多感で繊細な中学生。必要以上に前髪を気にしたり、制服の着こなしにこだわったり、使っている文房具からお弁当の中身まで「自分は世界中から見られている」という過剰な自意識が芽生えた経験は、誰しも身に覚えがあるのではないだろうか。
「寝グセ男子のやさしさに救われる話」としてSNSに投稿された漫画『マイペースと歩く』では、そんな可愛らしくも面白い、中学生たちの思春期がたっぷりと詰まっている。
作者は、自身の家族のユーモラスな日常を描いたエッセイ漫画『ご成長ありがとうございます』で話題になった三本阪奈さん(@mimoto19hanna)。初となるオリジナル作品にどう向き合ったのか、制作の背景について聞いた。(はるまきもえ)
◼︎“高橋”が“高橋”でいるために
ーー『マイペースと歩く』をXに投稿した際、印象に残っているコメントなどはありましたか?
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三本:意外と30 〜40代くらいの年齢の方からの反響も多くて、「同じ経験をしたわけではないけど、共感できる」という声をいただきました。主人公の近藤さんに共感してくれたのかな……と思って、嬉しかったです。
ーー以前はご家族のエッセイ漫画『ご成長ありがとうございます』を描かれていたかと思います。そこから一転、オリジナル漫画を描かれているわけですが、作品の制作はどう変化しましたか?
三本:エッセイは嘘を描けないので、「これ面白いぞ!」と思っても、いざ描くと「あれ、オチが弱いな……」と悩んでいたこともありました。それに比べて創作は表現の幅が広がるので、「なんでも描けるやん!」とすごくテンションが上がっていたんですけど、日常漫画なので想像で描いた話は作り話のようになっちゃって。絵に描いたような起承転結になってしまうというか、“リアルさ”が出せなくて。結局、私の体験や私生活から得たことをもとに描いていますね。
ーー本作は、前髪をよく気にする女子中学生・近藤と、いつも寝癖で登校してくるマイペース男子中学生・高橋の2人を中心に、物語が進んでいきます。作品が生まれたきっかけについて教えてください。
三本:私には中学生の娘がいるんですけど、授業参観などに行くとみんな「自分が見られている」ことを意識しているように感じていました。そんな時、道ですごい寝癖の男子中学生を見かけたんですね。あまり周りの目を気にしているように見えなかったので、希少な人物だなと(笑)。思春期でもいろんな子がいて、彼らの可愛らしさや面白さを描けたらと思い、この作品が生まれました。
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ーーたしかに、寝癖を気にしない高橋みたいな存在は逆に希少かもしれませんね。
三本:高橋は、もう完全に私の理想です(笑)。自分が中学生のときにこういう子がいたらよかったなっていう、当時の自分を救ってあげるような気持ちで描いています。
ーーそして、対局的な性格の近藤が生まれたと。
三本:そうですね。実は、高橋が自分らしくいられるのは、近藤さんや周りのみんなのおかげっていうのがあって。周りが高橋を認めている状況だからこそ、彼は彼らしくいられるんです。彼を見て笑うだけじゃなくて、受け止めて、リスペクトもする。そしたら、みんなもっと楽になれるんじゃないかなと思うんです。そんな近藤さんの姿勢とか態度にも、注目してほしいですね。
ーー作品を振り返って、気に入っているシーンはありますか?
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三本:高橋が、お昼にパンを食べているところですね。いままでは大きなコマで、重要なセリフをドンっと置くことはできたんですけど、こういうセリフなしの大きなコマで魅せるというのができなくて。ちょっと勇気を出して、「大ゴマで描けた……!」とすごく気に入っています。
ーーバゲットとジャムと窓に向けた机、すごく爽やかで高橋らしいひとコマです。今後作品に期待してほしいことなどあれば、お伺いしたいです。
三本:高橋も決して完璧な人間ではなくて、近藤に影響を与えられていくところというか、周りに助けられて自分がある、という部分は描いていきたいなと思います。彼は、自分の好きなことやしたいことに忠実に生きてきた人間なので、気になる女の子に初めて出会ったときにどう影響されていくのかも楽しみにしていただけると嬉しいです。
ーー高橋の恋の行方は、かなり気になりますね……!
三本:もともとナチュラルに思いやりがある人なんですけど、特別な存在ができたときに、彼なりの課題も出てくるのかなと。あとは中学3年生の1年間に絞って描いているので、ほかの登場人物がどこまで成長していくのかも期待してほしいです。
(文・取材=はるまきもえ)
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