
築浅のアパートで一人暮らしをするAさんは、どこにでもいるような普通の大学生です。自宅ではベッドに横になり、スマートフォンの画面を眺めるのが日課でした。
【写真】会社の不正を「内部告白したい」→そのSNS投稿、ちょっと待った! “反撃のダメージ”受けにくくする方法が話題
ある日の午後、いつものようにベッドに寝転がりSNSのタイムラインを指でなぞっていたところ、Aさんの目に1件の投稿が飛び込んできました。投稿の内容は、とある人物に関する「悪事」とされる情報を時系列にまとめたものだったのです。
Aさんは投稿を最初から最後まで読み終えたあと、社会の不条理に対する憤りを感じ、「もっと多くの人が知るべきだ」と使命感のような感情に突き動かされます。情報を自分のフォロワーにも知らせるために、投稿を自身のアカウントでシェアしました。
Aさんのシェアした投稿は、友人たちからの反応も大きく、「こんなことがあったなんて知らなかった」「許せない」といった共感のコメントが寄せられ、Aさんの正義感はさらに強固なものになっていきます。
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数日経ったころ、Aさんは元の投稿が削除されていることに気づきます。どうも悪事を働いていたとされる人が、投稿主を名誉毀損で訴えたために記事が削除されたようです。投稿内容には事実に反する虚偽の情報が含まれていた可能性が高いという話も目にしました。
もし虚偽の情報であるとしたら、Aさんのシェアした内容も訴えられるかもしれません。正義感から行った行為とはいえ、Aさんは自分が追い詰められるとは思っていなかったのです。このままAさんが訴えられる可能性はあるのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
明日は我が身かも…“シェア=罪”の可能性は
ーシェアやリポストだけで罪に問われる可能性はありますか
シェアやリポストだけでも罪に問われる可能性はあります。元の投稿が他人の名誉を毀損する内容であった場合、それをシェア等する行為も名誉毀損罪(刑法230条)に該当する可能性があるからです。また、具体的な事実が示されないまま侮辱的な内容となっていれば、侮辱罪(刑法231条)に問われる可能性も考えられます。
重要なのは、元の投稿を作成した人だけでなく、それを拡散させた人も、その拡散行為によって法的な責任を負う可能性があるという点です。
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ー過去の判例や事例はありますか?
東京地方裁判所令和3年11月30日判決では、名誉毀損に当たる投稿をシェアした行為について法的責任の可能性を示唆しています。前後の投稿や、シェアを行ったときのコメントによって、名誉毀損に当たる投稿に賛同しているとみなされると、責任に問われる可能性があります。
逆に、投稿に対して異を唱える形でシェアをした場合には、法的な責任を負う可能性は低いと考えます。
ー法的な責任を避けるために気を付けるべき点はありますか
情報が本当に信頼できるものか、発信元は誰かを確認しましょう。個人の告発やセンセーショナルな内容は、鵜呑みにせず、複数の情報源で裏付けを取るよう心がけてください。
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他人の名誉やプライバシーを侵害していないか、差別的な表現やヘイトスピーチを含んでいないかを冷静に判断するのも重要です。強い感情に流されて、反射的にシェア等するのは控えましょう。その情報が広まることによって誰かが傷ついたり、不利益を被ったりする可能性がないか、一呼吸置いて考える習慣が大切です。
正義感から情報を広めたいと考えるお気持ちは理解できるものの、情報が不正確であった場合、意図せず加害者になってしまうリスクが伴う点は忘れないようにしましょう。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)
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