
『【11の成功例でわかる】自分で自分の介護をする本』(小山朝子/河出書房新社)では、介護福祉士資格を持つ介護ジャーナリスト小山朝子さんが、介助が必要になっても一人暮らしを実現している人や、それを支える人の事例を、当事者へのインタビューをもとに再構成し紹介しています。
今回は本書から一部抜粋し、有本悦子さん(87歳)が利用した介護サービスと、その後の変化についてお伝えします。
悦子さんは4年前に夫を亡くしてから一日中ぼんやりすることが増え、加えて難聴から来る孤独感、疎外感にも悩まされていました。そこで、息子に相談し病院を受診、併せて生前に夫が依頼していた居宅介護支援事業所にケアプランを依頼しました。
デイサービスを利用してみたものの
悦子さんは介護保険の申請をおこない、「要介護1」と認定されました。
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不破さんから、「悦子さんが閉じこもりがちになっていることが気になっている」といわれ、通所介護(デイサービス)を利用してはどうかと提案されました。
悦子さんはあまり乗り気ではありませんでしたが、不破さんの提案を断るのも申し訳ないと思い、一度利用してみることにしました。
デイサービスは自宅と事業所間の送迎をしてくれるうえ、看護師が血圧の測定などもしてくれるので健康の管理もできます。ひとり暮らしでお茶漬けやおにぎりなどで簡単に食事を済ませることが多かった悦子さんにとって、デイサービスで出される食事はいつもとは目先が変わり満足できるものでした。
ところが、もともと社交的なタイプではない悦子さんにとって利用者同士でゲームをしたり、おしゃべりをしたりするレクリエーションの時間は楽しむことができませんでした。結局、3か月ほど利用しサービスは中止しました。
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訪問介護を通じて人との関わりを持つように
不破さんからは、「トレーニングに特化した、3時間程度の短時間型デイサービスもありますよ」と紹介されたのですが、悦子さんは断りました。「通所介護を中止すると誰とも関わらなくなってしまう。週に一度でもヘルパーさんにきてもらってはどうか」という新たな提案は受け入れ、現在は週に1回だけ訪問介護を利用しています。
不破さんは月に1回悦子さんの自宅を訪れ、訪問介護のサービスの様子や悦子さんの体調について確認しています。
不破さんはうなずきながら耳を傾けてくれました。さらに「心療内科の医師にも相談したうえで」と前置きをし、悦子さんに「精神科訪問看護を利用してみてはどうか」と聞いてきました。
精神科訪問看護の利用
悦子さんは、精神科に特化した訪問看護という点にメリットを感じて、医師に相談し、サービスを利用してみることにしました。
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さらに、夫が亡くなってからの自分の心の変化や体に現れた症状についても、メモをとりながらじっくりと聞いてくれました。
悦子さんは看護師に話を聞いてもらうことで、自分自身の気持ちの変化を客観的に受け止めることができました。
補聴器購入で気持ちも前向きに
後日、看護師から「聞こえづらさが軽減できるかもしれないので、補聴器を試してみてはどうか」とアドバイスを受けました。補聴器を購入するにあたり助成金を出している自治体もあり、悦子さんが住んでいる地域でも助成金を申請することが可能でした。補聴器を購入した際、販売員から難聴を改善するための「聴覚リハビリテーション」を実施している医療施設があると聞き、興味をもちました。悦子さんは少しずつ自分が前向きになっていると感じています。
小山朝子 プロフィール
東京都生まれ。小学生時代はヤングケアラーで、20代からは洋画家の祖母を約10年にわたり在宅で介護。介護福祉士の資格も有し、ケアラー、ジャーナリスト、介護職の視点からテレビなどの各種メディアでコメントするほか、ラジオのパーソナリティーをつとめるなど多方面で活躍。前著『ひとり暮らしでも大丈夫!自分で自分の介護をする本』(河出書房新社))も好評。日本在宅ホスピス協会役員、日本在宅ケアアライアンス食支援事業委員、東京都福祉サービス第三者評価認証評価者、All About 介護福祉士ガイド。(文:小山 朝子)