになる。


 また、タイプして呼び出せるということは、当然、遠からずSiriを使って声を使っても操作できるようになるということでもあり、さらにはApple IntelligenceのAIがそれらの機能を活用できるということでもある。


 いずれPCやスマートフォンでは、何をやりたいかだけを伝えればAIがそれを理解して必要な操作を代行してくれるようになると言われているが、これらの機能はそういった未来を実現するための重要なステップということができる。


●Vision Pro:空間コンピューティングを加速させるアップデート


 WWDCに集まったデベロッパーをもう1つ驚かせたのが、Apple Vision Proの大きな進化だ。Apple Vision Proを被って行うビデオコールで表示される自分の分身、ペルソナの顔はよりリアルになり、遂にこれまでどこかに残っていた不気味さを感じないレベルに進化し、より自然にビデオ通話ができるようになっている。


 天気予報や再生中の音楽などを表示するLiquid Glass仕様の美しいウィジェットを、部屋の好きな場所に配置して楽しめる機能も魅力的だ。


 それに加えて「PlayStation VR2 Senseコントローラ−」も使えるようになり、より高度なゲームが楽しめるようになる。


 だが、それ以上に楽しみなのが米Logitech(ロジクール)の「Muse」というペンデバイスだ。空間に正確に線を描けるペンで、これを使って精密さが要求されるプロダクトデザインや建築設計の3Dデータを目の前で実物大で確認しながら修正を描きこんだり、オンラインビデオで共有できるようになったりすることで、Apple Vision Proの実用性が一気に向上する可能性が高い。


●丁寧な技術開発こそがAppleの誇り


 ネットを見ていると、Apple Intelligenceの進化が他社のAIの進化と比べて遅いといったことを批判する声もたまに見かけるが、私は今回のWWDCでの発表内容を見て正直安心した。最先端のAI技術を我先にと搭載するのは、GoogleやOpenAIなどの技術主導の会社がやることであって、Appleがやるべきことではない。


 Appleはシリコンバレーの中では数少ないユーザーをちゃんと未来に向かって前進させているかを深く考え、慎重かつ丁寧に技術を実装する存在であり、だからこそ技術好きの人だけでなく、技術に疎い人でも安心して利用することができる製品ブランドを築き上げてきた。


 ネットではWWDC前からAppleのAI採用の遅れをヒステリカルに批判する声がたくさん上がっていたが、そういった声に踊らされることなく、ブレずに丁寧に自信を持って提供できる機能だけを慎重に1つずつ発表していく姿勢には好感が持てる。


 特にAIのような技術は、依存度が高く下手をすれば我々の創造性を置き換えたり、創造する楽しさを奪ってしまったりしてしまう可能性すらある(どうしても最新のAI機能が使いたい人は、MacやiPhoneにChatGPTやClaudeのアプリをインストールすればよい。ただそれだけのことだ)。


 これに対して、Appleが先端AI活用の代わりに採用したスポットライトとショートカット機能の組み合わせなどは、ユーザーの思考を邪魔せず、手足の延長としてより多くの操作をより効率的にすることで、創造性をむしろ拡張していく機能に感じた。


 願わくば、WWDCに参加している世界中から集まった開発者たちが、この丁寧に(そして美しく)作るというAppleの価値観に共鳴してApp Intentを増やし、AI経由の操作が増える時代の下地作りを加速してくれることを祈っている。



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