高校時代は控え投手 中京大・大矢琉晟&沢田涼太が大学選手権で見せた大器の片鱗

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2025年06月21日 07:30  webスポルティーバ

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大学野球選手権大会で見つけた5人の好素材(前編)

 東北福祉大の7年ぶり4回目の優勝で幕を下ろした第74回全日本大学野球選手権大会。バックネット裏には連日プロ球団スカウトが押し寄せ、有望選手のプレーに目を光らせていた。

 今大会は立石正広(創価大・二塁手)、堀越啓太、櫻井頼之介(ともに東北福祉大・投手)、伊藤樹(早稲田大・投手)、中西聖輝(青山学院大・投手)、小田康一郎(青山学院大・一塁手)、大塚瑠晏(東海大・遊撃手)といったドラフト候補が登場した。

 ドラフト戦線のメインストリームを走る彼らをよそに、異彩を放ったニューフェイスもいた。今回はそんな5選手を前・後編に分けて紹介していこう。

【全国大会で大学初勝利】

 今大会で最大の衝撃と言ってよかったのは、大矢琉晟(中京大)の台頭だ。

 中京大には高木快大(はやと)というドラフト上位候補の大エースが君臨するが、今大会はコンディション不良のため登板を回避した。ところが、結果的に高木の不在が、中京大投手陣の層の厚さを際立たせることになった。

 6月11日、2回戦の近畿大戦で先発したのが、大矢だった。今春のリーグ戦登板したのはわずか4試合、4回1/3のみ。不振のため、ベンチから外れた試合もあった。

 大矢は最速155キロ(ブルペンでの計測)の速球派右腕として一部で話題になっていたものの、中京大が誇る高木と伊藤幹太(2年)の二枚看板の陰に隠れる存在だった。

 しかし、東京ドームのまっさらなマウンドに立った大矢は、風格すら漂わせていた。身長178センチ、体重82キロの均整の取れた体格で、スリークォーターから力強く右腕を振る。立ち上がりから3球連続で151キロをマークしたが、ストレートの勢いと球威は間違いなく今大会トップクラスだった。

 大矢は7回を投げ、被安打3、奪三振8、与四死球0と圧巻の内容で無失点に抑えた。球数はわずか86球である。

 試合後、大勢の報道陣に囲まれた大矢は、大事そうに硬球を握りしめていた。

「ウイニングボールをもらったのは初めてなので、うれしいです」

 リーグ戦でも勝利投手になったことがないのに、全国舞台の大一番で大学初白星を記録してしまった。

【高校時代は畔柳亨丞の控え】

 しかも、相手は大学屈指の強打線を擁する近畿大である。ドラフト候補の勝田成、野間翔一郎、阪上翔也と能力の高い左打者がズラリと並ぶ。1回戦の神奈川大戦では12安打8得点を記録し、7回コールドで圧勝している。

 強打線を相手に恐れを抱くことはなかったのか。そう尋ねると、大矢はあっけらかんとした様子で答えた。

「そんなになかったです。動画で見て、いい左バッターが揃っていることと、積極的に振ってくるのはわかっていたんですけど、むしろ振ってくれるほうがいいなと思っていました。自分の真っすぐで押していけると思っていたので」

 報道陣との受け答えをする大矢を観察してみる。淡々と質問に答える大矢は、ウイニングボールを右手の人差し指と中指の間で頻繁に挟んでいた。ウイニングショットである、フォークの握りである。おそらく無意識なのだろうが、このフォークも近畿大打線を牛耳る一因になった。

 中京大中京高では3年春のセンバツに出場したものの、背番号2ケタの控え投手だった。エースは畔柳亨丞(現・日本ハム)。当時の大矢は最速141キロで、サイドハンドの投手だった。

 大学2年春の終わりに右ヒジを手術し、自身の投球フォームを見つめ直す時間ができた。そこで腕を振るアングルを高くして、現在のスリークォーターに落ち着いた。

 この日の快投は、自分でも驚くような一世一代の投球だったのか、それとも実力を発揮できただけなのか。そう尋ねると、大矢は毅然とした口調でこう答えた。

「もともとボール自体には自信があったので。リーグ戦での力をそのまま、今日は出せました」

 実戦での最高球速は153キロ。報道陣から今後の進路を問われると、「プロ一本です」ときっぱり答えた。秋にかけて実績を積み重ねることができれば、その評価はさらに上昇していきそうだ。

【プロ注目の大型左腕に成長】

 中京大の投手陣で存在感を示したのは、大矢だけではない。リリーフ左腕の沢田涼太もスケールたっぷりの投球を見せた。

 身長190センチ、体重93キロのたくましい体格。上体をくの字に折って体重移動し、スリークォーターの角度から左腕を振る。球速的には140キロ台前半から中盤がほとんどだが、微妙にボールが動く「ムービングファストボール」である。2回戦の近畿大戦では、今春に安打を量産した勝田のバットを折って、一飛に抑えている。

「自分のボールが動くのは、直すのではなく、持ち味として伸ばしていきたいです。きれいな真っすぐではなく、『強く動かす』ことを意識しています」

 左打者にはスライダー、右打者にはツーシームとフォークを配して、打たせて取る投球もできる。ただ勢いまかせに投げるタイプではない。

 享栄に在学した高校時代は、同学年に竹山日向(現・ヤクルト)、菊田翔友(現・中日)といった好投手がおり、沢田の注目度は高くなかった。中京大で急成長し、最速148キロの大型左腕として知られるようになった。

 しかし、今春のリーグ戦では大矢と同様に、登板機会は限られた。沢田も4試合、5イニングに投げただけ。沢田は苦しい胸の内を明かす。

「みんないいピッチャーなので、なかなか後ろで投げる自分に出番がなくて。チームが勝つのが一番なんですけど、いつもブルペンで試合が終わるので複雑でした」

 中京大を指揮する半田卓也監督も、投手起用の葛藤を明かしている。

「大矢も沢田も力があるピッチャーですし、自信を持って送り出せる存在です。沢田は今シーズンずっと状態がいいんですけど、リーグ戦ではどうしても高木と伊藤が安定していて、展開的に長いイニングを投げさせてやれていません。ほかにも経験を積ませたいピッチャーもいて、なかなか難しいですね」

 大学選手権では、沢田は3試合すべてでリリーフ登板。計3回1/3を無失点に抑えた。沢田は「どういう場面でもいける準備はしていたので」と胸を張った。

 登板機会が限られると言っても、沢田の心中には納得感がある。それほど同期であり、主将でもある高木の存在は大きいのだ。

 高木の何がすごいと思うかと尋ねると、沢田はこう答えた。

「どんな試合でも、同じようなパフォーマンスができることです。能力がすごいのはもちろんなんですけど、その日の調子がどうであれ、きっちりと仕事をして帰ってくる。それが高木のすごさだと感じます」

 一方で、沢田には沢田の魅力がある。技術だけでなく、フィジカル面も「ほかの選手と比べて劣っている」と本人は語っている。その未完成な部分こそ、沢田の魅力と評価するスカウトもいるはずだ。

 今後の希望進路について聞くと、沢田はこう答えた。

「プロ志望届を出したいと考えています。自分の評価はまだ高くないと思うので、育成(ドラフト)だろうとプロに行きたいです」

 高木が大学選手権で登板できない暗いニュースがあった一方で、隠れていた才能が出現したことは一筋の光明になった。大矢琉晟と沢田涼太、ふたりのシンデレラストーリーは始まったばかりだ。

つづく

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