「5月30日、自民・公明両党と立憲民主党が提出した、基礎年金底上げ案を盛り込んだ『年金制度改革法案』が、衆議院で可決されました。
少子高齢化の影響で、基礎年金の給付水準は30年後には3割減になると予想されており、非正規雇用の多い就職氷河期世代や自営業者などの生活が成り立たなくなります。
そのため、厚生年金の報酬比例部分の給付水準を下げ、その分、基礎年金の受給額を底上げしようとしているのです」
こう語るのは、社会保障に詳しい関東学院大学経済学部教授の島澤諭さんだ。
「基礎年金を底上げするには、250兆円を超える厚生年金積立金のうち、65兆円を基礎年金のために流用する必要があるため、会社員からの反発が予想されます。
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参議院選を控えていることから、自公は一時期、同案を取り下げたのですが、立民党の要請で復活。
団塊の世代に次いでボリュームの大きい団塊ジュニア世代を中心とした就職氷河期世代の票を取り込みたいのだと思います」
年金博士こと社会保険労務士の北村庄吾さんも、こう補足する。
「年金はバブル時代に保険料がたくさん集まり、職業ごとに積立金を運用して年金システムを持続させてきました。
ところがバブル崩壊による低金利で、運用が困難になりました。
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国鉄共済が破綻したときも、資金的に余裕のある厚生年金に統合された経緯があります。2015年には公務員共済、私学共済も次々に厚生年金と一元化。
これまでも姥捨て山のように継続困難な年金制度を押し付けられてきた厚生年金が、ついに国民(基礎)年金も助ける形となったのです」
では、基礎年金底上げによって、私たちの年金にどれほどの影響が出てくるのだろうか。
「今回の措置では1階部分(基礎年金)が底上げされ、その分、階部分(厚生年金の報酬比例部分)が減額されるので、報酬比例の割合が大きい高所得者ほど減額の影響が大きく、報酬比例の割合が少ない低年金の人ほど恩恵は大きくなる傾向があります」(島澤さん)
具体的な数字に関しては、厚生労働省が、実質ゼロ成長の経済状況を仮定して、モデル世帯の男女が65歳から平均寿命(男性85歳・女性89歳)まで年金を受給した場合の、年金受給総額の増減額を試算している。
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たとえば今年度50歳を迎える1975年生まれの男性は、年金受給総額が170万円増え女性は219万円増える。
年齢を重ねるごとに増加額は減少していき、男性の損益分岐点となる63歳(1962年生まれ)からわずかに受給総額が減り始め、65歳(1960年生まれ)は12万円減、70歳(1955年生まれ)は23万円減となる。
女性の損益分岐点は67歳(1958年生まれ)からで、年金総額はわずかなマイナスとなり、70歳(1955年生まれ)は16万円減額される結果だった。
年齢ごとに細かく基礎年金額・厚生年金額を仮定した別の試算も。
たとえば基礎年金を6万8000円、厚生年金を13万2000円もらっている女性の場合、現在65歳(1960年生)なら102万円も減額されてしまう。また、55歳(1970年生)なら24万円の減額になる。
こうした基礎年金底上げの実施は、2029年に厚労省が発表する“年金の健康診断”と呼ばれる財政検証の結果で判断される。
「昨年の出生数が初めて70万人を割り込んだことからも、年金財政はますます厳しい状況であるため、基礎年金底上げは既定路線となりそうです。
就職氷河期世代を救済するため、親世代の年金が減る試算ですが、厚生年金積立金流用のほか、70兆円もの税負担もあることを忘れてはなりません」(島澤さん)
あらたな税負担も、私たちが負うことになるのだ。
■「基礎年金底上げ」以外にもさまざまな負担増の案が!
前出の北村さんは、年金保険料に目をむける。
「標準報酬月額(4〜6月の平均報酬月額)によって、厚生年金保険料は計算されています。
現在、標準報酬月額の上限は65万円で、それを超えても保険料は上がりませんでしたが、2027年9月から上限額を68万円、71万円、75万円と段階的に引き上げる方針です。
厚労省は、上限を71万円にした場合は年約6万6000円、75万円となると年約11万円も保険料が上がると試算しています」
ファイナンシャルプランナーの内山貴博さんは、加給年金制度の変更点に関して解説する。
「厚生年金加入者(20年以上)が65歳になると、配偶者が65歳になるまで加給年金として年41万5900円を受け取れます。
ところが2028年には加給年金が1割減額される予定です。
夫65歳、妻60歳の場合、現行であれば約208万円受け取れますが、改正されると約187万円に減額されます」
配偶者と死別した場合、厚生年金の比例報酬分の4分の3を受け取れる遺族厚生年金も、制度が一部変更される。
「現在、30歳以上で配偶者と死別すると、遺族厚生年金は生涯受け取ることができ、30歳未満での死別では5年しか受け取れませんでした。
しかし2028年からこの基準となる年齢を40歳未満にして、20年かけて段階的に60歳未満まで引き上げる方針です」(内山さん)
“100年安心の年金制度”といいながら、延命のための負担増は今後も続くのだ。
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