サッカー日本代表とは大違い ワールドカップ優勝候補アルゼンチンは「消化試合」をいかに戦ったか

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2025年06月13日 07:10  webスポルティーバ

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 森保ジャパンは「ワールドカップ優勝」を目標に掲げたが、率直に言って、賢明とは思えない。準々決勝にもたどり着いたことがないチームに、見えない負荷がかかるからだ。

 ではワールドカップで優勝するとはどんな感覚なのか? 現王者アルゼンチンの強さを検証した。

 アルゼンチンは過去3回のワールドカップ優勝を誇り、前回大会の王者でもある。FIFAランキングはスペイン、フランスを抑えて1位で、シンプルに強い。戦術、システムなどに画期的なものはないし、整理されてもいないが、選手たちが戦況のなかでやるべきことを理解し、すさまじい集中力と意欲でプレーできる。荒々しいばかりの適応力で、順次、問題を解決できるのだ。

 彼らの象徴は今もリオネル・メッシ(インテル・マイアミ)で、神のような厳かな輝きを見せる。

 しかしながら、依存することはない。選手が一丸となって、アルゼンチンの勝利のために戦う。そのイデオロギーが戦術の根幹を担っているのだ。

 だからこそ、メッシが相手ボールになってフラフラと歩いていようとも、いくらでも周りがカバーする。メッシにはメッシの役割がある、という理解をしているからで、メッシ自身もそれをわきまえている。選手たちが腹をくくっているからこそ、よしんばメッシがいなくても、3月のブラジル戦のように勝利できる。ロドリゴ・デ・パウル(アトレティコ・マドリード)、アレクシス・マック・アリスター(リバプール)、エンソ・フェルナンデス(チェルシー)の常勝精神は強烈だ。

 カタールワールドカップで世界王者になったチームの守護神、エミリアーノ・マルティネス(アストン・ビラ)の敵アタッカーを挑発する駆け引きは、賛否が分かれるだろう。しかしそれは、批判を浴びようとも、"勝利のためにはなりふり構わない"というアルゼンチン人の正義を象徴している。自分を追い込んで勝負に挑み、神経を鋭敏にしているからこそ、6月4日(現地時間、以下同)のワールドカップ南米予選チリ戦でも1−0の勝利に導くスーパーセーブができたのだ。

【メッシの後継者も登場】

 決勝点もアルゼンチンらしかった。

 センターバックのフィードを受けたディオゴ・アルマダ(リヨン)がスペースを見つけ、一気にセンターラインをドリブルで越え、一瞬反応が遅れたチリDFをしり目に進撃。同じくラインの裏を狙ったフリアン・アルバレス(アトレティコ・マドリード)にパスを通した。アルバレスは完璧な抜け出しでGKと1対1になり、トップスピードのまま少しボールを浮かせてネットを揺らした。まさに電光石火だった。

 そして、彼らの不屈さが出たのは次のコロンビア戦(6月9日)だ。

 予選突破に向けて負けられないコロンビアに対し、アルゼンチンはなかなか得点が決められない。ルイス・ディアス(リバプール)に次々とディフェンスがかわされてしまい、先制点を失う。さらに70分には退場者を出し、ひとり少なくなった。万事休す、と思われたところで、アルマダが右足を鋭く振り抜き、同点弾を決めた。信じられないほどの勝負への執念だ。

「消化試合」

 すでに本大会出場を決めていても、そんな意識は彼らにない。もともと目標設定が本大会出場にはなく、目の前の試合に負けられないことにあるからだろう。絶対的な勝利至上主義の先に「ワールドカップ優勝」もある。どんなメンバーであれ、どんな状況であれ、それは変わらない。

 当然、ポジション争いもし烈だ。

 チリ戦では、17歳のフランコ・マスタントゥオーノ(リーベル・プレート)が代表デビューを飾っている。右サイドからカットインし、左足でゴールを"襲撃"。メッシもいつかは代表を去るが、後継者は控えているということか。マスタントゥオーノはすでにレアル・マドリードとの契約が内定し、バルセロナのラミン・ヤマルに匹敵するレフティーアタッカーとして"新時代の希望"と目される。

 率直に言って、森保ジャパンが勝てる気がしない相手だ。

 それは不思議な感覚ではある。なぜなら、メッシのような規格外の英雄を除けば、他の選手はレベルにおいて著しく劣ることはないからだ。たとえば同じポジションで比べて、右サイドアタッカーの久保建英はジュリアーノ・シメオネ(アトレティコ・マドリード)とは利き足もタイプも違うが、劣っていることはない。

 ただ、アルゼンチンは全力で久保を消してくるはずで、日本はシメオネに対して同じことができるか。チーム力の差だ。

 アルゼンチンの獰猛さや抜け目なさは南米特有で、日本人は苦手とするだろう。アルバレスやラウタロ・マルティネス(インテル)が、どんな体勢からも打ち込んでくるシュートを防げるか。また、ひとりひとりのディフェンダーがタフでしつこいなか、日本のアタッカーはシュートまで持ち込めるか。たとえ技術で上回っても、ギリギリで体を張ってくる相手にかなり手こずるはずだ。

 日本の難しさは、代表レベルで相応の鍛錬ができない点にもあるかもしれない。

 アジア最終予選の最終戦で日本はインドネシアと対戦したが、"かませ犬"にもならなかった。日本は出し手も受け手も、ほとんど自由にプレーできていた。たとえば6点目は、サイドを駆け上がる俵積田晃太が無人の野を行くが如し、だった。ペナルティエリア内の日本人選手もシューターが立て続けにフリーになっていた。

 世界の強豪との戦いで、こんなことは決して起こらない。

 インドネシアは、かつてのオフトジャパンの発足当時の日本に近いか。スペインのような国のクラブチームに胸を借りたら、4部相手でも勝ちきれない。技術的、戦術的、体力的、あらゆる点で未熟だった。

 つまり、消化試合ひとつとっても、アルゼンチンと日本では大きな差がある。アルゼンチンは、チリ、コロンビア戦を乗り越えて強くなっている。一方で、日本はオーストラリアに敗れ、不具合があぶり出されたが、インドネシア戦の大勝でその不具合は覆い隠されるだろう。

 日本は常に世界と戦うイメージを失ってはならない。厳しく自省できるか。さもなければ優勝はもちろん、過去最高のベスト16も危うい。

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